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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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焼きもち美女と異世界の決闘ゲーム

重厚なベルベットのカーテンが朝風にわずかにめくられ、細やかで温かな金色の木漏れ日が音もなく部屋へと滑り込み、絨毯の上に物憂げな光輪を描き出していた。


ここは、浪費と言えるほどに豪奢な一室だ。身を沈めているのは、分厚いベルベットと最高級のホワイトグースダウンが敷き詰められた巨大なベッド。


まるで重さのない雲の塊にそのまま埋もれてしまったかのような、柔らかくふかふかとした寝心地だった。


空気の中には、もはや神殿の残骸に漂っていたあの鼻を突く鉄錆の臭いも、焦土の気配もない。代わりに満ちていたのは、高級なラベンダーの薫香と、かすかに残るエリクサーの清らかな甘い香りだった。


ぽかぽかとした陽光がシルクの掛け布団をゆっくりと這い上がり、未だ病的な青白さを残すルシアの小さな顔を優しく包み込む。


まぶたが光の熱に温められ、ルシアは酷くかすれた、厭世と迷いが入り混じった乾いた呻き声を漏らした。


彼女は重いまぶたをひどく億劫そうに持ち上げた。本来なら深い輝きを宿す深緑の双眸が、眩い光線を受けてかすかに細められる。その瞳の奥には、消えきらない充血と底知れぬ倦怠感が色濃く残っていた。


全身の骨という骨が、まるで大型トラックに何度も轢き潰された後に乱暴に継ぎ合わされたかのように痛む。


ほんのわずかに指先を動かそうとするだけで、干からびた魔力回路からズキズキとした鈍い痙攣のような痛みが走った。


痛い。


だが、少なくとも……まだ生きている。


身の傍らのサイドテーブルの小銀皿の上では、手のひらほどの大きさの、真鍮と精密な歯車で組み上げられた機械梟――刻刻が、静かに伏せていた。暗金色の硝子の瞳は光を失い、冷たい鉄屑のように固まっている。


頭上に広がる緻密な彫刻が施された高い天蓋を見上げ、身を沈める骨まで溶かしてしまいそうな最高級ベッドの感触を確かめながら、ルシアは日向の香りを放つ柔らかい枕に顔の半分を深く埋めた。


そして、社畜の魂が滲み出た、長いため息を吐き出した。


「はぁ……労災休暇……これでもし出勤の打刻しろとか言われたら、あの魔法学院ごと消し飛ばしてやる……」


窓外の朝光は温かな熱を帯び、公爵邸の豪奢で柔らかなベッドの上に静かに降り注いでいる。


ルシアは顔を横に向け、枕元で物言わず横たわる機械梟――刻刻に視線を留めた。


バルサ材と冷たい鉄の匂いはとうに消え失せていたが、彼女の思考は今なお真冬の寒波の底に浸かっているかのように、破壊神殿の最奥で迎えたあの終局の光景を幾度となく反芻していた。


あれは屈辱などではない。むしろ、無感覚に近いほどの明鏡止水だった。


自分が何に気落ちしているのかは痛いほど分かっている。だが、それは本当の意味での挫折とも少し違っていた。要するに彼女は、この大陸における真の実力の物差しを改めて測り直していたのだ。


あの戦いにおける無様な敗走と瀕死の重傷。その根本にあるのは、あまりにも単純で残酷な一つの事実――自分が弱すぎた、それだけのことだ。


虚無の中から六翼を広げて現れたあの守護者を前に、己の全霊を傾けて引き起こしたブラックホールも術式も、神の造物という絶対的な次元の前では、ただの滑稽な足掻きに過ぎなかった。


