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第82話 森の中の幽霊

 涼しいというよりも湿り気のある冷たい風が時折、抜けては湿気で満たされる深い森の広場での野営は纏わりつく湿気で皆、妙な気分になっていた。

 こういう時というのは気を抜くと何かに操られそうな感覚に陥るので注意が必要である。とは言え、ライリーらは森で肉を焼いているので酒も飲みたいわけである。


 エルフの魔法士が今日も上手い具合に獲物を見つけてきた。たまたま広場の端に大型の鳥のモンスターが出現したのを仕留めたというので運んできた。


「ライリーさん。上物が手に入りましたよ! 焼き鳥にしましょう!」

「おお! でかした……何が上物なのか分からないんだが?」


「ああ~そうですよね。こんなモンスター知りませんよね。この鳥はですね、臭みが全くない鳥で大きいから大味なのかというと、そうでもなくうま味もしっかりあるんです。

 それにどう猛さも無いので筋力もそんなにありませんから身も柔らかいから焼き鳥に最適です」


「なるほどな。分かった。じゃあ、捌き方も分からないので手伝ってくれ」

「ああ。いえ、魔法で捌きます」


 そう言うと彼女は魔法を使い、見事に全て捌いた。確かに綺麗なピンク色をしており、触った感じも硬い感じはあまりない。

 とは言え部隊の隊員の全員が食べるにしてもこの肉全部を焼き鳥は飽きるだろうから半分は唐揚げとフライにしてパンにでも挟んで食べれられるようにしようと思う。


 焼き鳥は無難な醤油たれと、さっきの街で追加で買ったスパイスがあるのでそれも使いスパイシーに焼いていく。

 多少、硬い方の肉は叩いて唐揚げにする分と広く叩きのばしてフライにする分に分け、それらを揚げていく。


 ソフィアと魔法士に揚げるのを手伝ってもらっている間にライリーは茹で卵と街で買ったキュウリのような野菜を使い、ソースを作る。

 パンは流石に焼くには手間がかかるのでポータルに収納していた王国で焼いたものを火で少し炙って焼き目を付け、それに切れ目を入れ鳥のフライとレタスを挟みソースをかけて仕上げる。


 全て出来上がり、皆を集めて食事をはじめた。食いしん坊なエルフも満足そうである。


「むむ! このタレの焼き鳥とスパイスを塗った焼き鳥とどちらも美味しいですね! このフライを挟んだのもすごく美味しいので十個は食べられそうです」

「まあ、まだまだあるから足りはすると思うが? そういえば人間だと寒いところに行くと腹が減るのも早いが君はどうなんだ?」


「それは私も同じです。なのでなるべく馬車の中でじっとしています」

「ならその方がいいだろうな。あの暑い場所でも減りが早いしな」


「魔力を分けて貰えれば多少は長持ちするんですけどね?」

「そんな事が出来るのか?」


「魔法士とかだと相手に魔力を流す魔法がありますのでそれを使います」

「そういう事か」


 酒も飲みながら食べていると焼き鳥に唐揚げにフライのサンドという酒に合いすぎる組み合わせだからか酒が進む事このうえない。

 今日は野営だというのに随分飲んでしまったなと思いながらも片づけて馬車に向かい眠る事にした。


―― その夜 ――


 馬車の中は魔道具で快適な空間になっているが、今夜は外の湿度が高いというのもあるがそれにしても車内が湿気っている。

 妙な事だが本当にそうとしか思えない。王国製の魔道具は壊れるということ自体があまり無いからだ。


 すると寝ぼけ眼で幻覚でも見ているのか、妙に色っぽいソフィアがライリーに被さっているのが見える。どうしたのかと尋ねるとソフィアはキスをしてきた。寝ているライリーにそのまま体重をかけてくる。

 だが、何というか実体があるような無いような表現しがたい違和感がある。ソフィアが大人びて見えるのと胸が大きくなっている。


「なあ、ソフィアは不思議の森にいると急に成長でもするのか?」

「ううん? 何のこと?」


「いやな。胸が大きくなっていて見た目も数年は経っているような感じに見える。それこそ大人の女って感じだな」

「そう? それって私が魅力的って事なんじゃない?」


「ソフィアの魅力はいつも変わらないな。最高に魅力的な女性だが今、見えているのは妖艶な魅力という感じだ。何というか、夢を見ているような起きているようなそんな感じだな」

