来る恋去る恋
「友よ、聞いてくれぇぇぇ!」
「か、和人?」
「ヂュヂュイ?」
ダンジョンの入口前で緑丸と遊んでると、今にも泣きそうな――というより既に泣きじゃくっているカズトが走ってきた。
「テルミアが、ああボクのテルミアが本郷に寝取られてしまったんだ!」
「はぁ!? どういう事だってばよ?」
「実は――」
いくらなんでも本郷に限ってそんな真似はしない。聞けばテルミアとのデート中に本郷と遭遇し、何故だかテルミアは本郷に付いてったのだとか。1人残されたカズトは疲れきったリーマンの如く肩を落として戻って来たと。
「仕方ないんじゃね? テルミアにとっちゃ一緒に歩いてた的な感覚しかなかったんだよ」
「ヂュヂュヂュ~~~、ヂュヂュヂュヂュヂュ~ヂュ~♪」
「だからって、見せつけるように本郷に付いていくのは納得いかない! 本郷も本郷だ、硬派を気取っておきながらテルミアに接近されて満更でもないって感じだったし! ついでに緑丸、器用に運命を口ずさむな!」
俺としちゃ好きにさせとけって感じだけどな。そう思って緑丸のご機嫌取りを続けようとした時だ。
「フッフ~ン♪ これは恋の予感がするよ~。恋愛センサービンビン♪」
「テルミアちゃん、ついに運命の相手を見つけたのね。これは応援しなくちゃ!」
「お前ら……」
どこから聞きつけたのか、あるいは恋話の匂いを嗅ぎ分ける能力でもあるのか、俺たちの側で緑川と戸田副会長が瞳を輝かせていた。
「というか2人とも、テルミアはボクと愛を育んでいたんだ、ポッと出の本郷はお呼びじゃないのさ」
「でも振られたんでしょ? 育んでた愛が幻でマジ草なんだけどww」
「グッ!?」30ダメージ
「その気になってたのは自分だけだった。有りがちな展開ですね」
「アゥ!?」10ダメージ
「ま~しゃあないじゃん? ウザがられて振られるのなんていつもの事っしょww」
「ヒグッ!?」20ダメージ
「これもまた経験。失敗から学ぶことも多いと思います」
「ゥゥゥ……」5ダメージ
「でも学べてないから失敗続きなんだよ? 副会長ちゃんもまだまだ甘いな~」
「アガガガガ!」30ダメージ
「そうかな? 利根川くんってそこまでバカには見えないけれど」
「バカって言われた……」10ダメージ
「教養と知識は別だよ~? 恋愛の知識が有ってもソレを生かせないんじゃ宝の持ち腐れだよね~。あ、そもそも利根川くんって自慢するほど勉強は――」
「グォォォォオ!?」50ダメージ
パタリ
「「「あ、死んだ」」」
ついに限界を迎えたらしいカズトがKOされてしまった。う~む、実に惜しい奴をなくしたな。
「――って、勝手に殺すな! そこに愛が有る限りボクは不滅さ!」
どうでも良いけどやっすい言葉で復活すんのな。
「とにかく、テルミアの現状は受け入れ難い。2人の行動を観察し、そこに不純異性交遊が有れば何らかの対策を行うべきだ、手遅れになる前にね。みんな、協力してくれ!」
「オッケオッケ~♪ 楽しそうだから付き合ってあげるよ~」
「私もです! 私と会長の幸せをテルミアちゃんにも分けてあげなくちゃ!」
な~に言ってんだかコイツらは……。
「よし、ならば早速行動だ。あの2人を追跡しよう。行くぞ相棒!」
「って俺もかよ!」
★★★★★
『こちらT、ターゲットの様子は?』
『こちらT、2人は市街地を逸れて郊外に移動中。依然として目的は不明につき、各自警戒を怠らないよう願います』
『了解』
『オッケ~♪』
ご覧頂けただろうか。至近距離での念話がここまで無駄だと思った瞬間はなかなか訪れないと思う。そりゃ4人で行動してるんだから現在進行形で半径1メートル以内に居るわけだし、話したきゃ小声で話せっての。
ついでにカズトと副会長よ、コードネーム被るとか更に無駄すぎん?
