第1話 文無しは文無しを呼ぶ
異世界、と言っても魔法のようなもの以外の景色は地球にいた時とさほどの違いを感じなかった。
「そういえば徹くんは大丈夫だったかな、巻き込まれてこっちに来てたらほんとに申し訳ないな。」
銀次は言語が相手に通じるかを調べるも兼ねて徹のことを聞いてみることにした。まずは手軽に話せそうな人がいいなと思い通りの脇に座っていた若い男に話しかけた。
「すいませ」
すいませんと言い切る前にその男は声を張り上げた。
「おぉっと、もしや貴方はこの俺様の力を見抜いて声をかけたんだろ!今なら特別サービスでなんと無料で護衛を受けてやるよ。どうだ、悪くない話だろ?」
この世界に来て早速過ちを犯してしまった。完全に話しかける相手を間違えた。いや、もしかしたらこの世界がこれが普通なのかもしれない。
そう考えあたりを見渡すと周囲から哀れむような悲しく冷たい視線がここへ集まっていて関わらないよう皆 速歩きで通り過ぎて言った。この世界においてもあれは普通じゃなかったらしい。同じような常識を持っていたことに嬉しい反面、この男をどうしようかと迷っていた。
「すいません、今護衛とかは必要としてないんですよ。それよりも灰色の髪で痩せ型の青年を見ませんでした?」
「それなら、半日ほど前に何かを探しているような感じで走り回っていたぜ。お目当てのものがなかったのかこの街をすぐ出て行ったみたいだったけどな」
「そうか、やっぱり徹くんも来てしまったのか。あの子にはとても迷惑をかけてしまったな」
「じゃあ護衛じゃなくてその子を探すのを手伝うってはどうだ?こう見えてもかなり腕は立つ方なんだぜ。俺様が付いてれば森の獣たちだってビビって道を開けてくれるだろうしよ」
そう言うと彼は近くに立て掛けてあった剣を持って来て、抜いて見せた。確かに様にはなっていた。腕が立つと言うのもあながち嘘には見えない。
「もしかして君も魔法が使えるのかい?火を操ったり風を操ったり」
「魔法ってのは創界術のことですよね?んなもん俺様が使えるわけねーだろうが、何寝ぼけたこと言っていいやがるんだ」
いちいちムカつく奴だなと思いながらやっぱりさっきの言葉は嘘だったのではと疑心暗鬼になる。
その時向こうの路地から女の人の叫び声が聞こえた。
「キャー、泥棒よー!誰か捕まえてー!」
すると、さっきの彼は一瞬で向こうまで駆けて行った。銀次も後から追っていくと彼はもう泥棒を捕まえて締め上げているところだった。
「ありがとうございます。おかげで助かりました。」
「あとはそこら辺にいる衛兵に受け渡せば大丈夫だ」
「あの、お礼にここに売ってる果物をいくつか...」
「遠慮しとくよ。なんせ正義の味方っていうのは見返りを受けないからこそかっこいいんだからな!」
そう言ってこっちに戻って来た。
「どうだ、一緒にいればかなり役に立つと思うだろ?というか絶対に必要になってくるぜこの先。」
確かにさっきの速さを見る限り、かなりの強さだってことはわかった。
「じゃあお言葉に甘えて手伝ってもらうことにするよ。」
「ほんとか⁉︎ 感謝するぜ!あ、そう言えば自己紹介がまだだったな。
俺様の名前はフリート・シュヴァルツ、フリートでいいぜ!」
「僕は播磨銀次、銀次でいいよ。よろしく」
「銀次か、呼びにくい変な名前だな」
どうやらこの地では、いや最悪この世界では日本の名前はめすらしいらしいらしい。
「とりあえずもう時期日も暮れるし飯でも食いに行かねーか?」
「いいけど僕はお金なんて持ってないと思うけど...」
「冗談きついぜ、その服を見る限りかなりの身分だろう?金だってそれなりに持ってるだろ?」
「僕が持っているのはこんなものしかないけど、おそらく使えないだろう?」
そう言ってポケットから財布を取り出すと、中から5000円と幾らかの小銭を出した。
