第89話 爆弾魔
透視眼鏡をうれしそうに装着したカセムは夜の街に消えていったが、冒険者に捨て値で眼鏡を売るまではずっと透視をして楽しみながら街を歩くのだろう。
ライリーはそう思いながらも王妃の様子が気になったので魔法士に千里眼を使って様子を見てもらう事にした。
すると見えてきたのは城の中で執事と妙な雰囲気になっている王妃の姿があった。どうやら様子がおかしい事に気が付いた執事が王妃に迫っているようだ。
彼女に魔道具でも持たせておけば良かったのかもしれないが常に怪しまれている身なのでかえって危ないかもしれない。
その後、しばらく様子を見続けていたがとりあえずは危険な状態にはなりそうもないのでライリーは魔法士とソフィア、他の兵士も交えて今後どうするかについて話す事にした。
―― 雨の降る繁華街 ――
この街は雨が降ったら降ったで灯りが多い街なので幻想的な雰囲気になり湿度の高さも相まって灯りに吸い寄せられる虫のように店に吸い込まれる客も多い。
そんな通りには獲物を物色する男女で賑わう時間となり雨が降っていたら売上が増える日もあるのだという。
そんな中にカセムが居た。透視眼鏡をかけたまま歩いているので顔が赤くなっている。だが、赤いままでは怪しまれるので酒瓶を持って歩いている。
しかし、この眼鏡をかけて物色して歩くのはかなり効率が良い。服を脱がなくても中身が分かるので店に入って思っていたのと違うといった事になるのを防ぐ事が出来るのでそういう用途に使われている場合もあるのではないかと思っていたら案の定、それに気が付いた娼婦が近づいて来た。
「ねえ、あなたそれ透視眼鏡でしょ?」
正直に答える訳にはいかないのでカセムは誤魔化す事にした。
「いや。これは普通の眼鏡だ。君の瞳が美しく見える」
「そう? じゃあ、視線が下の方にばかり行っているのはどうしてかしらね?」
あの酒瓶は中身も酒が入っていてカセムは酔っているらしい。それもあって欲望を抑えにくいので見たいところに視線が自然と向かう。
胸が大きい妖艶な美女が目の前にいるので透視するまでもない気がするがどうしてこの眼鏡の存在を知っているのか疑問ではある。そう思った時、贔屓にしている娼婦が近づいて来た。
「あ! お兄ちゃん。今日も私の店に来るって言ってたよね。さあ、行こう!」
「え! あ! いや、今日は……」
敵に情報が流れ続けている眼鏡をかけているのにこのまま店に入って楽しむのは危険である。今はダメだと断るしかない。
「今日は気分じゃなくてな。悪いな」
「え? 気分じゃないの? おっかしいなあ。じゃあ気が向いたら来てね。今日は予約は入ってないからね」
それを聞いて安心したような感覚があるが、安心したところで毎日のように無数の男を相手にしているので考えたところで仕方がないところではある。
それよりも楽しい時間はすぐに過ぎるものでこの眼鏡をかけてから思ったより時間が経っていた。
先ほどの娼婦の店もあと三時間もすれば今日の営業も終わるのでこの眼鏡をそろそろ、ゴロツキ共でも探して手放さなければならない。
しばらく美女たちを眺めたあと路地裏に入るとそこには都合よくガラの悪い集団がいた。しかも絡んできたのでちょうどいい。
「なんだあ? こんなところにまで入ってきて。他所モンだな?」
「ああ。そうだ。道を間違えたのか入ってきてしまった」
「そうか。なら金目の物を置いていけ」
「なら、この眼鏡はどうだ? 相手を透視する事ができる眼鏡だ」
「ほほう……おお! こりゃいいな」
「ちなみに、そこにボタンがあるだろ? 押す度に深いところまで見れるぞ」
「どれどれ……なるほどな。肌も見えて、更に内臓まで見えるのか。これは確かに高いだろうな」
「なら、それでいいか? 俺はアテもなくさすらう旅人でな」
「ああ。もう行けよ。貧乏臭えのが移っちまう」
その貧乏臭いのからいいものを得たあの男は縁起が悪いとか思わないのだろうか? そう言えば、確かこの街では不景気な見た目の人間が持っていたものでも、物は影響を受けないという考え方があった気がする。
まあ、確かにここは工業都市だ。どこから来た何かとかいちいち気にしていたらキリがないほど物の流れも多い。
それはそうと、面倒なものが手から離れたので先ほどの娼婦の元へ戻らないとと思いながら店に向かった。
◇◇◇
店に着くとまだ店の外に居たのでそのまま店に入る事にした。部屋に通されたカセムは今日は少し違う要件で来たというのもあるが楽しむ事は楽しんでから重要な話をする事となった。
「はあ、はあ、お兄ちゃんは今日も元気だね。もっと続けない?」
「お前は凄いよな。ずっと続けられるんだからな」
「今日は止まらないんだよ!」
そう言うと更に一時間が経ち、店が閉まりそうな時間になった。要件を伝えないと来た意味がないので話を切り出すことにした。
「んん……満足!」
「俺も満足だ。やっぱりこの街に来たらお前に合わないとな」
「嬉しいよ」
「さて、そろそろ店も閉まる時間になるんだよな?」
「うん。今日のところはね。例の件だよね?」
「ああ。そうだ」
「この部屋は監視されているのは知ってるよね? ……ねえ、もう満足したなら私ももう上がるからこれから飲みにいかない?」
「いいぞ。同伴も大歓迎だ」
そう言うとカセムと娼婦は夜の街に繰り出した。
◇◇◇
カセムらはしばらく通りを歩いていくとその先に見えた飲み屋へと入った。個室がある少し高級な感じの店である。
娼婦の見た目が少女にしか見えないがこの辺りでは有名なのかそのまま店員も今日も来たのかという顔で見ていた。
店に入った二人は個室へ通され、そこで度数の高い酒を飲みながら話す事にした。
「乾杯……やはりこの街で飲むこの酒は美味いな」
「このお酒って他の街ではあまり見ないらしいからね」
「しかし、お前が酒を飲めるというのが違和感しかないんだよな」
「飲めないとあんな店で働けないよ」
カセムは盗聴、盗撮を防ぐ魔道具を展開し工場の爆破の件についての話をはじめた。
「ギルドから話は聞いていると思うが、今回の作戦に協力してくれる爆弾魔はお前で間違いないんだよな?」
「そうだよ。こんなに可愛い女の子に爆弾魔って二つ名を付けるのもどうかと思うけどね」
「ギルドから聞いたが何でも鉱山の爆破から、工場の解体処理、敵の大型ゴーレムの始末と色々やってるみたいだな」
「そうだよ。あの爆破した時の音といい、敵が木端微塵になる姿といい、見ていて飽きないよね」
先ほどまでのあどけない顔とは違う危険な表情になった。爆弾魔の顔になっているじゃないかと思いながらも話を続けた。