天井の複雑なレリーフをぼんやりと見つめていたその時、扉の外から不意に、極めて節度のあるノックの音が響いた。


「ルシア先生? 起きていらっしゃいますか? 入りますね」


扉が押し開かれ、背の高い筋骨逞しい青年が、極めて落ち着いた足取りで入ってきた。


ルシアの深緑の瞳がわずかに動く。今のルーカスは、かつての重心のおぼつかない、貴族の放蕩息子の気配を纏わせていた少年ではもはやなかった。


帝都魔法学院での地獄と呼ぶにふさわしい過酷な訓練を経て、彼の一歩一歩の踏み込みは堅実で無駄がなく、その立ち振る舞いには、いずれ公爵家を継ぐ者にふさわしい落ち着きと威厳が微かに滲み出ている。


だが、この若き後継者がベッドの傍らに跪いた時、その表情はかつてないほどに深刻だった。


「ルシア先生が破壊神殿で何を経験されたのか、僕には分かりません……ですが、叔母上と従叔母上が、今まさに先生のことで西院で決闘を始めてしまったんです。先生が止めに行かないと、本当に死人が出ますよ」


「……はあ?」


ただでさえ鈍く痛んでいたルシアの頭は、一瞬で真っ白になった。


彼女はきちんとした上着に着替える余裕すらなく、ただ薄手のだぶだぶなシルクの寝間着のままベッドから転がり出ると、暗金色の硝子の瞳から光を失った刻刻を腕の中に力任せに抱き寄せ、室内用の柔らかい靴を履いたまま慌ただしく部屋を飛び出した。


カリーナが神殿で起きた詳細を知る術を持っていること自体は、何ら不思議ではない。だが問題は、ルシア自身はこの人生において、カリーナと交際はおろか、いかなる契約も約束も交わした覚えがないということだ。


心の奥底では、確かにあの気高い女公爵に対して複雑極まりない思慕を抱いている。だがそれとこれとは話が別だ。個人の恋愛の自由くらい、あって然るべきではないのか?


自分の「帰属」を巡って二人が西院で大立ち回りを演じているのだと想像するだけで、ルシアのこめかみはズキズキと激しく痛んだ。


彼女の根底にあるのは、三世を生き抜いてきた現代の社畜精神だ。


三流の恋愛小説のヒロインのように自惚れた気取り屋でもなければ、他人が自分を巡って痴情のもつれを起こしているのを見て密かに悦に入る趣味もない。


彼女にとって、そんなものは純粋な厄介事と徒労以外の何物でもなかった。


フェリンが前方を小走りに案内し、ルシアはその背を追う。


だが、フェリンに連れられて辿り着いたのが公爵邸の最も人里離れた荒れ果てた一角、西院の古い時計塔だと知った瞬間、目の前に幾重にも螺旋を描いて聳え立つ果てしない石段を見上げ、ルシアはその場に凍りついた。


病み上がりの疲労が一瞬にして重い鉛となって四肢を満たす。魔力回路の枯渇がもたらす鈍痛に視界が暗転し、ルシアの胸中には思わず厭世的な思考すら過った。


もういい。疲れた。止めに行かなくても別にいいんじゃないか? いっそ二人で気の済むまで殴り合って、相打ちにでもなってくれればいいのに……。


だが、傍らに控えていたルーカスは、彼女の同意など最初から求める気はなかった。


青年は身をかがめると、まるで壊れやすい薄手の磁器を扱うかのように細心の注意を払いながら、その長い腕で華奢で小柄なルシアの身体をすっぽりと抱き上げた。


そして大股を開き、一切の躊躇もなく急勾配の石段を力強く登り始めたのだ。


フェリンが低く落ち着いた声で報告を続ける中、ルーカスの腕に抱かれたルシアは、ようやくこの荒唐無稽な騒動の全容を把握した。


彼女は丸三日間、昏睡状態に陥っていたのだという。体内の損傷した回路があまりにも深刻な状態だったため、公爵邸の上層部はすでに手配を済ませ、帝都近郊の極めて名高い温泉郷へ彼女を湯治に送り出すことを決定していた。


