第90話 狙いは合っているのか?
少し高そうな飲み屋に入ったカセムと爆弾魔の冒険者は透明な高級酒を飲みながら爆破する予定の工場について話し合っていた。
「それにしてもそんなあどけない美少女にしか見えないのに爆弾魔で酒も飲みまくるとかとんだロリ……だな」
カセムはうっかり口を滑らせそうになったがほとんど喋ってしまっているので急ブレーキをかけた意味は特に無いように思われる。
「そんなに若く見えているのにこうやって酒を飲んで一緒に飲み屋でいられるんだからこういうのを目当ての客も多いんだよ」
「そう。問題は工場に潜入する時だ。学生の入社前の見学とでも言うつもりか?」
「いや。それじゃあバレやすいし、注目されてしまう。潜入にならないね」
「ならどうするんだ?」
「実はもう手筈は整えてある。あの工場に勤務している清掃員で私の知り合いの人がいてね。その人は都合の良い事にこの国に愛想を尽かして東の国に行くって言ってるんだ。
ちょうど、作戦の決行日に王国の馬車に乗せてそのまま東部に連れてってくれたらそれを協力報酬にしてくれたのでいいって言ってたよ」
「なるほどな。そういう事なら許可しよう。ついでに金もある程度は払おう。東部の国でも金は必要だからな」
「だよね。王国みたいにすぐに生きるのに困らないようになったりはしないし。ねえ、いつになったら王国みたいな国ばかりの世界になるの?」
「それは俺にも分からんがあと何百年かそれ以上はかかるんじゃないか? 何せ、中枢国なんて古代から民の考え方がほとんど変わっていない」
「はあ。でも私も王国に住めって言われたら何か、住みずらい感じがするんだよね」
「う~ん……まあなあ。お前でも少ししんどいか。王国民になるのなら何年か、かかる気はする」
「でしょ? だから比較的、王国に近い国が多い東部に行こうかなって思うんだよ」
「確かにあそこなら鉱物資源が多いので爆破作業が出来る人間は重宝されるところもあるからな」
「そういうこと。魔法だけじゃ世の中うまく行かないでしょ?」
「それはそうだが、お前は魔法を使いたいとは思わないのか?」
「見たことも無いし、使えるかどうかも分からないし。でも、使えるようになるのなら使ってみたいかも」
「そうか。なら東部の国の中には魔法の適正を調べて教育する機関もあるからそこへ行ってみてもいいだろう。と言っても、爆弾を扱ってないとおかしくなるか」
「それはそう。私って爆弾を毎日、触ってないとおかしくなるからね。危ない感じがするのがいいんだよ」
「普段から危ない仕事をしているのに危険なものを扱うのが好きとは何とも」
「仕事でも危険な大きさのものを扱う事もあるけどね。そうそう。部下のライリーだっけ。一緒に仕事をしている娘が凄かったって言ってたよ」
「そうなんだよ。前の世界じゃほとんど出番が無かったって言ってたな。ライリーのいた世界ってのはつくづく理不尽だったようだ」
「普通、あんな良い男って放っておいても勝手に女が近づいて来て困るのが普通なのに向こうの世界はおかしいんじゃない?」
「ああ。おかしいな。俺も王国の研究所でライリーのいた世界の映像を見た事があるが何というか、善人が怪しまれて避けられていて、悪人に人が寄ってんだよな」
「そんなところに生まれなくてよかったよ。この世界にもそういう所はあるけど、王国とか良い国が沢山あるからね」
二人の言っている事は実に的を得ていると思わないだろうか? 悪人が善人に仕立て上げられ、もてはやされる。逆に善人は悪人に仕立て上げられ、疎まれる。
異世界が夢物語ではなく、現実に存在する世界であればどうだろうか。今いるその世界というのは本当に正しい世界なのか、それとも地獄が形を変えて姿を現わしているのではないだろうか。
はたまた、世界とは刑務所のようなものであるという人もいる。それが現実であればライリーの転生した世界は民が自分の能力に応じて幸せになる事も出来るので自由の身になるというのは思いのほか難しい事なのかもしれない。
「さて、大物を相手にする話の続きだが例の工場にお前は清掃員として潜入するとして、もう一人もいたと思うんだがそいつはどういう手筈になっているんだ?」
「うん。そっちはね、渋い大男だから作業員のフリをしてもう働いているよ。もう爆弾の設置位置は目星が付いているんじゃないかな?」
「何から何まで、実に手際が良いな。報酬も弾むぞ」
「王国軍は金払いが凄くいいからね。それに私もそいつも未知の世界と本当の自由ってのを分かりたいって思ってさ」
「なるほどな。そういう事なら王国に来たいのなら思ったより早く来れるかもしれないな。東部の国によっては予想よりも早くレベルが上がるような事もあるかもしれないし、そういう意味では期待してもいいかもしれないな」
「本当? う~ん。でも私ってそんなに王国に行きたいというわけじゃないのかも?」
「まあ、それは次の国でしばらく暮らせば見えてくる事だと思うぞ。王国へは誰でもそうだが焦って行っても住みにくいだけだし、人には向き不向きというものがあるからな」
二人の話はその後も雑談を交えて進み、明後日にでも合流して作戦が決行できればいいのではないかという話になった。
とはいっても、今回の作戦は焦ってもロクな事にならないばかりか王妃との兼ね合いもある。決行日は慎重に決めねばならないのだろう。
「さて、話はある程度、まとまったな。今、俺たちはこの国の王妃とも接触している事は把握しているか?」
「え? そうだったの。知らなかったよ。朝廷の方は昔からしきたりや決まった動きしかしていない感じだったし、情報統制が厳しいからね」
「だろうな。俺たちも姫の動きを千里眼を使って監視しているんだが家臣にかなり怪しまれているようだ。でも、やっぱり可愛い娘だよな。壁に立たされてイケメンに迫られたらオドオドしていた」
「そりゃ、ソフィアちゃんだったっけ? あの娘みたいなしっかりした子はまずこの国じゃ見ないよ。ううん。見ないというか、あり得ない感じだね」
「あり得ないまで行くと問題だな。もっと成長してもらわないと。まあ、この作戦が終わってしばらくしたら王国からこの国を立て直すために監査官と指導官が来る予定だ。近いうちに多少は良くなるかもな」
「ならいいんだけどね。私もそのうちこの国に帰って来たくなって帰った時に良くなっていたら嬉しいしさ」
彼女の期待通りになればいいのだが権力主義者は民の自由を妨害する事の方が多い。カセムも多くの国を見てきたからこそ、この国にも良くなってほしいという思いもあるが時間がかかる事も分かっている。二人はしばらく飲んだ後、宿に戻る事にした。




