ナビィゲート
『緊急通達です。一般人を装った侵入者を検知しました。総員直ちにコアルームに集まってください』
いつも通り緑丸の相手をしていると、ナビィの念話が脳裏に響いた。侵入者とは穏やかじゃあない。俺たちの家は俺たちが護らなきゃな。
「おお、来たかね鳥居くん。まぁテキトーに座ってお茶でもシバいててくれたまえ」
「ヂュヂュイ!」
「茶でも――って会長、そんな呑気にしてていいのか? まだ半数くらいしか集まってないようだけど」
侵入者という単語が飛び出したとは思えないほどコアルームはのんびりとしていた。加瀬と小早川は眷属を操り対戦ゲームのようにして遊んでるし、安土と緑川はお菓子を摘みながら仲良く談笑。会長と副会長ですら緊張感もなくスクリーンを眺めるに留め、瓶底だけが熱心にダンジョン機能を用いて何らかの作業を行っていた。
「おいおい、随分と気が抜けてるじゃないの。真剣に動いてるのが瓶底だけ? まったく、瓶底にはいつも感心するねぇ」
「あ、いえ……ちょっとマイ○スイーパーに熱中してたデス。ごめんデス」
「…………」
うん、難しく考えるのは止そう。ここはパラダイスだったんだ。(←思考放棄)
「まぁ焦らずとも他の面々は来るだろう。それより見たまえ、そこに侵入者が映っているぞ? 派手に着飾った、いけすかない青年がな」
「へぇ? どれどれ……」
会長に促されてスクリーンに視線を移すと画面中央には貴族のような出で立ちをした銀髪の青年が映っており、常にロックオンされていることからコイツが侵入者なのだと理解できた。
「なるほどな、貴族が護衛もなしに来るなんて有り得ないもんな」
『いえ、そうではありません。わたくしナビィには鑑定スキルが備わっておりますので、この男がダンジョンマスターであることは承知の事実なのです』
「え、ダンマスッ!?」
敵情視察ってやつか? しかし見ているだけとは言え、他のダンマスに嗅ぎ回られるのは良い気はしない。
「会長、こっちからは何もしないのか?」
「もどかしいところだがね。前にもあっただろう? 本郷くんがガリアーノのダンマスと接触してしまったことが。あの時は連れの守護天使が止めてくれたが、本来はダンマス同士の物理的な戦闘はNGなのだよ」
そういや聞いたっけな、ダンマスが雌雄を決するのはダンジョンバトルのみっていう話を。確かダンジョンの管理神であるクロノスの言葉らしいので、敢えて逆らうのは愚の骨頂ってやつだ。
パッ……
「ん? 急に画面が暗くなったな?」
「それはだね、件のダンマスが居る場所はコンサートホールだからだよ」
「ああ、住民を集めて多目的なイベントを開催できる場所を作ったんだっけか?」
って事は何かが始まろうとしている?