そこの古湯には、傷ついた魔力回路を潤し修復する劇的な効能があるのだという。


だが、本来なら喜ばしいはずの療養の計画が、出発前の「部屋割り」の段階で完全に暗礁に乗り上げた。


クレアはルシアの昼夜を問わぬ身の回りの世話を理由に、同室で付き添う権利を断固として主張した。


そして、カリーナの最も痛い急所を冷ややかに突き刺したのだ――カリーナはルシアと、従属であれ伴侶であれ、いかなる契約も交わしてはいない、と。


帝国の法律に照らし合わせれば、自分にもルシアを自由に愛し、口説く権利があるはずだと。


しかし、カリーナはこの従妹と言葉を交わして争うことすら侮蔑していた。


貴族社会が最も重んじるのは、骨の髄まで染みついた「先着の理」だ。


家格と名誉を尊ぶ血統において、家風に背き、序列を乱して越権の奪い合いを演じることなど、一族にとって極限の恥辱に他ならない。


クレアも百も承知だった。貴族のあの不文律に従ってしまえば、自分はこの天険のような格差を一生越えられない。


規則によってじわじわと窒息死させられるくらいなら、今日この場で盤面をひっくり返し、命懸けの賭けによってカリーナから一筋の活路をもぎ取った方がマシだ。


クレアが勝てば、カリーナは一歩退き、二人が対等にルシアの傍らに侍り、彼女を求める権利を分かち合うことを認めねばならない。


だがもしクレアが負ければ、「先着の理」という鉄の掟に平伏し、カリーナがルシアの手を放さない限り、クレアは一生涯その境界線を踏み越えることは許されない。


「揃いも揃って狂ってやがる……」


ルシアは奥歯を噛み締めた。青ざめていた頬が、激しい怒りと焦燥によって病的な赤みを帯びる。


ルーカスの足が時計塔の最上階の最後の段を踏み抜いた瞬間、遮るもののない眩い陽光が一斉に降り注いだ。ルシアは反射的に目を細め、直後、塔の頂を支配する息の詰まるような光景を目の当たりにした。


吹き荒れる強風が、周囲の手すりを震わせて低い唸りを上げている。


ヴァレリーが仕立てのいい狩猟服を身に纏い、冷徹な表情のまま中央に立ち、公認の立会人を務めていた。


そして彼女の両脇では、カリーナとクレアの二人が、ルーン文字がびっしりと刻まれた分厚い革ベルトによって、頑丈な黒鉄の背もたれ椅子に身動き一つ取れないよう固く縛り付けられていた。


二人の間に置かれた無骨な石のテーブルの中央には、冷ややかな金属の光沢を放つ精緻な機械仕掛けの造物が鎮座している――それは、ルシアが自らの手で組み上げた、六連発のリボルバー拳銃だった。


さらに致命的だったのは、二人の頭上に吊り下げられた巨大な透明ガラスの容器だ。


容器の中では、幽青色の不気味な液体が満たされ、冷たい風を受けてゆらゆらと揺れていた――


それは魔力を撹乱するために調合された劇毒の神経薬、滴り落ちて皮膚に触れれば最後、体内の魔力を暴走させて逆流させ、千の刃で肉を削がれるかのような激痛をもたらす劇薬だった。


ヴァレリーはわずかに顎を上げ、澄んだ冷徹な声を風に乗せて、拘束された二人にこの血塗られた遊戯の規約を読み上げていた。


「このリボルバーのシリンダーには、この大陸には存在しなかった殺傷構造が装填されている。この命を賭した遊戯のルールは、たったの三つ」


ヴァレリーの指先が、冷たい銃身を軽く叩き、乾いた高い音を立てた。


「其の一、進攻。撃ち手の番が回ってきた際、貴女は銃口を相手の顔面に突きつけ、引き金を引くことを選べる。もし発射されたのが実弾であれば、相手がその代償を支払う。だが、もし空撃ちであった場合、銃の所持権は直ちに相手へと移る。そして無謀な進攻に失敗した代償として――次に貴女へ銃が戻ってきた際、貴女は自らの頭部へ銃口を向け、二回連続で引き金を引かねばならない」


