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第15話 海上都市エウローパ

「いやー、助かった助かった。まさか寝っ転がっただけで壊れるほど筏にガタがきてるとはな。危うく溺れ死ぬところだった。」


能天気で楽天的な男の態度からは、とてもあの化け物を倒した怪物のような男と想像するのは容易ではない。


「ほんとアリーはおバカさんだよねー。私が拾い上げてなかったら今頃は海の底よ。」


黒ドレスの彼女は、血界を使った血の荊で男、アリーを船へと持ち上げたのだった。


「命の恩人にバカとはなんだよ、バカとは。俺があいつ倒してなけりゃ今頃海の底にいたのはロゼの乗ってたこの船だろ。もう少し感謝の気持ちを持ってもらいたいもんだねー。」


「あれくらい私の力だけで倒せましまたー。それなのに勝手に船を救った英雄気取りだなんて恥ずかしいったらありゃしない。その上溺れているところを私に助けられちゃってさ。感謝するのはどっちかしらねー。」


「確かに助けてもらったのは感謝するよ。だが、ロゼの能力じゃあ相性が悪すぎてあの怪物は倒せない。よって、ロゼの方も俺に感謝すべきだ。」


「じゃあちょっとだけ感謝しとくわ。」


「なんだよちょっとって。」


「ちょっとはちょっとよ。」


くだらない2人の口論に終止符を打ったのは銀次だった。


「お話中すいません。僕たちの方からもお礼を言いたくて。」


銀次とソフィアと少しだけ回復してきたフリート、その他の乗客と手の空いた船員もきてそれぞれ例を言う。


「あなたがいなかったら今頃どうなっていたか。感謝しています。本当なら何か礼の品でもお渡ししたい所なんですけどあいにく持ち合わせがなくて。」


ソフィアは深く頭を下げる。


「持ち合わせがないってんならお嬢ちゃんの身体でお礼をしてくれればいいんじゃないか?」


アリーは、いやらしい手の動きと目つきで提案をする。


「か、からだ、ですか?」


困惑が隠せないソフィア。

するとすかさずロゼがアリーの頭を小突いた。


「痛っ。冗談に決まってんだろ。からかってみただけだって。」


頭をおさえながらアリーが文句を垂れる。


「あんたのその顔で言われると冗談も冗談に聞こえないのよ。」


説教によって冗談だと知ったソフィアは安堵の表情を浮かべる。まだ若い彼女にとっては冗談だとしても恐怖を感じるものだろう。


「それよりも、お嬢ちゃんのその連れってもしかして最近噂の創界術を無効化できるっていう男かい?」


男は傍にいた銀次を指差す。


「そうです。僕が創界術を無効化できる男です。播磨銀次って言います。」


「やっぱりそうか。」


納得した表情を見せるアリー。だが、その顔はすぐさま険しくなる。


「てことは断罪師の真似事をしてるってのもあんたら2人と後ろの船酔いであってるよな?」


「そうです」


「だったらそんな事今すぐにやめるんだな。お前らじゃ力不足だ。」


アリーの口から出た唐突な否定。自分たちの行いに感謝されることはあったものの否定されたのは初めてだったため戸惑い口をもごつかせる。


そんな銀次を見てアリーは追い討ちをかけるように言い放つ。


「確かに好き勝手やってる貴族の奴らをどうにかしようという志は良いことだと思うよ。こんな世の中じゃみんな揃いも揃って言いなりの人形だからな。」


「だったらー」


「だがな、お前たちじゃ圧倒的な力不足なんだよ。敵は数が多い上にヴラドは格が違う。執行人ごときに手を焼くような現状では相手にならねえ。」


「ーーー」


「唯一可能性があるとすれば剣士の兄ちゃんだけだな。兄ちゃんなら修行すれば俺たちなんて容易く超えられるだろうよ。」


「だったら、私たちはどうすればいいのよ。苦しんでいる人たちをただ見過ごせって言うの?」


押さえ込み、溜め込んでいた感情がソフィアの心から溢れ出し、絶叫する。


「俺様もソフィアと同じだ。力不足ってことに関しては俺様がどうにかすればいいんだろ?」


なんと言われようと二人の意思と決意は揺るがなかった?


「お前はどうなんだ?」


この場にいた全員の視線が銀次に集まる。


「僕は死ぬのが怖い。仲間を失うのだって怖い。この先待ち受ける敵のことを考えたら怖くて身震いしてしまうーー」

「けど、僕が一番怖いのは苦しむ人たちを見捨て、命を命とも思わないような奴らを見逃すような臆病な自分になってしまうことだよ。」


「そうか。ならもう俺から言えることは一つしかないな。」


次なる言葉を前に緊張する三人。重々しい空気になる。


「俺たちがお前たちを特訓してやる。」





* * * * * * * * * * * * * * * * *



そんなこんなで着いた次なる地、『海上都市エウローパ』。特訓してやると言われ疑心と喜びが混ざった複雑な気持ちの三人。


だが、そんな心境であっても断れるような状況でもなかった。事実、アリーに言われたように銀次たちは圧倒的な力不足であった。このことは、本人たちもある程度は自覚していた。また、航海中の出来事、クラーケンを一撃で倒したアリーを見てその自覚は三人に行先に対する不安を覚えさせていた。

そして、その張本人が修行をつけてくれると言うのだ。これは、素直に喜ぶべきことなのかもしれない。


それに、銀次たちの目的地、ヴラドが治ている都市、『殺戮都市ブレストキア』へ向かう船が来るのは一週間後の夜。つまり、7日間は暇になると言うことだ。本当ならこの期間でまた荒稼ぎをする予定だったが、アリーがいくらか金を貸してくれると言うのでそれに頼ることにした。だが、お金をくれるのではなくあくまで貸してくれるだけだ。見た目に反して心は男前ではないようだった。


そんな感じで、明日から一週間の特訓が始まることになった。







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