「んお? ちょうど良さげな切り株に2人で座ったな。後ろ姿だから表情は分からんけども、テルミアが本郷に体を傾けてるように見えるぞ?」
「ヂュヂュイ!」
『くぅぅぅ本郷め、どのような手でボクのテルミアを洗脳したと言うんだ!』
「いや、妙な手は使わんだろうし、手段だって持ち合わせちゃいないだろ……」
『何故分かる!? 脳筋バカな本郷のことだ、力で捩じ伏せたかもしれないじゃないか! しかも場所は郊外ときた、エロ同人なら間違いなく発展しちゃうね! ちなみに実在したら是非とも読んでみたい』
「うっさいわ! キチンと観察しないと見失うぞ」
程なくして2人は街中へと舞い戻る。戸田副会長の「チッ」という舌打ちが聴こえた気がするが心底どうでもいい。
『あ、パン屋に寄るみたいだよ? ちょうどお昼の時間だもんね~』
緑川の言うパン屋とはエルバドール帝国から亡命してきた兎獣人の2人――レスカとルインがやっている店だ。外部からの客は殆ど来ないから、実質街への食料提供所みたいなもんだけどな。
チリンチリ~ン♪
「あ、いらっしゃいませ~! 2名様ですか~?」
「おぅ」
「では他にお客様もいらっしゃらないのでカウンター席でどうぞ~」
「お、おぅ……」
思った通りここで昼飯にするつもりのようで、2人仲良く入口付近のカウンター席に着く。
『ぐぬぬぬ、2人でカウンター席だと? テルミアの隣に座るのはボクでなければならないんだ、相席してでも割り込んでやる!』
「落ち着けっての。カウンター席で相席とか意味分かんねぇし。仮にテーブル席だったとしても、「向かいに座るのはボクだ」とか言うんだろ?」
『当たり前じゃないか!』
ダメだこりゃ……。次行ってみよ~と言いたいところだが放置するのは危険だ。カズトの暴走は親友の俺が止めないとな。
『ボクは覚悟を決めたぞ、今こそ本郷の野望を阻止するんだ! 行くぞみんな!』
『レッツゴ~ゥ♪』
『了解です』
「しゃ~ない、最後まで付き合ったるわ」
チリンチリ~ン♪
「あ、いらっしゃいませ~! 4名様ですか~?」
「うん。それで悪いんだけど、ボクらはそこの2人を追跡中でね、そのテーブル席を使いたいんだけど良いかな?」
「良いですよ~」
交渉の末、2人をよく観察できる場所を確保できた。というより……
「……お前ら、コソコソと付き纏いやがって、何がしてぇんだ?」
クルリと本郷が振り向き、威圧的な視線を向けてくる。
「……いつからだ?」
「あん?」
「いつから気付いてた?」
「んなもんお前、入口から堂々と入るなり俺らを何度もチラ見してりゃ嫌でも気付くだろうが!」
はい、ごもっともです。
「はぁ……。利根川、どうせテメェが首謀者なんだろ?」
「しゅ、首謀者とは人聞きが悪い、レジスタンスと言ってくれ!」
「アホか! たかが女1人に振られたからって、執着すんじゃねぇ!」
ゴツン!
「イデッ!? ガチで父親にもブタれた事ないのに!」
そんな流れを見たテルミアが慌てて席を立ち、カズトと本郷の間に入る。
「ま、待ってください! これって私が原因なんですよね? いつの間にかお二人に多大な迷惑をお掛けしたみたいで……」
「いや、テルミアが謝ることじゃないぞ? カズトが未練がましく暴走しただけだし。それよりハッキリと言ってやって欲しい、カズトは恋人候補にはなり得ないってさ」
少々残酷だがカズト本人を納得させるにはこれしかない。いくらイケメンだからとて百戦錬磨とは限らんのだよ(←微妙に嫉妬が混ざってる)。
「へ? カズトさんが恋人候補? い、いえいえ、私はただ普通にお友達として接してただけなので、そういうのはちょっと……」
「そんなっ!?」
「ヂュヂュヂュ~~~、ヂュヂュヂュヂュヂュ~ヂュ~♪」
緑丸が口ずさむ運命の音色と共にガクリと崩れ落ちるカズト。だが直後、予想外の台詞がテルミアの口から飛び出す。
「恋人と言うのでしたら、私はその……ほ、本郷さんみたいな人が良いな……なんて思ってたり……」
「うぉう!?」
「「おっほぉぉぉ!」」
頬を赤らめながらの唐突なカミングアウトに本郷は椅子からずり落ちそうになり、緑川と副会長の2人は謎の悲鳴を上げる。いや俺も驚いたよ? まさかテルミアの方も満更じゃなかったなんてな。