黒鉄の椅子に縛られたカリーナが冷笑を漏らし、向かいのクレアはただ氷のような眼差しでその銃を見つめていた。


「其の二、自守。自らのターンにおいて、もし勝算が薄いと判断した場合、銃口を自らのこめかみに向けて引き金を引くこともできる。それが空撃ちであれば、そのターンは無事にやり過ごしたと見なされ、銃の所持権はそのまま相手へ移る。もし実弾であったなら、その結果は自ら引き受けること」


現在、クレアとカリーナの全身は完全に縛り上げられており、頭上から落ちる薬水が少しずつ互いの理性を侵食している。自由に動かせるのは、互いに利き手の一本だけだった。


「其の三、洗牌――リセット。ただしこれは、直前の自らのターンで進攻を選ばず、堅実に自守を選んでいた場合に限り適用される。再び銃が手元に戻り、次に実弾を引く危機を察知した時のみ、シリンダーを回転させて確率をリセットすることが許される。だが、運命を混ぜ直す行為が無償であるはずもない――回転させた直後、貴女は即座に自らの頭部へ向けて二発引き金を引かねばならず、その後にようやく銃を相手へ引き渡す権利を得る」


ヴァレリーは背筋を伸ばし、その冷徹な視線を、殺気を滲ませる二人の貴族令嬢の顔へと走らせた。


それは一見すると逃げ道を用意しているようでいて、その実、極限の心理戦と確率の深淵へと引きずり込む死の罠だった。


進攻による見返りは大きいが、一度失敗すれば次のターンで立て続けに三発もの弾丸を浴びかねない破滅的なリスクを背負う。


自守は手堅く見えるが、ただ首の縄を少しずつ締め上げるに過ぎない。そしてリセットに至っては、断崖絶壁の前で目隠しをして飛び跳ねるような豪賭だった。


「実弾を正面から三発受けた者を、敗北と見なす」


ヴァレリーが淡々と付け加える。


「体表の魔力で弾丸の貫通を強引に防ぐことは許可するけれど、頭上の薬液は時間と衝撃と共に貴女たちの魔力を撹乱していく。神経を焼き尽くす激痛が襲うはずよ。そしてこれこそが――勝負を決する要素となる」


カリーナは氷雪のような傲慢さを湛えた深紅の瞳をわずかに上げ、冷ややかに言葉を重ねた。


「もう一つ付け加えなさい。この椅子の上で意識を失い、三分以上昏睡した者もまた、その場で敗北と見なすとね」


「二人とも、頭が狂ったのッ?!」


喉を裂くような、かすれた怒声が、時計塔の最上階を支配していた凍てつく静寂を唐突に打ち破った。


ルシアはルーカスの腕から強引に身を捩って飛び降りると、よろめく足取りで石のテーブルへと駆け寄った。


腕の中には冷たい刻刻を必死に抱きしめ、薄手の寝間着が突風に激しく煽られている。


血の気の一切引いた青白い顔を怒りで紅潮させ、その深緑の瞳には信じがたい狂気への戦慄がありありと浮かんでいた。


「あんな人をいたぶるような毒薬を頭上に吊るして、私が造った武器でロシアンルーレットですって?! 貴女たちの頭の中には一体何が詰まってるのよッ?!」


だが、鉄の椅子に固く縛り付けられたカリーナとクレアの視線は、息を切らして憤慨するルシアの顔に、ほんの一瞬だけ留まったに過ぎなかった。


直後、二対の視線は再び空中で激突した。そこには微塵の譲歩もなく、ただ執着と矜持に浸された、狂気じみた絶対的な殺意だけが渦巻いている。


テーブルの上のリボルバーが、陽光を受けて死の冷たい輝きを放っていた。この理不尽極まりない荒唐無稽な豪賭は、ルシアの歯噛みする荒い息遣いの中、もはや後戻りの利かない領域へと踏み出していた。


