幻影で充分?
今、私の目の前には、ぱつぱつした、はちきれんばかりの、美味しそうなピンクグレープフルーツが、鎮座なさっている。弾けんばかりのフルーティな香り。その瑞々しさに思わず手を伸ばし身近に感じたくなる魔力を秘めている。口に含めば、瑞々しい酸味に心躍る。
ふっ、と、あなたは、気づく。先程口にしていたグレープフルーツは、香りすらなりを潜め、うつ伏せに倒れていた。くっ、と身体を起こそうとして、驚いた。なんとあなたは、クリームと苺の海に包まれていたのだ。爽やかな苺の酸味と、甘過ぎないクリームは、あなたを優しい気持ちにする。
それは、あなたの心象風景で構わない。あなたは、今、あなたが心から懐古する原風景と懐かしくも温かい匂いの中に居る、そこには眼差しがある。あなたがもう会うことが出来ない叶わない町並み、あなたがもう出会うことの出来ない柔らかな手の感触と温かみ。あなたは、懐古するだろう。全てが包まれたように守られていたあなたの温かな原風景へと。
そこには、湯気の立つ、あなたが求めていたあなたが今、心から望む食卓が再現されている。あなたは、胸いっぱいの幸福に満たされて、箸をとる。幸福な匂いを吸い込んで、空間の柔らかさかけがえのなさに満たされながら幸福に酔いながら口にそれを入れるだろう。
それはあなたの幸福な味覚。
幸福な味覚の記憶。原風景。




