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幽霊船鹵獲作戦

 クックという名の幽霊船の船長が私たちを取り込むと宣言。仲間として迎える、つまりアンデッドにする気らしい。


「フン、冗談じゃないわ! 誰がアンタみたいな汚ならしいオッサンの仲間になりたがるってのよ。アンタらと一緒にされるくらいならキモオタに粘着される方が百倍マシよ!」

「グッ!? こ、この私を汚ならしいだとぉ!?」

「だってそうじゃない。そんなオンボロな服でイキリ散らかして、大の大人が恥ずかしいわ」


 なんかムカついたから思ったことをブチまけてやると、加瀬やトワまでそれに加わる。


「せやせや! ホームレスかてもう少しまともな格好やで?」

「ホ、ホームレスだと!?」

「さしずめヴィンテージ物を装った紛い物ってところかしら? 一言で表すのならガラクタですわね」

「ガ、ガラクタと抜かしたか!」

「そう言えば何か臭いどぉ」

「何となくだが貴様には言われたくない!」


 おまけに大恩寺にまで臭いと言われ、クック船長は怒り心頭。


「い、いいだろう、ここまでコケにされては黙っておれん。大人しく従わせるため少々痛い目を見てもらおうか」


 シャキン!


「切っ先を向けてきよった! コイツら本気やでぇ!」

「ちょっと、加瀬と大恩寺はともかく、こんな美少女を斬りつけるつもり!?」

「フハハハハハ! どのみちアンデッドと化すのだ、多少の損傷は致し方あるまい」

「おんどれぇ、アイリもお前もみ~んな鬼やで!」


 剣を向けてにじり寄ってくる骨海賊。これが現実世界なら無抵抗にやられてたでしょうね。けど今は違う!


「こうなったら奥の手よ。最強のボディーガードを召喚してコイツらを圧倒しちゃいましょ!」


 脳裏に浮かんだリストから素早く選別。ちょっと高いけど気にしない。だって人生で最大のピンチなんだから!


「刮目(かつもく)しなさい! 最強にして最高の戦士、ヘビィメタルファイター!」


 目の前に魔方陣が浮かび上がり、いざ召喚!



 ――というところで、脳裏に警告音が鳴り響くと同時に聞き慣れない声が。


『ヘビィメタルファイターは10000P消費と高額です。後先考えずに召喚するのは止めましょう』


 はぁ? 誰? 感情の籠ってない女の子の声が聴こえてきたんだけど……。


『アンタ誰よ? どうやって念話を……』

『わたくしはナビィ、ダンジョンのナビゲーターです。ダンマスである貴女たちになら、いつでも念話が可能です』

『『『ナビゲーター!?』』』


 全員でハモったじゃない。


『なんやそら。ナビゲーターなんてもん、今までなかったやろ?』

『これからは必要になるだろうとして議題に上げられ、あなたたちが居ない間に賛成多数で可決されました』

『何て野蛮な! よくもわたくしたちを蔑(ないがし)ろにして勝手なことを!』

『勝手に出て行ったのは貴女たちです。ザマァないですね』

『何がザマァよ! ダサい名前のくせにイキがってんじゃないわよ!』

『それは名付け親の会長に言って下さい。わたくしだって我慢してるんです!』

『『『会長……』』』


 今まで塩対応だったのが急に感情が爆発してやんの。こればっかりは同情してあげてもいいかもね。


『――って、そんなことより早く召喚しちゃって!』

『ダメです。貴女を含む4名にはDPの使用制限を掛けさせていただきました。今日だけで数百ポイントも使用している現状、せいぜい1000ポイントが上限ですね』

『ですね――じゃないのよアホンダラ! 状況分かってて言ってんの!? 時間が無いんだからさっさとしなさい! この際1000ポイントでも構わないから!』

『あ~はいはい、分かりましたよ。ったく最近のクソガキは……』



 シュ~~~~~~ン!



 文句を垂れなからも魔方陣だけはしっかりと展開される。そして現れたのは……



「へへ、俺様の手を借りたいって? なら期待に応えてやろうじゃねぇか。このキャプテンシーザー様が1人残らず蹴散らしてやんよぉ!」


 キャプテンシーザー=1000P


「おお、爽やかなイケメン海賊が出てきよったでぇ! ネームドキャラやし、絶対に強いやろ!」


 加瀬の言う通りよ。名無しのモブよりネームドが強いのは常識なんだから、海賊なんて相手にならないわ。


「お願いシーザー、小汚ない海賊をやっつけちゃって!」

「フッ、任せな。俺こそが最強の海賊だってところを見せてやるぜ!」

「小癪(こしゃく)なぁ! 海軍をも相手にした我々に1人で挑もうとは片腹痛い! 目に物見せてくれるわ!」



 ガキガキガキィィィン!

