第84話 暗雲漂う工業都市
村で一夜を明かしたライリーらは紅葉が降りしきる森を抜け更に北上した。哀愁漂う雰囲気の美しい森の中を馬車で進む。御者台にソフィアと二人で座っていると前の世界でもこんな美少女と紅葉を見ながらドライブが出来ていれば幸せだったろうにと思う。
そんな紅葉の綺麗な森を更に進むと曇り空だからなのか、工場からの煙が影響しているのか空も空気も淀んできたように思えるところに出た。
草原が広がっており、その先に街が見える。無数の煙突が突き出した工場がいくつもあり、街の一角には繁華街が広がっている。そう、カセムが最も良かったと言っていた街である。
近づくにつれ、工場からの音や町工場からの音が混ざり賑やかでもあり騒がしくもある音が聞こえてくる。
街に入ると暴動が起きそうなようには見えない雰囲気であり工場労働者も行き来しているのが見える。馬車も大量に動いており製品を運んでいるようだ。
街の衛兵に事情を説明するとすんなり入れたが、暴動が起きそうなのに落ち着いている事が不思議に思ったライリーは衛兵にその事を尋ねた。
「とても暴動が起きそうな雰囲気には思えないほど皆、落ち着いているがいつもこんな感じなのか?」
「まあ、暴動が起きそうな事には変わりはないが、この街の住民はほとんどが工場労働者だからやる事は決まってるんだ。
ただ、暴動を画策しているのはクビにされた住民やどこかから来て商売をはじめた魔族とかだけどな」
「今回の暴動は計画的だとも聞いたがやはり魔族か」
「俺もそう思う。つっても、この街は工業が盛んなだけに魔族とも取引は以前から続いているんだ。続けないとこの街にある企業も都合が悪くなるしその辺の兼ね合いでより複雑な事になってる」
「そうか。単純に関わるのを止めるだけでは解決しそうに無いな。もしもの話だが、悪徳企業の工場が爆破されたらどう思う?」
「そうだなあ。クソ会社の一つが見せしめに消えて世の中が良くなるなら天からの思し召しだと思うが不満の怒りの矛先が向かっただけというのなら何か意味があるのかは分からないな。
ただ、存在自体が悪としか言いようのない企業がある。貴族とのコネ、秘密クラブへの戸籍を偽った娘の上納、雇った労働者は生かさず殺さずを続けてるってところがある」
「そして、そういうところこそ消えるとバランスが崩れて更に不況になると?」
「俺もそう思う。でも、存在し続けると良くなる事もないと思う」
「なるほどな。いい話が聞けたありがとう」
衛兵に礼を言うとライリーらは一旦、宿屋に向かい部屋の中でこの街での作戦について話し合った。まずはカセムが説明をはじめた。
「さて、みんな集まったな。今回は大所帯なので主用メンバーで話し合い、それを各部隊で共有する。
まず、さっきの衛兵も言っていたようにこの辺りの民は国の先行きを考えるならどう行動するのが最善かがある程度は分かっている。
それを踏まえて、今夜から三日間は休暇も踏まえた情報収集を行う。今回は移動が長かったのもあるのでちょうどいいだろ?」
「それは名案だが、カセムも思い出の店に行きたいんだろう?」
「もちろん。それにこの街の繁華街は有名だからな。作戦を終えたらこの街は当分の間、荒れる。店の営業もそれどころじゃなくなるだろうからな」
「それに工場を爆破したらすぐに街を脱出だろ? しばらく疲れるだろうからな」
「そうだ。作戦が完了したらそのまま次の街に出発する。なので爆破と同時に移動できる小隊はすぐに出発させる。
場合によっては飛行魔法を使って実行部隊を先に移動を開始させた隊列に合流させる」
「なあ、俺たちゃ王国軍なのになんでそこまで急いで行動する必要があるんだ?」
「それについてはこれから説明する。今回の目標となっている工場は衛兵も言っていた悪徳企業だがこの国においては最も影響力のある企業であり、従業員も最も多い。
しかし、民も存在し続けると良くない事は分かっているし、王国でももうこういう必要悪のような存在はこの国が成長するには減らしていく必要があるという判断になった」