時計塔の頂を吹き抜ける風が低く唸り、空気を刺すように冷たく、薄く削ぎ落としていく。


ルシアの悲痛な詰問は石壁に木霊したが、対峙する二人の心を揺さぶることは微塵もできなかった。二人は振り返りもしない。ただ互いの瞳の最奥へ、視線の切っ先を深く突き刺したままだ。


クレアは愛されることを渇望していた。それは社交界で交わされる薄っぺらい追従でもなければ、家格の利害を天秤にかけて結ばれる政略結婚の温もりでもない。


純粋で、熾烈で、一切の不純物を排した本物の愛だ。カリーナとて、それは何ら変わらない。


二世にわたる果てしない歳月の中で、二人はあまりにも多くの身勝手で腐敗した醜い人間たちを見てきた。


高貴を気取る貴族も魔導士も、口先では名誉だの忠誠だのを囀りながら、その魂は疾うの昔に保身と恐怖でドロドロに腐り果てている。


ただ一人を除いて――前世において、その先が底なしの絶望だと知りながら、カリーナが万年氷のように冷酷だと弁えながら、それでも愚かしいほどの一途さでその氷山へと身を投げ打ったあの女。


そしてあの破壊神殿において、己の回路をズタズタに引き裂き、血を吐きながらも、命の灯火を燃やしてブラックホールを顕現させ、全員の前に立ち塞がったルシアだけだ。


最初から最後まで、二人の枯れ果てた心の湖に波紋を投げかけたのは、あのちっぽけで、されど誰よりも誇り高い後ろ姿だけだった。


この世の何よりも純粋な本物を知ってしまったというのに、どうして背を向けて安っぽい贋作などに妥協できようか。


このところ、カリーナは女公爵としての鉄の腕力をもって、帝国元老院を力尽くで動かし、同性婚を法的に認める法案をすでに力ずくで可決させていた。


二人の女性どころか、三人目、あるいはそれ以上の伴侶を迎え入れることすら、古代の魔導伝承を宿し、魔法によって子を成す術を持つ貴族に対しては、帝国の皇室とて喜んで見て見ぬ振りを決め込むのが常だった。


だが、カリーナの心の奥底に巣食う冷酷で傲慢な独占欲が、そのような生温い妥協を許すはずもなかった。


彼女は冷静で、理知的で、同時にこの世の理不尽すべてを土足で踏みにじるだけの狂気を秘めた略奪者だ。愛する者を誰かと「分け合う」ことなど、天地が裂けても受け入れられない。


社交界から「帝国の初恋」と称えられたこの従妹――クレアは、帝国中の貴族男子の目には温厚で純真、包容力に満ちた完璧な伴侶として映っていることだろう。


だが、カリーナだけは知っていた。あの温順な皮を剥ぎ取ったクレアが、どれほど冷血で、どれほど衝動的な化け物であるかを。


クレアは幼い頃からあまりにも美しく生まれすぎた。豪壮な屋敷の暗がりから向けられる悍ましく湿った欲望の視線の中で育ち、冷酷非情に立ち回ることこそが骨の髄まで染みついた防衛本能なのだ。


手段を選ばぬ残虐さと平然と人を屠る狂気に関して言えば、本気になったクレアは公爵である自分以上に血肉を貪る悪魔に近い。


そんな暗がりに潜む毒蛇を、「第二夫人」という名目でルシアの隣に平然と侍らせるなどと――。


その光景を想像するだけで、カリーナの胸中には吐き気を催すほどの嫌悪と殺伐とした苛立ちが沸き上がった。

カチリ。


冷たく耳障りな金属の衝突音が、唐突に響き渡った。


カリーナの薄い羊革の手袋に包まれたしなやかな指先が力強く沈み込み、石のテーブルを滑らせるようにして、あの重厚なリボルバーをその掌中に引き寄せた。


彼女は傍らのヴァレリーに一瞥もくれず、白く細い指先で鮮やかにシリンダーを外側へとスイングさせた。


そして、死の灰色の鈍い輝きを放つ金属弾を一発だけ無造作につまみ上げると、六つある空の薬室のうちの一つへと、無表情のまま押し込んだ。


ジャララララ――!