 


「ま、参った。多数が相手じゃ敵わなかったよ……」

「「「弱っ!」」」


 キャプテンシーザーよっわ! 1000ポイントの強さじゃないんだけど!?


「ちょっとちょっと、冗談でしょ? こんなあっさり負けるなんて聞いてないんだけど!? ――あ、そうか、やられたと見せかけて一気に畳み掛ける作戦よね、そうなのよね? ね!?」

「む、無茶言うなよ、あっちは10人以上も居るんだぞ? こんなの多勢に無勢じゃないか……」

「嘘……」

「あの~、ワシ1人でしか相手にしてないんだが?」


 勝てると思ったのにこんな形で終わっちゃうの? そんなの嫌よ!


「しっかりしなさいキャプテンシーザー、私たちを救えるのはアンタしか居ないのよ!? 多人数のアイツらが卑怯だからって、そんなの言い訳にしかならないのよ!」

「いや、戦ったのはワシ1人……」

「さぁ立ち上がって! アンタが最後の希望なんだから!」

「さ、最後の……希望?」

「そうよ、さっきは相手が悪かったのよ、今度はあの船長だけを相手にしなさい!」

「う……うぉ……おおおおおお!」


 あ、ホントに立ち上がった。苦し紛れに焚き付けたんだけど上手くいったわ。


『面白かったので特別に全回復しました。本当にこれが最後ですからね?』

『マジ!? 助かるわ!』


 パーフェクトヒール=100P


 ナビィの気まぐれに助けられる形でキャプテンシーザーが立ち上がる。


「ほぅ、散々叩きのめしてやったのに立ち上がるか。その勇気だけは認めてやろう。だが勇気と無謀は似て非なるもの。貴様は無謀という二文字を魂に刻むことになる」

「へ、それでいいさ。勝てないのは承知の上、だけど男には決して退けない戦いってもんがある!」


 ダッ――――ガキン!


「くぅぅ……」

「クハハハハ! 威勢だけは良さそうだな? だが実戦経験は違うと見た。おおかた海賊に憧れた冒険者崩れだろう。その程度の剣捌きで私に勝とうなど笑止千万(しょうしせんばん)。己の未熟さを知れぃ!」

「グワァ!?」


 勢い良く斬りかかったシーザーをクック船長が弾き飛ばす。やっぱりダメなの? シーザーじゃ勝てないの!?


「すまないみんな。俺みたいな舞台役者じゃ本物の海賊には勝てなかったよ……」

「「冒険者ですらないのかよ!」」


 加瀬と船長が盛大にハモる。こんなのが1000ポイントとか有り得ないんだけど!


『どうなってんのナビィ、コイツのどこに1000ポイントの価値が有るってのよ!?』

『整った顔立ちとスリムな体型ですね。一般人とは訳が違います』

『戦闘は?』

『無理に決まってるでしょう。バカなんですか貴女?』

『召喚したアンタが言うな!』


 でも召喚した以上は役に立ってもらわなきゃだわ。敵は油断してるし、コイツ(シーザー)を盾にして(←酷くね?)何とか逃げる方法を……


「こうなりゃ逃げるしかないわ。大恩寺、アンタ足遅いんだから先にボートに戻りなさい。――大恩寺?」


 あれ? 大恩寺が居ない!? 慌てて辺りを見渡すと、大樽を抱えた大恩寺が下から這い上がって来た。


「大恩寺、アンタどこ行ってたのよ!」

「喉さ乾いだがらジュースを探してたんだど。ほれ」


 ドスン!