「良いじゃないか、たまには我々が楽しむ側なのも。さぁ、久々にやって来た彼女たちの晴れ舞台だ、共に戯れようじゃないか」
彼女たち? その疑問に答えるかのように、コンサートホールのスポットライトがステージを照らした。
『ハァーーーィみんな! 今日は来てくれてかりがと~~~ぅ!』
『今からここは、わたくしたちのオンステージですわ!』
『さぁ、皆で開放せよ、右手に宿りし熱き波動を!』
アイリ、トワ、メグミのスクールアイドル3人組がキュートな衣装で観客の目を鷲掴み! 両肩を露出した上に胸元も強調され、更にミニスカートときた。もうね、そこらの貴族じゃ太刀打ちできない可愛らしい衣装っすよ。
『おお、なんと眩しき輝きか!』
『貴族の小娘なんか相手になりませんな!』
『オ、オラの村じゃこげにベッピンな女子はいねぇべ!』
ガリアーノから亡命した騎士団の皆様、並びに先日やって来た難民たちが一緒になって盛り上がっているな。配られたサイリウムを振り回して皆がご満悦だ。
しかし1つだけ気になることがある。
「場所の割にはスッカスカだな」
「仕方あるまい、これがライジングバレーの現状なのだから」
うん、どっかに移民でも転がってれば無条件で受け入れてやるんだがなぁ。あ、不利益をもたらす奴らは別だぞ? そんな連中が入り込んだ日には燃えないゴミの日にまとめて叩き出してやる。
『センキューみんな~~~!』
『『『ヒュ~~~ゥ♪』』』
歌も終わったみたいでアイリたちが笑顔で手を振り、観客も拍手で応えた。が、ここで肝心なことに気付く。
「アイツは、アイツはどこだ!? 例のダンマスが見当たらないぞ!」
『心配せずともマークは外してません。ここに居ります』
「そりゃ良かっ――あ……」
『うおぉぉぉ! 究極の感動がここにあったぁ! ああ神様仏様ぁ、感謝感謝で御座いますぅぅぅ!』
ナビィが視点をずらしてダンマスに当てると、そこには涙を流してサイリウムを振りまくる青年の姿が。
「何しに来たんだコイツ……」
「見ての通りではないか? あの3人は雑誌で特集が組まれるくらいには人気だしな、異世界に追っかけが居ても驚くことではないだろう」
「いや、驚けよ……」
「ちなみにあのサイリウムは1つ金貨1枚だ」
「高っ! 高級な酒が1本買えちゃう金額やないかい!」
だが相手はダンマスだ、何か裏が有ってもおかしくはない。
「ナビィ、コイツの目的はなんだ?」
『さぁ? 生憎と人の心を読む能力は有りませんので。ですが表情から読み取るに、今の状況を楽しんでいるのは間違いないかと』
「じゃあサイリウムは自主的に振ってるってこと?」
『はい。あの涙も本物です。これまでのショボい人生の中であれほどの感動を得たのは初めてだったのでしょう。端から見ればアホにしか見えませんが、大目に見て差し上げましょう』
何故か余裕そうなナビィ。俺としては不安が拭えないので、無理矢理にでも拘束したいんだが。
そんな俺の心中を察してか、様子を窺ってきた会長がここで動く!
「そろそろか。利根川くん、接触開始だ」
『オッケ~ィ』
何やらカズトに指示を出す会長。するとスクリーンにもカズトが現れ、いまだ熱気が覚め止まないダンマスへと話しかけにいく。
『よう、キミもライジングスリーのファンなのかい?』
『ライジングスリー?』
『この3人組の名前だよ。ボクもファンの1人でね、ライヴが行われる度にこうして見に来るんだ』
『それは分かる気がする。彼女たちのように笑顔でパンチラを披露する存在は極めて希少。男なら何度も見たくなるだろうな』
『そうそう! 彼女たちの笑顔は――え?』
ここでカズトも気付く。この野郎、スカートの中に注目していたと!
『失礼だがアキミ、その涙の理由は……』
『フッ、気付いたかい? 俺のようにダンマス生活が長いと女の子のパンティなんてそうそう拝めないからね、目の保養としては最適なわけ――』
『他人の了承なく覗くなド変態!』
『――ヒデブゥ!?』
アイリの飛び蹴りが奴の後頭部にクリーンヒット。既にステージを降りていたため聞かれてたらしい。
『アンタ、あたしらのスカートを覗くなんていい度胸ね?』グリグリグリ!
『ふぐぅ!? いえ、スカートではなくスカートの中で御座いま――』
『お黙り! いくらアンダースコートと言えど、覗かれるのは不快ですわ!』グリィグリィ!
『ぐぉぉぉ!? も、申し訳御座いません! このトゥルース、決して不快にさせるつもりでは……(チラッ)』
『ムッ、我が右手が不穏な視線を捉えた。貴様、頭を踏まれながらも覗いたな?』グリリリィ!
『め、滅相もない!(ガバァ)』
『『『堂々と覗くな!』』』グリリリィ!