ちなみにカズトはすっかり意気消沈したようで、ドロドロに溶けてスライムみたく床に這いつくばっている。転生して最強のスライムになれるよう頑張れ。
「お待たせしました~、ご注文の焼きそばパンです~」
「おぅ、これこれ。昼飯っつったらやっぱコレだよなぁ。ほら、テルミアも食ってみろよ、うめぇからよ」
「はい、ありがとう御座います。――はむ……ん~美味しいです!」
「だろ? これが有っから午後の授業も乗り切れたってもんよ」(←サボってたくせによく言う)
そして仲良く焼きそばパンを分け合う本郷とテルミア。それはもう端から見りゃ恋人同士にしか見えないものがあり、隣の女子2人も微笑ましく見ている。
「お待たせしました~、ご注文のチョコクロワッサンとポンデリングと味噌パンとハムカツサンドです~」
「おぉ、ソ~リ~レスカ。悪いがボクの夏は終わりを告げた。そのクロワッサンは大恩寺の腹にでも詰めといてくれ……」
「は、はぁ……」
そう言い残しフラフラと店を出ていくカズト。完全敗北は正にこの事で、しばらくはあのままだろう。ま、女好きのカズトには良い薬だな。
「でもさ~、利根川にあの雰囲気を撒き散らされると正直ウザいよね~」(←お~ぅ、辛辣~ぅ!)
「ですね。風紀の乱れは看過できませんし、鳥居くん、頼みますよ」
副会長に肩をポンと叩かれた。
「は? 俺?」
「だって親友なんでしょう? ケアするのは親しい者じゃないと」
「ケアって……元の女好きに戻せってこと?」
「全然違います。せっかく薬が効いてるのに和らげてどうするんですか。ほどほどに元気付けてあげればよいのです」
ま~た都合の良いことを……。
だがあんな状態のカズトから怒涛の愚痴を聞かされちゃかなわん。
「う~ん、何か良い方法は……あ!」
とってもナイスな方法を思い付いたぞ。これなら女好きのカズトも納得するはず。
「鳥居~、悪~い顔してるよ~?」
「ああ、ちょっと良い方法をな……」
★★★★★
コンコン!
「カズト~、入るぞ~」
「……ああ、親友か。悪いが身体の調子がいまいちでね、何もする気が起きないのさ。すまないがソッとしといてくれないか……」
こりゃ重症だ。やはり連れてきて正解だった。
「そうしょげるなって。親友として元気付けてやろうと思ってな、わざわざ来てもらったんだぞ? 入ってくれ」
ガチャ!
「おいおい、いくら親友でも家主の許可なく部屋に招き入れるなんて――」
「ヤ~~~ン、お久し振りね~~~ん♪」
「――って、アズール!?」
そう、俺が呼んだのは自称大天使であり極度のメンヘラでもあるアズールだ。
「どどど、どうしてここに?」
「そんなの決まってるじゃない。大事な彼氏候補が究極の大ピ~ンチ! って言うじゃないの。それを聞いて大人しくしてるほど慎ましい性格じゃないのよあたし!」(←慎ましくして下さい)
相変わらずの際どいミニスカと強調した胸元で色気を振り撒くアズールを横目に、カズトはギギギと顔を俺に向け……
「……ススム、いくら親友とは言えこの仕打ちはあんまりじゃないかい?」
「すまん、これしか思い付かなかった」
「オ~ゥファッキュ~! せめてそこはボク好みの女の子を紹介したりするとこだろう! 入学からこれまでボクの何を見てきたというんだい!?」
そりゃ女癖の悪さを散々見てきたよ。だからこそ無害な女の子は紹介できん。断じて。
「見ての通りだアズール。カズトはとある女の子に振られて傷心中なんだ。大人の包容力で癒してやってくれ」
「フッフ~ン、そこであたしを選ぶなんて良いセンスしてるじゃな~い。キミも一緒に癒して・ア・ゲ・ル♪」
「お、俺はいいから、間に合ってるから! じゃあ後は頼んだ!」
バタン!
「チッ、逃げられたか。まぁいい、男はもう1人残っている。――さぁカズトく~ん? お姉さんと楽しいことしましょうね~♪」
「ひぃぃぃ、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」
そんな悲鳴がダンジョンに響いたとか響かなかったとか。今日は久々に平和でしたっと。