 目の前に置かれた大樽からフルーティーな香りが漂ってくる。まさか本当にジュースが!? と思ったところへクック船長の怒号が飛んできた。


「おい貴様ーーーっ! それは私が長年かけて熟成させている果実酒ではないか! 他人の物を勝手に持ち出しよってからに、常識ってもんを知らんのかーーーっ!」

「ホヘ?」

「ホヘ――ではない! 今すぐその樽から離れんか~~~い!」

「ンクンク――プハァ!」

「話を聞けーーーっ!」


 船長を無視して酒を飲み続ける大恩寺。その光景を見た他の船員(スケルトン)が、コソコソと囁(ささや)き合う。


「そういや船長って酒に弱かったよなぁ?」

「ああ。すぐに酔っちまうからアルコールの度数もかなり抑えられてたはずだぜ」

「俺も飲んでみたけど果実水と変わんなかったなぁ」


 だから大恩寺でも飲めるわけね。


「貴様らーーーっ! 下らん事を言ってる暇があるなら酒樽を取り返してこーーーい!」

「「「イ、イェッサーッ!」」」


 まずいわ、スケルトンが複数でやって来る!


「逃げるわよ大恩寺!」

「ちょ、ちょっと待つだど、急に背中を押されたら――」



 グラ……



「ヒィ!? 酒樽が倒れる!」

「あかん、大恩寺の数倍は有る大樽や、倒れたら酒まみれやで!」


 地を這うようにして離れる私たちとは反対に、クック船長は顎(あご)が外れそうなくらいに大口を開けて怒号を上げ、他の船員を掻き分けて樽に向かって突進してきた。


「んだぁぁぁぁぁぁ!? 私の大切な秘蔵の百年物がぁぁぁぁぁぁ! あにすんだ貴様らーーーっ! 」



 ガシィ!



「おっしゃあ! 間一髪――」


 倒れる寸前にクック船長が滑り込み、ガッチリ支えて事なきを得る――はずもなく……


「――って、むごぉぉぉ!? こ、このままでは倒れる! 貴様らぁ、見てないでさっさと手伝わんかーーーっ!」

「「「イェッサーッ!」」」


 船員も樽に張り付くものの、骨だけの彼らに大樽を支える力が有るはずもなく……


「「「ンンンギャァァァァァァ!」」」


 中身を盛大にブチまけつつ大樽は倒れ、骨野郎共をベッキベキと踏み潰した。


「た、助かった……んですの?」

「多分ね……」

「と、取りあえずアレや、会長らに連絡取ってみるで」

「そうね、頼むわ」


 酒に侵食されていく床を眺めつつその場にヘタリ込む私たち。まったく生きた心地がしなかったわ。こんな事ならダンジョンでおとなしくしとくんだった。


「しっかしアイリはん、えろぅ疲れた顔してまんな? 助かったんやからもっと喜ばな」

「んだど。このジュース美味美味だど」

「アンタらねぇ……。命からがら助かっただけなのに何を呑気に言ってんのよ」

「まったくですわ。今だけならお洋服の汚れも多少は我慢できましてよ」


 そう、この時の私たちは完全に油断しきっていた。本来ならさっさと脱出すべきところをその場に留まっちゃったのよ。

 そんな私たちを嘲笑うかのように、カチッカチッという不気味な音が辺りに響く。


「ん? 何の音や?」

「何かと何かが重なってくような音? いったいどこから……ん?」


 その時、大樽の下から何かが這い出て来ようとしているのに気付き、その一点に視線を奪われてしまった。床を引っ掻くような音も聴こえるし、いったい何が?

 そうこうしていると、ついに隙間から白いものが這い出てきた。よく見るとそれは骨のようにも見え――って!


「これって骨じゃないの!?」

「クソッ! さすがにアンデッドや、潰されただけじゃ倒せんって事やろ」


 それから間もなく骨と骨が重なっていき、元のスケルトン共が再臨! クック船長がわざとらしく埃を払う仕草をし、こちらへと向き直った。


「やれやれ、まさか這いつくばって酒を煽る羽目になろうとは。これだから常識のない連中は好かんのだ」

「アンタらの存在も充分非常識よ」

「お互い様だと言いたいのか? よかろう。ならばここでの仕来りというものを貴様らに教えてやろうではないか」

「別にいらないわよ!」

「クック、遠慮することはない。時間は無限に有るのだから、百年かけてじっくりと教育してやろう」


 ざけんなっての! 骨と生涯を共にするほどスクールアイドルは安くないのよ!


「クックックックッ、そんなに顔を強張らせたとて状況は変わらんぞ?」

『いいえ。た(・)っ(・)た(・)今(・)、状況は変わりました』


 私にも聴こえる。この声はナビィ!