『グハァ! 効くぅぅぅぅぅぅ!』
果たして何に効くのか不明のまま、満足げな顔で踏まれ続けるトゥルースという名のダンマス。正直なところバカバカしく感じ初めていた矢先、傍らで冷ややかな視線を送っていた少女がアイリたちを止めにかかる。
『あのぅ……大変不快かと存じますが、そろそろ解放してはいただけませんか?』
『……アンタ誰?』
『私はミスキー、そこで寝転がっている男の守護天使です』
守護天使か。ガリアーノの時も邪魔してきたっけな。
『この度の住民に対する非礼、心からお詫び申し上げます』
『守護天使……ね。つまりそこで悶絶している青年の?』
『はい。レイノス王国所属のダンジョンマスターで、名をトゥルースと言います。此度は偵察のためにライジングバレーへと赴きました』
俺は会長と顔を合わせて互いに頷う。そんなこったろうとは思ってたからな。
『偵察……ねぇ。どちらかと言うと遊びに来た感が強いんだけど?』
『本当は支配下の魔物に出す予定だったのです。ですがガリアーノのバスケスとのダンジョンバトルを観戦してしまい、「ここには多数の美少女が居る!」と鼻息を荒くして自ら乗り込むと主張し……』
アホくさ! そんな理由で来られるとか何とバカバカしいことか。これはカズトも同様に感じたようで、すぐさまトゥルースを叩き起こして食ってかかる。
『キミ! よ~く聞きたまえ。ダンジョンはともかくボクの美少女たちを狙うなんて言語道断! 考えを改めなければ相応の覚悟をしてもらうぞ?』
極一部が妙に引っ掛かる文言が気のせいって事にしとこう。だがトゥルースも負けてはおらず、一気に捲し立ててきた。
『フン、一人占めしようったってそうはいかない。世の美少女は全て俺ッチのもの、彼女たちの肉体も俺ッチのもの、彼女たちの秘密も俺ッチのもの、そして彼女たちのエッチな下着も俺ッチのもの! そう、俺ッチだけに許された特権なのさ!』
ジャイアニズムの大人バージョンとでも言えばいいか? それを恥ずかしげもなく両手を上げての大宣言。が、しかし、カズトは強烈なカウンターを用意していた!
『フッ、甘いな。砂糖を吐き出しそうなくらい甘いよキミィ』
『……なにぃ?』
『ミニスカで激しく動き回る彼女たちが無防備な姿を晒すとでも? そんなもの、とっくに対策済みさ』
『対策済み……だと? では俺ッチの見たものは……』
『スパッツという究極の防御シールドさ。全員が同じもので統一されてただろう?』
『……!』
『そうだったのかぁぁぁぁぁぁ!』
両膝をついて頭を抱えるトゥルース。そう、奴が見たのはスパッツであり、決して生パンではなかったわけだ。俺たちにしてみりゃ当たり前の対策で、別にガッカリはしてないぞ?
『クッ! 俺ッチとしたことが、巧妙な罠に掛かってしまうとは。道理で色気が感じられないと思ったんだよなぁ、コンチクショウめぇぇぇ!』
『フッ、勝負あり――だね』
『いいや! まだだ、俺ッチの夏はまだ終わっちゃいない! こうなったら俺ッチの本気、見せてやろうじゃないか!』
ついに本性を表すか!? コアルームの全員が警戒し、カズトも真剣な表情に切り替えたその時!
ガバッ!
『お願いします! 一度で良いんで生パンを見せて下さい!』
『キ、キミィ……』
トゥルースによる全力のジャンピング土下座にアイリたちはズッコケ、カズトも呆れ顔を見せる。何つ~かコレがダンマス? 世間が知ったらさぞガッカリするだろうな。
そんな予想をする俺たちと冷ややかな視線を送るミスキーなど気にも止めずに醜態を晒し続けるトゥルース。当たり前だがアイリたちがパンツを見せるわけもなく、ついには全身をワナワナと震わせ……
『フン、キミたちにはガッカリだよ。この俺ッチが頭を下げる事なんて早々ないというのに』
いやガッカリしたのはこっちだと内心で突っ込みを入れつつ次の台詞を待った。
『よし、決めたぞ。そっちがその気なら実力でいただくとしようじゃないか。そう、彼女たち3人を賭けて俺ッチと勝負だ!』
『『『な、何だってぇぇぇ!?』』』




