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第83話 ある農村

 翌朝、ライリーらは霧が立ち込める中、街道を北上し続け目的地の街までの半分より先というところまで到達した。

 細く険しい道が続き、馬車を通すのも一苦労である。しばらく進むと霧の中からのどかな集落が現れた。


 この集落について何か知らないかとライリーはカセムに尋ねてみた。


「のどかで自然にあふれる良い村だな。どこかで見たような田舎の風景だが」

「そうなのか。ここは農村でみんな農業で生計を立てている。この先の街に売って金にしているのがほとんどのようだ」


 話していると村人が近づいてきた。


「おや? 王国軍かい。こんな田舎まで来るとはね。あの街の事かい?」


 尋ねられたライリーは答えた。


「ああ。革命が起きそうだってので様子を見に来たんだよ」

「まあ、起きるだろうね。最近じゃ野菜を売りに行ってもすぐに奪うようにして皆、買っていく。戦いに備えて蓄えようとしている証拠だね」


「街から脱出しようとしている民も居るんじゃないのか?」

「そういう人はもうこの村か大分、東の方に行った国に向かったみたいだね」


「この村の民は革命についてどう思う?」


「そうだねえ。この国じゃ上に立つ人間てのは責任を取るために居るもんだけどその分、他の国に比べて権力が集中しやすくてね。

 上手く行っている時はいいんだけど、天狗になってくるのが居てね。そうなると手が付けられなくなって独善的になってくる。そうなるとおしまいだよ」


「新たな考えを取り入れようとせず過去のやり方にこだわっているんだな。でも民はそれでは良くならない事が分かっている」

「そういう事さ。この国は昔からそういう事が何度も起きてる。いい加減、良くなって欲しいもんだけどね」


「時間はかかると思うがこの国は良くなると思うぞ。変化を望む民が多い国は成長する」

「ならいいんだけどねえ。結局は似たような事を繰り返すのが歴史って言うけどそれじゃあダメだと思うよ」


「俺が前にいた世界はこの世界より遅れているような世界だった。民はどうにもならないほど追い詰められてやっと何か行動しようとするのも居れば逃げてサボるか卑怯な事しか考えないのもいた。進化を拒絶しているような感じだったな」


「それは困ったもんだねえ。この国も昔はそうだったんだけどそれよりかはちょっとはマシだね」

「やはりそうか。王国では俺の元いた世界の国は三百年以上前の王国に似ていたらしい。となると、この国も進化の早さは地域によって違うだろうがそのうち似たような国になるという事じゃないか?」


「それが遅すぎて困っているんだけどね。予言者の婆様も焦っても仕方ないって言ってたけどさ」

「その通りだと思う。焦っても進化は進まない。それにしても予言者か。俺も前の世界で出会っていればちょっとはマシな人生だったのかもなあ……」


「なら会ってみるかい?」

「是非、お願いしたい」


 ライリーは前の世界から実は神秘的な事に興味があるので予言者という言葉に惹かれた。前の世界でもそれっぽい人とは何人も出会ったが本物と思えるような人とはこの世界に来て初めて出会ったからだ。


◇◇◇


 予言者の老婆の家に案内してもらうとそこは質素な造りの古い家であった。白い崩れかけた壁に朽ちかけた木枠の窓、割れてところどころ粉々になっている石の床。

 貧しい田舎の家という感じで、中に入ると香の香りで満たされているのかと思いきや隙間風が多いのと香を焚くのも少しの時間なので古い家の匂いという感じの匂いがする。


「いらっしゃい。アンタが来る事は分かってたよ」

「流石は予言者と言われるだけの事はあるな。俺の素性も分かってるんだろう?」


「ああ。こことは違う世界でしょうもない人生を送ってたんだろう? 何かあってもやる事は決まってるんじゃないのかい?」

「それは個人的な問題だろう。俺は一般的にはこうするという事を聞いても本当にそれが正しいのかなるべく考えてから行動するようにしていた」


「ああ、なに。確かめただけだよ」

「俺と似たような誰かが居るか、何か千里眼を邪魔するものでもあるとか?」


「邪魔する方だよ。アンタも馬車の中で色情霊に遭っただろう?」

「あなたは予言者だろう? 能力が高いなら祓う能力も高いと思うのだが?」


「……知っていてそれを言うのかい?」


 この知っていて、というのは優れた能力者でも悪霊に邪魔をされる時というのは分かりにくいもので特に善行を積んでいるような者には最大限の妨害をする事もある。

 これは生きている人間でも同じではないだろうか。悪意ある人間というのは善行を積んでいる人間をとにかく嫌う。


 善行を積むという事はそれだけ苦難から助けられる人間が増え、悪行をする人間が減るからだ。そうなると自分の悪行が目立って出来なくなってしまう。


「いやな。前の世界では偽物が多くてな。確認みたいなもんだ」


「偽物か……なるほどね。アンタのいた世界だと嘘を重ねても何かが起こる事が少なかったのと、理解できる民が少ない事が原因のようだね。

 この世界だとそういう事で嘘を言うとすぐに悪い事が起きるんだよ。中枢都市まで行くとアンタのいた世界と似たようなもんだけどそれでも多少は早いんじゃないかねえ」


「多分、そうだと思う。前に行った時も妖精が近づいたら天罰みたいにアサシンが来て始末されていたからな」

「そうだろう。アンタのいた世界では始末してもキリが無いって事だろうね。さて、この老骨に何か聞きたい事があるんじゃないのかい?」


「ああ。この先の街で工場の破壊工作をする予定なんだがそれで国が良くなるのか聞きたくてな」

「……それは今まで何度も言ってきた事なんだけど、少し変われば良い方かなと思うね。今回の革命は魔貴族が扇動したものだから悪意に包まれた革命でもあるからね」


「となると、王国で見たのと状況が違うのか?」


 ライリーは王国で聞いた話と違うようなので、カセムに尋ねてみた。


「おそらくだが、順番の違いじゃないか? 王国で千里眼を使った時とこの予言者の婆さんが情報を読み取った時のタイミングの問題かもしれない」


「そうか。時間の流れが違うからな。王国だとかなり早い段階から読み取れるからか。不満が募るような事が起きた段階だと暴動が起きるような状態だ。

 今はそこに魔族が入り込んでいる。例えば乱立する企業を全て魔貴族支配にしたいとかな」


「そう言われてみれば……民が気付かないように徐々に負担をかけ続けるから今、不満が爆発しそうな感じだけどそうなるような国に既になっていたという事だね」

「なっていたというか、まだその段階というかだな。王国のようになればそんな心配は何もいらない」


「結局、行きつくところはそこだね。でも王国の未来は私には見えないね」

「ああ。やはり難しいか」


「でも、アンタたちが上手くやるから善人にはあまり被害が及ばないのは分るよ」

「もちろん、そのつもりだ」


 やはりというか、ライリーの予想通り王国のプリーストと魔道具の精度にはこの地のプリーストに近い能力者でも及ばないようである。

 この世界の理でもあるが、不思議なものだと思う。それこそ王国で鍛えれば見えるようになるのだから。

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