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第87話 怪しい雲行き

 肌寒さを感じる朝を迎え、窓の外を見ると曇り空が広がっており雨も降りそうな天気だった。もしかしてエリンが一緒に寝ているのではないかと思い、横を向いたが居なかった。

 前の世界だとエリンくらいの娘が居てもおかしくは無かったのだが実現しなかった幸せは今の空のように曇った消えない感情となって時折、現れる。


 そんな暗い気分になる空を見ていると路地にあまりこの辺りでは相応しくないような高貴な雰囲気の人物が歩くのが見えた。

 暗い色のフードを被っているが雰囲気がどこかぎこちない。宿に招き入れる事になりそうだと思いながら外に出るとその予想は当たっていた。


「怪しいヤツだな。何か困った事でも?」


 ライリーはそのフードを被った人物に話しかけた。


「あ! お、王国軍の方ですよね! 私、王妃さまの遣いでここに来ました。話を聞いてもらえますか?」

「遣い? 本人じゃないのか?」


「ち、違いますよ」

「まあ、いいだろう。俺の部屋に案内する」


◇◇◇


 彼女を部屋に案内した。フードを脱ぐと随分と童顔の美少女が姿を現わした。オドオドとしているが妙な気品を感じる。

 王妃そのもののような気がしてならないので深入りする事にした。


「さて、俺はここではない他の世界から来た転移者でな。しかも王国軍所属だ。なので王妃が相手だとしても今は目の前に自分の娘のような美少女が居るくらいにしか思わない。

 ……ここに魔道具がある。コイツは嘘を言うとすぐに反応して教えてくれる。試してみるか?」


「う……分かりましたよ。そうです。私が王妃です。と言ってもお飾りですけどね」

「こんな統制の取れた国でお飾りか。俺の前にいた世界じゃ考えられないな」


「え? どんな世界だったんですか?」


「王国で聞いた感じだと俺のいた国は王国の三百年前とよく似ていると言っていたな。この国も俺のいた世界に似たような国があった。

 その国と比べても大分、進歩しているように見えるのに暴動が起きそうだというのがよく分からないな」


「この国も魔族領中枢国からの悪意ある魔族に入り込まれているのでそれが原因なんです。私の部下も巧妙に買収されていて誰がどう買収されているか分からないし、いつ裏切るか分からないのでほんと言うと、その魔道具をお貸し頂きたいのです!」


「この魔道具か。流石に内政干渉になるので貸せないと思うが、これを使わなくても裏切者を特定する方法は幾らかあるだろう?

 部下の部署ごととグループごとに嘘の情報を流して様子を見るとか、寝屋に酔わせて連れ込んで口を割らせるとか。色々あるだろ?」


「実はもう全部やってるんです。でも分からないんです。どうすればいいんでしょう?」

「となると、この国では珍しい魔法を使うか、その辺に居る霊に協力を頼むとかだな。そこのドアの後ろに居るんだろ? 入ってきてくれ」


 そう言うとエルフの女性魔法士が部屋に入ってきた。


「バレていましたか。お初にお目にかかります王妃様。随分とお困りのご様子でしたので聞き耳を立ててしまいました」

「それは構いません。話を聞いていたのであれば手を貸していただけませんか?」


「そうですねえ。それこそ内政干渉になってしまう可能性が高いので王国の判断を仰ぐ事になりそうです。お話からして千里眼を使って事情を探ったり魔道具を使って潜入したりといったところでしょう」

「そう、そうです。是非、その辺りの方法で助けてほしいです。王国からのお返事はいつ位になりそうですか?」


「ここは王国からかなり離れた国なのですぐに返事が来ると思いますよ。この部屋でしばらくお待ちください」


 そう言うと魔法士は王国と連絡を取るために馬車に行った。


◇◇◇


 一時間もしないうちに馬車から魔法士が戻ってきた。渋い茶を飲みながら待っていたライリーと王妃に魔法士は言った。


「ライリーさん。王妃様のお顔が赤いようですが何かあったんですか?」

「いや。特に何もないが? 返事の内容が不安だったんじゃないか?」


「はい。何もないですよ。お返事が不安なのは確かです」


 二人とも落ち着いているのでどうして赤く見えるのかは分からないがそういう事にしておこうと思った魔法士は王国からの返答はカセムから伝えるというので魔法士の後ろに立っていたカセムが答えた。


「お初にお目にかかります王妃様。王国軍のカセムと申します。此度の要請についてですが王国にて検討した結果、王妃様は確かにお飾りで祭り上げられている事が確認出来ましたのでお助けいたします」

「お恥ずかしい限りですが、よろしくお願いしますカセムさん」


「こちらで支援する内容は、千里眼、魔法、霊との対話の全てが可能です。しかし、我々がこの街に来た目的は何となくでも想像がつきますでしょうか?」

「う~ん……もしかして誰かを倒しに来たとか?」


「実を申しますとある企業の工場を爆破し、操業出来ないようにする事が目的の一つです」

「もしかしてあの南部の街から王国領への密輸を手がけている貴族と関係のある企業でしょうか?」


「はい。お察しのとおりです。王国での千里眼を使用した結果、王妃様は我々に全面協力してくれると出ました。

 国内情勢も徐々に悪化しており今回起こるとされている暴動の後に国を立て直す事で国の状況も良くなり、密輸を行いにくくしていくというこちらの狙いもあります。まあ、問題なのは関われば面倒な事になるという事です」


「険しい道のりだという事も分かっています。でも、良い国にしていくためには地道な努力も必要でしょう。いつか王国のような国になればいいのですが」


 その言葉にライリーは答えた。


「俺の前にいた世界でそんな殊勝な心がけを持っている国のトップなんて皆無に見えた。君は本当に立派に見える。

 一代では難しいと思うが出来る限りの事をすればそれは良い未来を実現するためにも価値のある行動だ」

「そう言っていただけるとありがたいです。私はこれから何をすればいいでしょうか?」


「まずは密輸に関わっていそうな連中のリストアップだな。あと、城の見取図は……千里眼で見ればいいか。それと国内情勢の分かる資料か情報だ。君の頭を覗いて作ってもいい」

「資料は持ち出すと見つかる可能性が高いので出来ません。頭の中はどうぞ覗いてください。やましい事は何もありません」


 頭の中を覗くのに魔法士が魔法と魔道具を使い、記憶を見ていった。すると、王妃の言うとおり確かにかなり複雑に部下が買収されており下手に探りが入れられない状態であった。

 王妃も独自に話を聞いて回っていたようだが情報が巧妙に隠されているので正解にたどり着くのがかなり難しい。敵は敵で情報を操作していた。


 これについてはこの国ならではの魔法があまり浸透していないという事を利用した魔法による記憶の抽出と操作が繰り返し行われているようである。

 確かにこれは国が乗っ取られる危険性もあるので魔法と世界の理についての王国からの指導が必要であるがどうして今までしてこなかったのかは謎である。


 する必要が無い状態であったのであれば魔貴族が入り込む事が今まで問題にならなかったという事であろう。

 これは更に複雑な事になりかねないのが、爆破する前に記憶操作を解いてしまうと敵に察知されてしまうので情報収集も出来ないという事になる。爆破した後はやはり王国の作戦通り、素早い離脱が必要でその後に王国からの援助で立て直しを図るのがいいだろう。


 この結果を王妃に魔法士が伝えたところ、残念そうな顔をしていたが希望も見える目をしていた。

 作戦の開始までまだ時間が必要なので王妃には今まで通り知らぬフリをして過ごしてもらうよう伝え、今日のところは帰ってもらう事にした。

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