「なるほどな。だから俺たちで手助けしようという事か」
「ああ。だが、問題は王国が介入する事はなるべく分からないようにする必要がある。そこで爆弾魔の傭兵と冒険者との共同作戦になる。
このうちの一人は既に他の国に移り住みたいという希望があるので俺たちと同行する。もう一人は最初からこの先にある国の出身の冒険者でこの辺りでの仕事も多く経験した者が担当する」
「なるほど。となるとその、この先の国の利益について怪しい部分はないのか?」
「そりゃ怪しいところしかない。それに魔貴族がどこの国のどの貴族に取り入っているかなんていちいち気にしていたらキリがない」
「それを言ったら俺たちの仕事は何なんだって事になるがな?」
その後も作戦の詳細を説明していたが、今までの作戦と違って案外と細かいところが多い。ここまでとなると何か他に問題になりそうな事でもあるのではないかと思ってしまう。
それについてを尋ねると、やはりというかそうだろうなという内容であった。もし王国軍が関与していた事が企業側に伝わると物流に影響する可能性が高いからという事であった。
そんな心配をしなくても王国の技術力なら何でも出来そうだがどうしてもこの街にある技術者でないと実現できない製造技術があるそうで完全に取引が停止してしまうと他にも問題が広がるのでそれは避けたいとの事であった。
この辺りの国であれば必要悪というものの中からは最後には裏切者で溢れ、皆が不幸になるという事も分かっているから暴動を起こして善良な企業ばかりにしようというのなら殊勝な事だと思うのだが。
◇◇◇
会議が終わった後は夕食後に街に繰り出す事になった。やはり繁華街で気分の大きくなった民の話を聞くのが情報収集には手っ取り早い。
中枢都市とは違い、悪口しか言っていなかったり考えなしにロクでもない事を話すという者が少なく耳にも気分的にも優しいのがとても革命前とは思えない。
大衆酒場のようなところが幾つかあり、その中の一つに入ってみる事にした。
ちょうどそこは近くの工場の従業員が多く出入りする店のようで工場に併設された食堂で食事をした後に飲みに来る者も多いのだという。
話を聞いた感じだとどうやら仕事で楽を出来る者とそうでない者の差が最近になって広がっているようで、平等にしてくれないならさっさと他の工場に転職しようという話をしていた。
他の客の話を聞いてみても同じような内容が多い。それを聞きながらライリーは前の世界でも似たような事が多かった事を思い出した。そう、悪意ある人間が上に立つとまず不平不満が目立ってくる。
次に悪意ある人間が好きなのは何も考えずに同じ行動を繰り返す人間と、自分と同じような考えを持つ人間や都合の良い人間で周りを固める事だ。
そうする事で組織は向上心を失い、生産性も落ち必要な従業員は奴隷扱いされるので徐々にレベルが落ちていく。
奴隷のレベルが落ち続け、先細りすればもう後は何をやっても上手く行かない。優秀な人間から見れば何を高望みしているんだとしか思えないような採用条件で見合っているとは思えない給料を提示し、この会社は大きいからとか、歴史があるからとか、有名だからと中身のないアピールをして誤魔化そうとする。
他にも特徴的な魅力をアピールする事も多いがそれも言い換えれば他では出来ない事を経験出来るのだから文句を言わず働けという事である。
こういう事が何故起こるのか、どうして改善出来ないのか。それは物事が停滞すると民衆は考える力を失い、良くなるための行動をしなくなるので更に悪化する。
この国の民は行動しない事がどれほど良くない結果をもたらすのかを知っているので行動しようと画策している。
ライリーは前の世界での会社は何も改善しようとはしていなかったという事を思い出しながら薄い酒を飲み終えると店を出た。
店を出ると通りの向こうで娼館に向かうカセムの姿が見えた。




