第13話 高速鬼ごっこ②
「これまた厄介なことになっちまったねぇ。3人揃っちまうとはなかなかやるねぇ」
「こうなったらあれを展開させる。アタイは一旦距離をとって準備をするから時間を稼いでくれよ。」
「わかったよ、ビヨンセ姉ちゃん」
「もうお前らの好きにはさせないぜ。」
ビヨンセの創界術を銀次に解いてもらったフリートが距離を詰める。だが、いち早く反応したビヨンドが行く手を阻む。
「お前の相手は俺っちだぜ。」
「陰界 "シャドーハンズ"」
ビヨンドの足下の陰から幾つかの黒い手が這い出るとそのまま屋根を伝ってフリートに襲いかかる。
フリートは剣を抜くと、目にも留まらぬ速さで全ての手を切り落とした。
すると、ビヨンドはもう一度黒い影の手を出し、御構い無しに周りにある屋根を叩き割って行く。壊れた屋根の一部が勢い余って下にいる町の人へと落ちっていったが、寸前にソフィアが銃で粉々に打ち砕いた。
「あんなに無茶苦茶やるなんて想定外だわ。このままだと町の人々にまで被害が及んでしまうわ。銀次、あなたの力であれを止められない?」
「知っての通り僕の力は触れないと発動できない。そうなると、まずあれに近づく方法を考えないとだよ。」
「それなら俺様が銀次の盾になってやるよ。それなら近づけるだろ?」
「わかった。念のためソフィアはビヨンセという女の方に注意してくれ。後ろからの援護も頼む。」
「任せてちょうだい」
銀次の前をフリートが走り、ビヨンドが投げてくる瓦礫を剣で破壊していく。
そして、ビヨンドのすぐ目の前まで迫った。
「くそ、あいつら止まらないよビヨンセ姉ちゃん、もうあれを使ってもいいよね?」
「あれはまだダメだ。こんな所で使ったら死人が大勢出て騒ぎになっちまうよ。だから、もう少しだけ耐えてくれ。」
「わかったよ、ビヨンセ姉ちゃん。」
「でもこのままじゃやられるだけだ。もう少しだけ足掻かせてもらうよ。」
「何かしかけてくるよ。油断しないで、フリート。」
ビヨンドの足下から這い出ていたいくつかの陰は、するすると足下へ帰っていきそのままビヨンドの陰の中へと引き込まれ消えていった。そして、またしても不敵な笑みを浮かべた。
陰界 "絶影"
ビヨンドの姿が少しずつぼやけていった。そして、男は不敵な笑みと共に視界から完全に消えた。
「あいつ、消えちまったぜ。これもあいつの能力なのか?」
目の前で消えた男の行方に疑問を持ちながらも剣を盾にしながら慎重に警戒しながらゆっくりと足を進める。
ガタンッ
突然後方から瓦礫が崩れたような音が鳴った。そして、二人の研ぎ澄まされた意識は大人なった方へと向けられた。だが、相変わらずそこに人の姿は見えない。
そのがら空きになった背中に鋭利な刃物が刺された。ビヨンドは最初からこれを狙っていたのだった。
「ぐはっ。」
刺された部分から血が飛び散り口から吐血する。
「しっかりするんだ、フリート。このまま流血させ続けるのはまずいな。」
このままじゃフリートだけでなく自分もやられてしまう。そうなる前に何とかしなければ。
「心配するな、大丈夫だ。それに、もうあいつの刃は俺様には届かない。」
「何か対策でも思いついたのかい?」
「ああ、さっきの一撃で運良くだがな。今度はこっちの番だぜぇ」
(何か策が思いついたとか言っているが、播磨銀次が触れない限りは俺っちの姿を捉えることは不可能。だから、次の攻撃も防ぐことはできない。そして次に狙うのは播磨銀次。てめぇだぁ。)
透明と化したビヨンドが再び二人に襲いかかる。
だが、銀次に刃を突き立てようとした時、まるでビヨンドの姿が見えているかのようにフリートが剣で斬りかかった。
(まさか俺っちの姿が…嫌…そんなはずはない。そもそも奴らに触れられていないのだからな。さっきのはただのまぐれだ。次こそ…)
もう一度攻撃を仕掛けるビヨンド。だが、今度は、フリートの剣が確実にビヨンドの身体をとらえた。
「なぜだ、なぜ俺っち位置がわかったんだ。お前らには見えないはずなのに」
自分が斬られた理由がわからないまま、前のめりになり膝をつき手をつく。傷は深くはないがそれでも血だまりができるほどの流血だった。体がふらついているのは大量出血による貧血であった。
