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第78話 潮騒が聞こえる港

 二週間もすればまた魔族領に行く事になるかもしれないと聞いたライリーは休日を満喫するべくエドワーズ領の行ったことのない場所へも行ってみようと思った。

 ソフィアに前の世界では心が疲れた時に車で砂浜に行って潮騒を聞いていたりした事を話すとこの町にも砂浜が近くにある港があるから行ってみようという事になった。


 馬車に乗ってそこまで時間がかからない場所にあり、一旦港で馬車を降りてからしばらく歩くと美しい砂浜があり、静かで暖かな良い雰囲気の場所である。


「これは……凄く良いな。こんな場所があったんだな」

「そう? どういうところがいいの?」


「静かで柔らかな音の潮騒が聞こえるし、綺麗なゴミ一つ落ちていない砂浜に絵に描いたようなリゾートという感じだ。俺は前の世界ではリゾート地というものには縁が無かったからな」

「へえ。ここってライリーの居た世界じゃそんなに良い場所な感じなんだ。私は夏になると毎年、ここにやってきてみんなと泳いだりするんだよ」


「そうだったのか。そういや魔族領の最初の街では常夏みたいな街からだったから海水浴をしたがこの町ではまだしてないな」

「そうだよね。夏に帰って来る事にならなかったし、次の魔族領遠征も多分、帰ってくるのは冬か春じゃないかな?」


「そんなに長丁場なのか?」

「工業都市から北上ルートでしょ。多分、かなり長いんじゃないかな? ねえ、私と一緒でもそんなに魔族領に行くのが嫌?」


「前の世界の事を思い出すからそれが嫌なんだよな。南部の暑いエリアならまだ暑さで適当でいいかとか思うが……と言ってもあの中枢都市は本当に前の世界の不快でたまらない連中とそっくりな奴らが大量に居たからな。それよりはマシと言ってもなあ」

「ねえ、もう前の世界に戻らないといけないんじゃないんだよ? 私たち、この世界の皆がライリーがここに居て良いって言ってるんだよ。だから……ね?」


「言いたい事は分かるぞ。もちろん、ソフィアとの旅は良いものだ。だが、王国での安寧の日々というものがあまりに短すぎる」

「あ、そうか。ライリーはこの世界の住民じゃ無かったから知らないんだった。あのね、こういう大規模な遠征と計画は年単位で計画されているんだけど、ここ百年くらいは最も長い遠征で七年くらいだったんだよ。だから、おじいさんになるまではかからないよ」


「でも俺の前の世界での年齢を知ってるだろ? 十分、ジジイだと思うが?」

「でもでも、ライリーの今の見た目ってどう? 十歳くらい若くなってない?」


「言われてみればそうだが? でもソフィアも俺の前に居た世界から比べたら大分、童顔だな」

「ライリーって年下の子が好きなんでしょ? メアリーさんから聞いたよ」


「聞くまでもなく好きだが? だからソフィアの事も大好きだ」


「え! えっと、それとこれとは別でね! ライリーの前に居た世界はこの世界と比べて時間の流れがかなり遅いみたいなんだ。

 だからライリーは何らかの力でこの世界の住民の年齢というか、時間に合わせているみたいなんだ。だから多分、寿命も伸びてるんだと思うよ」


「言われてみればそうだし、納得の出来る話だな。ならソフィアとそこまで極端な年齢差は無い事になるのか」

「そういう事。だからおじいさんになる頃というのは大分、先の事だと思うよ」


「それはありがたいことだ」


 意外な話を聞いたなと思っていると近所に住む少女だろうか。白猫の妖精を抱きかかえて近づいてきた。金髪碧眼の絵に描いたような美少女である。


「ねえ、お兄さんとソフィアお姉ちゃんはお友達なの?」

「ああ。親友になったと言っても良いと思うよ。君はソフィアの友達かな?」


「うん。ソフィアお姉ちゃんがたまにここにやってくる時にお話するんだ」


 ソフィアがこれに答えた。


「そうなんだよ。この子はね白猫に好かれやすいのかいつみても一緒に居るね。その子はクレール?」

「ううん。違う子みたい。クレールはどこに居るか分かる?」


 少女が妖精に尋ねた。


「……どうやら王都に居るみたいだにゃ。う~ん。多分、王都の支部に居るみたいにゃん」

「そうなんだ。あの子、いっつも王都にいるね。あれ? 海から何かやってくるみたい」


「アレはアザラシの妖精にゃん」


 そう言うと海から白いアザラシが上がってきてこちらに近づいてきた。


「キュッキュ。今日は泳ぎやすい天気きゅ~」


 飄々とした感じのアザラシの妖精が答えた。


「え? 今日は寒くないの? 水も冷たいよ?」

「ずっと動き続ける時はこれくらいの方が動きやすいっきゅ」


「そうなんだあ。アザラシさんは今日はこれからどうするの?」

「また海で泳ぐっきゅ。今日は珍しい気配を感じたから浜に上がってみたっきゅ」


 珍しいというのでライリーはもしかして自分の事ではないかと尋ねてみた。


「その珍しい気配ってのは俺の事か? こことは違う世界から来たんだ」

「それで違う感じがしたってことっきゅ。この世界は気に入ったっきゅ?」


「ああ。気に入ってる。前の世界では人生が酷くてな。この世界に来てからは、魔族領に行かないといけない事以外は良い事尽くめだ」

「それはきっと神の思し召しっきゅ。幸せが訪れる事は良い事っきゅ。世の理とは世界が違えば変わるものっきゅ。この世界では幸せな日々を送れることを祈っているっきゅ」


「それはありがとう。ところで君はこの猫の妖精と似たような仕事をしている存在なのか?」

「そうっきゅ。アザラシは海を主に担当しているっきゅ。陸の担当は主にその猫とかで、空はフクロウとかの妖精っきゅ」


「空? 空中に街でもあるのか?」

「あるっきゅ」


「え! 知らなかった。是非、行ってみたいな」

「王国にあるのは研究所で行ってもそう面白くないと思うっきゅ。街があるのは魔族領っきゅ」


「ああ。そうなのか。何か面白いものでもあるのか?」

「それは分らないっきゅ。自分で行ってみたら何か面白いものがあると思うかもしれないっきゅ」


「そうか。まあ、何となく想像が付くが研究所も街もどっちも見てみたい気はする」

「それは良い事っきゅ。せっかくこの世界に来たんだから色々と見るといいっきゅ」


「ありがとうアザラシの妖精。魔族領に行きたくなさすぎて嫌な気分になりかけていたのがマシになった」

「それはなによりっきゅ。魔族領でも船に乗る事があったら仲間が近くにいる事もあるかもしれないから見てみるといいっきゅ。ではさらばっきゅ!」


 そう言うと妖精は海に帰って行った。不思議かつ適当な感じの妖精だったがいつもあんな感じなのかと少女に尋ねるとそうだと言っていた。

 しばらくライリーは少女に元いた世界がどんな世界だったか話を聞かせてほしいというので話をした。


 興味津々で少女は話を聞いていた。ライリーの苦労話はこの世界の住民にとっては魔族領の話のようだったり、昔の話のようだったり、おとぎ話のように聞こえる事もあるのだという。

 しばらくすると日も傾いてきたので屋敷に戻る事にした。

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