第80話 また魔族領に旅立される日
魔族領にどうせ行かねばならないならと王国でなるべくソフィアと楽しい時間を過ごそうと思っていたがライリーにとっていつも思い通りにならないのが人生だとでも言うのかその時はやってきた。
そう、魔法士の爺さんエルフが言った通り二週間も経たないうちに王城への招集がかかった。謁見室に向かうと王女陛下が待っていた。
「招集に応じてくれてありがとうライリー。随分と不満そうな苦虫を嚙み潰したような顔だけど」
「はい、我が王よ。苦痛を味わいし魔族領中枢の疲れも癒えぬまま再度の遠征では行く気も起きぬというものでございます」
「そんな話し方をしても行く事に変わりはないわよ」
「ああ、なんという事でしょう。これから爆炎と硝煙にまみれた時を過ごすとは実に憂鬱でございます」
「そうは言ってももう革命の火蓋は落される直前なのよ。時間の流れの都合でもう明日にでも出立しないと向こうの工作員との共同作戦に間に合わないわ」
「……いやはや。私の王国での平穏なスローライフはいつ訪れるのやら」
「それは後数年の事やら、十年後程度の事やらというところね。今度の遠征では物資の量を増やすから少しは楽になると思うのだけれど」
「物資の量はポータルで転送されるからあまり増やす意味は無いのでは?」
「今回の旅は途中から中枢地域に入る事になるからポータルが開けない場合があるのよ」
「ああ。何という事でしょう」
「そうそう。あなたたちが村から連れてきた子だけど、王国軍に志願したから旅に同行する事になるわ。
あと、エリンも必要最低限の訓練は終わったから同行する事になるからよろしく。楽しい旅になりそうね?」
「楽しいというか、そんな短期間の訓練で行かせて大丈夫なのでしょうか?」
「将軍も参謀も他の者も後は現地で鍛えればいいと言っていたわ。さあ、お行きなさい」
そう言われると、既に準備は整っていたので全員で転送陣に向かった。その周囲には増強された人員と見知ったメンバーが居た。ヤレヤレという顔をしたライリーは彼らに話しかけた。
「みんな、はじめてのメンバーも居るがまたよろしくな」
「ああ。よろしく。陛下の前でずっと不満そうにしていたんだって? 俺は今回の遠征からの参加だが、次に行く予定の街は繁華街が相当、楽しいぞ」
「俺は前の世界でそういうところには何度も行ったからな。まあ、でもこっちの世界での評判の街なら何かは違うのかもな」
「ライリーさん! 訓練が終わりました。これからよろしくお願いします!」
村の少女が言った。やる気に満ちた顔をしているのが不思議な感じもするが飛竜を扱える彼女は工場を上空から見るには良いのかもしれない。
「よろしくな。魔族領の中枢都市に行っている間に訓練が進んだみたいだな」
「はい。後は行軍しながら慣らせとのことです」
「まあ、装備が良いから大丈夫なんだろうが早すぎて何とも言えないな」
心配しているとカセムが話しかけてきた。
「心配はそうは要らない。装備が前より良いものにしたのと、今回は人員も増やした。彼女らにはまず後方支援からやってもらう」
「そりゃそうだろう。いきなり前に出すのは無理がある。エリンもそうなんだろう?」
そう言うとエリンが答えた。
「はい。私もまずは後方支援からです。ライリーさんと旅が出来て嬉しいです。……一緒の寝袋で寝ましょうね?」
「ん? 寒い地域らしいので寝袋は危ないんじゃないか?」
「ああ。朝に凍っていたらまずいので外で眠るのは避けた方がいい。寝るのは馬車かテント内、外に居る時は当番で警戒する時だけだ。その警戒も普段は監視用の魔道具を使うのであまり意識する事もない」
「朝に凍るまでとなると、雪が積もっていたりそこら辺も凍っているんだろうな。足が冷えなければいいが?」
「その心配は無い。行軍中は魔道具で快適な温度の状態にして進む。馬車も増やすからな」
確かにカセムの言うように王国軍の装備は非常に優れているので凍死する心配もないだろうがどうしてここまで対応を急ぐのかはよくわからない。
民衆が蜂起して革命が起きればその国は進化する事が出来るかもしれない。それに王国が急いで関わろうとして何か意味があるのだろうかと思う。彼らの思うようにさせておいた方が学びが多く得られそうなのだが、違うのだろうか?
そんな事を考えていると全員、転送陣に集まり転送が始まった。部隊全体が青白い光に包まれ南部の街の郊外に転送される。
◇◇◇
魔族領南部の港街の郊外に転送されたライリーの一行は全員が転送されているかを確認した。
「全員、転送されているな。装備等に不備がないか確認しろ」
「こちらは問題ありません」
「こっちも大丈夫」
増車した馬車も全て問題なく転送されている事を確認し、まずは港街に向かった。すると少し暑さが和らいでいる事に気が付いた。
「前に来た時より少し涼しいようだな」
涼しさを感じたライリーが言うとそれにカセムが答えた。
「ああ。これから冬季に入るからな。この街の辺りは夏から急に冬になる。秋はほとんど感じられない」
「なるほどな。何か、嬉しそうな顔をしているな」
「そりゃ次の街の繁華街は最高だからな。前に話しただろ?」
「ああ。覚えてる。確か青春を感じられる嬢が相手だったんだろう?」
「あの嬢は最高だった。虚しい青春の記憶を消すかのように訪れた奇跡の出会いだった」
その後もしばらく言っていたが馬車に乗り、街についてもしばらくその話を続けていた。それにしても未だに思うがどうしてカセムには必要な出会いが来ないのかが分からない。
王国のプリーストらが分析すれば分かる事だとは思うがライリーも前の世界での出会いの無さは誰が見ても異常な状態だったのでカセムも何かしらの問題が隠されているのだろう。
今日は一旦、この街の宿に泊り明日から街道を北上し工業都市へと向かう。宿の近くには前にも通っていた屋台通りがありスパイシーで食欲をそそる匂いが漂ってくる。
ライリーとソフィアは魚の串焼きとビールを食べ、宿に向かった。ライリーはその後、夕方の店が閉まる前にスパイスを扱う店に行き、また何種類か買っていた。
北上するルートでは山越えとなるため野営も何度かするというので買っておこうと思ったからである。
宿の酒場に行くとマスターはまた来たのかと言っていた。この街ではあまり時間は経っていないからである。酒場で何杯かラム酒を飲んだ後、ライリーは床に就いた。