やがて、意識を強く保たないせいで透明化する術も溶けて姿を現わす。
「返り血だよ。さっき俺様を刺した時に血が飛び散ってお前に付着していたんだよ。それでだいたいの位置はわかったんだ。まぁ一回目は外しちまったけどな。」
「君がもう少し慎重な相手だったら僕たちももう少しだけ苦戦してたよ。」
ビヨンドは、自身の体を見てみると右肩にほんの僅かに血が付いていた。
「こんなのを頼りに斬ったって言うのかよ。反則…だ…ろ…。」
言い終えたと同時にバタンとその場に倒れた。
「ちっ、やられちまったか。だが時間は十分稼げた。あとは弟抱えて逃げるだけだな。」
「もうあなたたちに逃げ場なんてないわよ。」
ビヨンセの前にソフィアが立ちはだかる。
「邪魔な小娘な。これで壁にくっついてな。」
ビヨンセの手から光る玉を作り出すと、それを近くの壁に投げた。すると、ソフィアはそっちへ引き寄せられる。
「これはさっきと同じ…けど、この程度じゃ私は止められないわよ。」
自由のきく右手に銃を持つと、ビヨンセの足を撃ち抜く。
「痛ってええ。このクソ餓鬼がああああ。そんなに死にたいなら今すぐにでも殺してやるよ。」
「じゃあその前に僕を倒さないとね。」
突進するビヨンセに横から飛び蹴りを喰らわせた銀次。
勢い余って下に転がり落ちそうになるが創界術で何とか屋根に張り付き止まる。
「さすがにこれじゃ分が悪いな。ビヨンドには悪いがアタイだけでも退却させてもらうとするよ。」
そう言って港の方へ手を伸ばす。すると、そのまま船の方へとすごい勢いで引っ張られていった。
「まんまと逃げられたわね。」
「それよりもフリートたちの治癒を。」
「わかったわ。」
ソフィアは、創界術でフリートの傷を治癒させた。
「完治とまではいかないけど、しばらくの間暴れまわったりしなければ大丈夫よ。」
「すまない、助かったぜ。」
「でも本当にこっちの男の傷も治すの?治った途端襲ってきたりしないかしら」
「その時はまた俺様が倒してやるよ。だから銀次の頼みをきいてあげてくれ。」
「こんな奴でも一つの命だ。頼むよ。」
「わかったわ。けどこっちの男の方は私の力じゃ血を止める程度しかできないわ。後で病院に行かせた方がいいわ。」
治癒をしていると、ビヨンドが意識を取り戻した。
「なぜ、俺っちの傷を癒してるんだ?」
「昨日の敵は今日の友ってね。まぁまだ1日経ってないんだけどね。」
「銀次の優しさに感謝しなさいよ。私だったらトドメを刺すところだわ。」
「甘い奴だな。そんなんじゃヴラド様は倒せないぜ。」
「倒せるさ。なんせ俺様がついてるんだからな。」
「あとこれは返してもらったよ。」
お金の入った小袋を手にして微笑んだ。
「ああ、盗んで悪かったな。」
応急処置を済ませた銀次らは、近くの病院にビヨンドを預けた。
「この借りはきっといつか返す。だからその時まで死ぬんじゃねえぞ。」
「ああ、楽しみに待ってるよ。」
ビヨンドと別れたあと、印刷屋で支払いをしてナイフを返してもらった。
「そう言えばまだ昼ご飯を食べてなかったね。」
「確かに、そう考えたらすごいお腹がすいてきたわ。」
「さっきのステーキ屋に行こうぜ。もう腹が減って仕方ねえ。」
こうしてステーキ屋に向かった三人だったが...
その後ろから何か地響きと叫び声が聞こえ、それはだんだんと近づいてくる。
「「手配書のやつどこにもいねえじゃねえか。俺たちの苦労どうしてくれるんだよ、金払えーー!!」」
「あなたたちのせいでうちの屋根がボロボロよ。」
「わしの家の屋根どころか煙突まで壊されちまってるよ。弁償してくれるんだろうな。」
どっと押し寄せた町人クレーマーたちにせがまれ、それぞれにお詫びの金を払う。
そして、またしても財布の中はすっからかんになってしまった。
「俺様のステーキが…」
「また、荒稼ぎするしかないね。」
「そんなーーー、あんまりよー。」
金欠三人組は、夜通し働き何とか夜飯にたどり着き、そのあとは泊まるための金がないので馬小屋の空きを借りて眠りについた。