「うわ、マジでそんなのしか持ってないのか?紙切れ一枚に薄っぺらい金属なんて何に使うんだ?っていうか今までどうやって生きてきたんだよ」
「その銅貨1枚ってのでご飯は食べれるのかい?」
「あぁ?無理に決まってんだろ。冗談も休み休みにしろよ。安いとこでも銅貨15枚、2人ぶんなら30枚は必要だよ」
予想通りの返しではあったが銀次はかなり落ち込んだ。フリートの方も当てが外れたように呆れていた。
「まぁ無い物ねだりをしても仕方ない。今夜は近くの森で獣を狩って食べるしかないねーようだな。ってことでさっさと行こうぜ」
「やっぱりそれしかないよなぁ」
それ以外方法もないというので仕方なく2人は森へと向かった。
「どうせならこのまま徹って子を探す旅に出るのはどうだ??金が無いなら運び屋も雇えないし、結局のところ歩くことになるからな」
「そうするのが良さそうだね」
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森に着いた2人は早速狩りを始めることにした。
「俺はこの刀で狩るけどお前は武器とか持ってるのか?」
「武器なんて持ってないからとりあえずは素手でいけるか試してみるよ」
「いくら何でも素手はきついだろ?だったら俺の剣を貸してやるよ。俺様なら畜生ごとき素手でも十分だからな。」
「すまないな、じゃあ借りることにするよ」
「じゃあだいたい1時間を目安にここにまた集まろう。時計とか持ってないから感覚でだけどな」
二人は別々の方向へ走って行った。
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しばらく走ると銀次は二頭のイノシシを見つけた。気配を消して背後に回り片方のイノシシに飛びかかりその首を落とした。
「初めて剣を振ったが結構重いもんだな。」
血のついた刃をもう片方のイノシシに向けるとそのまま勢いよく串刺しにした。そして剣を振り刃についた血を振り払うと鞘に収めた。
銀次はその後も獲物を探し続けはしたが結局最初の二頭以外は一頭も見つけることすらできなかった。
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約束の1時間が経ち二人は再び合流した。フリートの方もこちらと同じように獲物をなかなか見つけられなかったらしいが、それでも三頭のイノシシを狩ってきた。取ってきたものは早速火を通して食べることにした。
「「いただきます!」」
二人は談話をしながら夕食を楽しでいた。お互い二頭目のイノシシを食べ始めようとしたその時、向こうから力のない呻き声のようなものが聞こえてきた。恐る恐る見に行ってみるとそこには金髪の少女が倒れ込んでいた。
「すいません、食料を恵んでもらえませんか。そうしたら何でも言うこと聞きますから。何でもです。」
見殺しにするのもかわいそうなので余っていた一頭を彼女にあげた。聞くところによると彼女も金欠ゆえにこんな森に来たらしいが獣が見つからなくて餓死寸前だったとか(自分で言うには)
「ほんとーにありがとうございます。お礼にどんなこと何なりとお受けします。」
「じゃあ俺様の前で全裸で踊れ」
「承知しましたー!」
そう言って服を脱ごうとする少女を銀次は慌てて止める。
「こらこら、君は若いんだからもっと自分を大切にしないと。フリートも変なこと言わない」
「君じゃないです、私の名前は ソフィア です。じゃあ銀次さんが何か命令してくださいよ。」
「えぇっ、僕は特になにも考えつかないよ。それにお礼なんて大丈夫だよ」
「そういうわけにはいきません。こっちにだってプライドがありますから。命の恩人に礼もなしで引き下がることなんでできません。どうしてもっていうなら礼を返すまでずっと一緒について行くことにします」
こうして銀次の異世界生活、第1日目は2人の仲間を加え幕を閉じたのであった。