「なっ!? だ、誰だ! 私の脳裏(←脳ミソ無いくせに)に直接語りかけてくるのは!?」

『すぐに消え去る貴方に説明したところで時間の無駄です。……が、それだとあまりにも哀れですので、簡単にお話ししましょう。おバカな貴方たちがチンタラやってるうちに、わたくしめが増援を差し向けたのですよ』

「ぞ、増援だと!?」


 おバカな貴方たちがチンタラ……。そのフレーズに私らが入ってる気がするのは気のせいかしら……。


『その増援は先ほど到着し、鹵獲作戦(ろかくさくせん)が始まっているのですよ。周りをご覧なさい。光を帯びた紐のようなものが見えるでしょう?』

「光を帯びた……ま、まさか!」


 そう叫んだクック船長の声は、唐突に発せられた船の軋(きし)み音により書き消される。よく見れば光る紐が船全体を絡め取り、上昇し始めているところだった。


「マズイ、マズイぞ、冥界霧(ハデスミスト)はこの場から離れてしまっては効果が切れてしまうのだ! 早くこの紐を断ち切れぃ!」


 バチィ!


「クソあっつぅ!? たかが紐ごときが焼けるような痛みを!」

『足掻いても無駄ですよ? この光はアンデッドに対し特効。触れたアンデッドは焼き払われてしまうのです』

「んな殺生な!」

『船員たちを見なさい。皆安らかな顔をしてますよ?』


 周囲では光に触れた船員たちが次々と炎上。苦しそうな呻(うめ)き声を上げて燃え尽きていく。


「安らかな顔だったの? いかにも悔しそうって感じだったけど……」

『それは些細な問題です。さぁ、それよりもハデスミストから抜けますよ? 総員、近くの手すりに掴まってください』

「え? 近くに手すりなんて――」



 ズシャ~~~~~~ン!



 手すりなんてものが在るはずもなく、私たちは軽く宙を舞う。何とも言えない浮遊感を味わったかと思えば、きったない床に全員で強制尻餅。けど加瀬だけは顔面からダイブしていた。


「――って、何でワイだけ顔面強打やねん! 不公平やないかい!」

「日頃の行いでしょ」

「日頃の行いですわ」

「日頃の行いだべか?」

『日頃の行いでしょうね』

「……しまいにゃ泣くで?」


 何とか無事に霧から脱出したようで、綺麗な夜空が写り込む海の向こうにライジングバレーに続く谷が見える。ドッと緊張感が緩んだ私たちに、真上から声がかけられた。


「お~~~い、みんな無事かね!?」

「その声は会長か! この通りみ~んな無事やで!」

「うむ、無事でなにより。では引き続きこの船をダンジョンまで運び込む。もうしばらく待機するように」

「おぅ! ――って、何のこっちゃ?」

「おっと、説明がまだだったな。実は――」


 会長が言うには、私たちが戻らないのは幽霊船に遭遇したものと断定し、場所の特定に乗り出したらしい。そして見事に緑丸が特定してくれて、ナビィに救出までの時間稼ぎをさせたのだとか。


「な~んだ、最初から勝負は決まってたんじゃない」

「当然ですわ。わたくしのような美女が途中退場だなんて、例え脚本家が決めたとしても世間が許しませんもの」

「バカものぉーーーっ!」

「「ヒィッ!?」」

「自分たちの行いで全員の命を危機に晒したのだ! 1人の身勝手な行動が全員を死に至らしめるというのを忘れるな!」


 会長に怒鳴られて私たちは縮こまる。すっかり失念してたけど、誰か1人でも死んだら全員が死んじゃうんだったわ。その事実を思い出してシュンとなる私たちに、更に会長が追い討ちをかける。


「では諸君らにはナビィ監視の下、反省レポートを各自で提出してもらおう」

「「「え~~~っ!?」」」


 くうぅ……こんなはずじゃなかったのにぃぃぃ! レポートの提出とか骨を相手にするよりしんどいわ……。


「クックックックッ、日頃の行いというやつだな? これは神聖な領域を土足で踏みにじったクソガキへの天誅であ~る! せめて私のように清い心で居れば良かったものを。では私はこの辺で失礼を……」


 どさくさに紛れてクック船長が逃げ出そうとする。が……


「あ~、そこのキミ、クック船長と言ったかな?」

「……なんで御座いましょう?」

「最低1人は船に詳しい者が欲しかったのだ、今後とも宜しく頼むぞ」

「はぁぁぁ!?」


 巻き添えを食う形でクック船長も捕らわれた。いっそレポートの提出もコイツにやらせようかしら?


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