第79話 王立研究所
屋敷で清々しい朝を迎えたライリーは前日に聞いた王国の空中にあるという研究所に行ってみたいと思い、領主とソフィアに行くにはどうするか尋ねた。
すると行き方は主に二つあり、一つは転移陣で転送する方法。もう一つは飛空艇や竜に乗って行く方法であるという。
飛空艇があるのならどこかではそれらしいものを見かけたはずなのに全く見ないのは王国内でも運行している事自体がほとんどなく、必要な時にしか動かしていないらしい。
研究所に物資等を送る時に必要じゃないのかと思ったがそれも転移陣か転送魔法、ポータル展開で行えるので乗り物に乗る意味が無いので何らかの理由で魔法が使えなくなるという場合くらいしか使う事がないのだという。
どうりでこれだけ魔法が発達しているのに空を飛ぶ乗り物を見ないわけである。だが、旅をするなら飛空艇を使えば楽だと思うのだが竜や魔物に堕とされてもいけないので気軽に使えないらしい。
王国内の移動に使えば良いんじゃないかと思ったがそれは杖に跨って飛んで移動してもいいし、王国には魔力が多く循環しているので転移魔法を使う事が多いのだという。
何やら事情が色々あるようだが、聞けば聞くほどよくわからなくなるので知りたくなったらそのうちまた聞くとしよう。
転移陣から研究所に行くには王立研究院の許可が必要だというので王都の研究院に向かった。受付に聞くとすぐに許可を出してくれた。
「ご無沙汰しています。ソフィアです。転移者ライリーが王立研究所に行ってみたいというので入場許可をお願いします」
受付嬢に尋ねると許可を出してくれた。丸い瓶底眼鏡をしていて髪は三つ編みにしたのを垂らしており口調と姿のギャップが強い。
「おや? エドワーズ家の御令嬢ですな。ほほう。そちらのお方が転移されてきた方なのですねえ。もちろん、許可します。どうぞごゆるりとご観覧あれ」
終始ニヤニヤしながら許可を出してくれた受付嬢はその後もじっとライリーらを見つめていた。何かの資料にしようとしている目をしていたのでそういう趣味でもあるのかもしれない。
◇◇◇
研究所の中庭にある転送陣から王立研究所へ向かうとそこは雲海の上にある大きな円盤状の石で出来たような基礎の上に建ち空中に浮遊している場所であった。
周囲には木々や花も植えられており、それが雲海に反射する太陽光によって美しく輝いており壮観である。
研究所に入ると男性職員がやってきた。茶色の縮れ毛のイケメンで見るからに研究員という感じである。
「ようこそお二人とも。本日は私が案内を担当します」
そう言うとソフィアとライリーは答えた。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
研究員はライリーを見て転移者かと尋ねた。
「おや? あなたは転移者の方ですね」
「そうだ。こんな美しい場所に研究所があるとは驚いた。前の世界ではこういう場所は空想上の場所でしか無かったからな」
「なるほど。物的な面がとても強い世界だとは聞いていましたがこういう場所は無いのですね」
「聞いたということは何か知る手段があるのか?」
「もちろんあります。それもこの研究所で行われている事と関係していますのでこちらへどうぞ」
そう言うと彼はライリーらを他の世界を観察しているという部屋に案内した。その部屋の中には無数の空中に表示されたモニターのような画面が映し出されていた。
「これは凄いな。見た事のない景色が無数に広がっている」
「ええ。この部屋では他の世界の景色を映し出す事の出来る魔道具があり、それを使って向こうの様子を見ているのです」
「俺が元いた世界も映っているのか?」
「おそらく映っていると思います。探してみましょう」
そう言うと彼は小さい杖を使ってライリーの世界の映像に辿り着けるように光を出した。その光を辿って行くと目当ての映像が映し出されている画面があった。
「こちらで合っていますか?」
「ああ。合ってる。相変わらず酷い世界だ。しかもこれは俺の居た国だな。今は民が引き起こした無関心による政治腐敗で国が終わりかけているのか」
それを聞いたソフィアは興味深々で覗き込んだ。
「え? どれどれ……話に聞いた通りの国だね。昔のこの国の民と似ている感じがするよ」
「ええ、考え方は似ているようです。他人のせいにばかりして行動しない民では上に立つ者を監視しないので権力を振りかざし、好き放題させる事になる。
他のあまり進化しているようには見えない世界でも似たようなものです。お金やモノ、権力に興味がなく知識欲や肉体的な欲求が強い世界でも欲望に忠実な者が多いところでは結局は混乱がつきものというところです」
彼は他の世界についても続けて解説してくれた。自然豊かな世界で原始的で質素な生活を送っているのに皆、不満なく幸せそうにしている世界や、SF映画そのままのようなどこまでも清潔で無機質な街並みが続く文明がかなり発達した世界なのに戦争が未だに存在する世界。
そしてハッキリとは映す事が出来ない世界が幾つかあるがその中の一つを見ると早送りのように映像が流れておりギクシャクとしている。これについて研究員に尋ねた。
「この世界はハッキリと映せないようだが、映像の流れが早い事からかなり高度な世界なんじゃないか?」
「ええ。おそらくそうなのでしょう。民の行動や建物の構造やその意味、それらをじっくりと観察してもどういう意味があってそうなっているのかよくわかりません。ライリーさんはどう思われますか?」
「人と話しているように見える時に同じような仕草をしているがこの世界とも俺の居た世界とも全然、違うな。
これは何らかの儀礼的な習慣の一つかもしれないが話始める時の意思表示なのかもしれないしそこはよくわからないな」
「そうなんです。我々にもそこは分からないところです。これだろうと結論付けてもまた疑問が生まれてまた次の仮定がされる。その繰り返しはそちらでも同じだったでしょう」
「そういうのは優秀な研究者じゃないか? 俺の居た世界のどうかと思う研究者ってのは、これで間違いないと思い込んだら難しい理論を持ち出して理屈をこねる。
そして間違っていたら難しい言葉を使って言い訳を続ける。アレは恥ずかしいと思わないのかと思っていた」
「それは恥ずかしい話ですね。この研究所にはそういう者はいないと思いますが私も似たような事をしていないか気になる事もあります」
この世界の研究者でもそういう事は気になるんだなと思いながらこの部屋を後にし、他の研究室、研究棟、居住区画等を見て回った。
思ったよりも広い研究所で一面ガラス張りの廊下からは雲海が見え、その隙間からはこの世界の大地が広がっている。
しばらく見入っていたら砂漠地帯や火山地帯なども見え、そのうちあの辺りにも行く事になるのだろうかと思いながら休憩した。
その際、研究員に前の世界での様子を細かく説明するとじっと聞いており、話を参考にまた映像を見てみると言っていた。
あの部屋の映像には無数の他の世界の映像が映し出されていたがどの世界に行っても人の営みは続いていた。機械に支配されたという世界も、異星人や悪魔に侵略され滅亡しそうだという世界も無い。
絶望的に見えても世界が完全に立ち行かなくなっているというのは一つも見当たらなかった。どうやらこんな世界、滅んでしまえという望みは誰にも叶えられないし、叶う事もないようである。
アザラシの妖精が言ったように確かにそんなに面白い施設という訳ではないが勉強にはなったと思いながらライリーらは研究所を後にした。