「ふふ……じゃあ、これからもっといい夢心地なことをしてあげる」


 そう言うと、いつもは暖かな感じのソフィアからは想像も出来ないような湿気が纏わりついてライリーの体に染みわたるように抱きついて来る。

 高揚したライリーもソフィアと絡まり汗ばむ時間を過ごす。だが、この時も実体があるような、無いような感覚がずっとしていた。


「ソフィアがこんなに妖艶になるとは思わなかったな」

「我慢していただけで、いつもこういう事を考えているんだよ……はあ……」


 ん? おかしい。感覚が明らかに無い部分があるのを感じた。それにソフィアはいつも心の中にある強い欲望についてを話す時は肝心な部分は隠そうとする癖がある。


「そうか。いつも我慢させていたからな。でも、それだけ俺はソフィアの事を思っての事だからな」

「でしょ? だから今日は朝までずっとこうしてたいよ!」


 やはりコレはソフィアではないようだ。憑依しようとしている低級霊だろうか? いや、もう既にこうしている地点で憑依されているのだろう。

 しかし、こうして気が付いたのでこの霊の見え方が少しずつ変わってきている。ソフィアの肌の色と青白いような肌の色と交互に見える感じがした。


「さて、お前の事は悪霊だとは思いたくないが俺の頭の中を覗くために憑依したのか?」

「う~ん。バレたかあ。あなたの頭の中を覗くのは簡単だよ。だって、この体を再現するために頭の中はもう覗いているからね」


「それはそうか。じゃあ、色情霊だから俺と楽しみたかっただけなのか?」

「うん。あなたってハーレムを作るのが夢なんでしょ? 前の世界では惨めな人生で女っ気が何もなかったでしょ」


「ハーレムについては夢というか、そこまで作ろうとは思わなくなったな。でもお前が反応したって事はまだ心の奥では作りたいって思っているんだろうな」

「ああ。じゃあ、多分これは心から分かり合える仲間を作りたいとかそういう意識が混ざっているようね」


「多分、そうなんじゃないか? 俺もそこまでは自分のことだし分からないな」

「でも、せっかくこうして出会えたんだからこのまま最後までしない?」


「でも実体の感じがないぞ? 楽しいかこれ?」

「だよねえ。それにバレちゃったし。私みたいな霊体の状態だと誰かの意識を借りないとこういう高揚感とか味わえないんだ。まあ、でもしょうがないよね。私じゃないもんね。彼女とお幸せに」


「ああ。もちろん。でもお前も天国にさっさと行った方が幸せじゃないのか? もう頃合いだろう?」

「そうだよねえ。私もこんな事ばかりしてたってしょうがないし……でも、向こうに行く前に違う世界から来た珍しい人に相手してもらって楽しかったよ」


「それはよかった。向こうでは幸せになれよ。生まれ変わってもな」

「うん。ありがとう。じゃあね」


 そう言うと彼女は馬車の天井を抜けて天高く去って行った。すると同時にソフィアが怪訝な顔をしてやってきた。


「ねえ? 誰と話していたの?」

「ああ。俺に憑依しようとした霊が居たのでさっさと天国に行けって言ったら素直に行った」


 ライリーはこのソフィアは本物で間違いないと思いつつも肩や腰を触って感触を確かめた。


「そんなに触らなくても私は本物だよ」

「ああ。間違いない。触った感じがしっかりしている。さっきの霊は何か触れても実体が無い感じがしたからな。多分、俺の脳に干渉しながら感覚があるように錯覚させていたんだろう」


「うん。憑依されるとそういう事をされたりもするよね。というか、私の姿だったの?」

「ああ。五、六歳は歳を取ったように見えた。大人なソフィアって感じだったな」


「そうなんだ。じゃあ、今からは私が一緒に寝るね」


 何がじゃあ、なのかは分からないが横で寝ていても確かに感覚が違う。馬が言っていた色々と出ると言っていた幽霊の一つが彼女だったのか、たまたま来ただけだったのか分からないが不快な湿気は感じなくなっていた。

 不思議な事もあるものだと思いながらソフィアと眠る事にした。やはりこの愛らしい横顔は見ていて落ち着くと思いながら。

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