手首をわずかに振ると、シリンダーが空中で猛烈な唸りを上げて回転した。密集した歯車が噛み合う乾いた音は、まるで死神の秒針のように、この狭く逃げ場のない塔の頂で全員の神経を容赦なくやすりがけしていく。


手首のスナップ一つで、パチンと硬質な音が弾けた。回転輪は激しく元の位置へと収まり、寸分の隙もなく噛み合ってロックされる。


カリーナはその黒々とした銃口を見つめることすらせず、無造作に腕を払った。


鋼鉄の銃身が無骨な石の天板の上を滑り、耳障りな摩擦音を立てながら、クレアの手の届く真正面でぴたりと静止した。


「姉が妹を虐めているなどと、言わせないでちょうだい」


カリーナはわずかに顎を上げた。滝のような銀白の髪が狂風に乱れ飛ぶ。彼女はルーンの刻まれた拘束ベルトに縛られながらも、黒鉄の背もたれに優雅に身を預け、長い脚を組んだ。


まるで蟻の巣を見下ろすかのような底知れぬ余裕を湛えた眼差しでクレアを見下ろし、その唇の端を極めて嘲弄的な弧へと歪める。


「貴女から攻めなさい」


それは、あからさまな心理的虐殺だった。


実際のところ、カリーナはこれまでの人生において、「運」という二文字に愛されたことなど一度たりともなかった。


幼い頃から、無作為のくじ引きが絡む遊戯では必ず外れを引き当ててきたし、純粋な確率に依存する勝負事において、彼女は例外なく最下位に沈む疫病神だった。


しかし今、カリーナの全身から放たれている威圧感は、周囲の空気を圧殺するほどに重く、底知れなかった。


賭けの場に身を置く者の動揺など微塵も見せず、まつ毛一本すら震わせていない。


あたかも運命の車輪など自らの高貴な血統によって疾うに調教済みであるとでも言うように、目の前に座るクレアなど、いつでも指先一つで磨り潰せる羽虫に過ぎないのだと言わんばかりだった。


その絶対的な従容さは、目に見えぬ巨大な鉄槌となって、クレアの心臓へと容赦なく叩きつけられた。


クレアの指先が、テーブルの陰で微かに、だが痙攣するように丸まった。


ポタリ……。


頭上の巨大なガラス容器から、ついに「噬髄の薬液」の最初の一滴が落ちた。


幽青色の冷たく粘つく毒液が、クレアの頭頂部を正確に捉えて弾け、彼女の夢のように美しいスミレ色の長髪をじわじわと濡らしていく。


「ッ……!」


それは単なる皮膚の痛みなどではない。神経と魔力回路を狙い撃ちにする、極限の拷問だった。


薬液が髪を伝って頭皮へと浸透した瞬間、クレアの体内に残されていた魔力が、まるで火をつけられた油のように激しく暴走を始めた。


何千本もの焼き鏝が頭蓋の奥で狂ったように掻き回され、引き裂かれるような錯覚に、彼女の視界が一瞬にして白く焼き切れる。


激痛の波が絶え間なく押し寄せる中、冷静に確率を計算するための理性は急速に崩壊を始め、焦燥と混乱が雑草のように猛烈な勢いで芽吹いていく。


クレアは下唇を強く噛み締めた。生々しい鉄錆の味が口内に広がり、その痛烈な血の味でようやく散りかけた焦点を無理やり繋ぎ止める。


彼女は手を伸ばし、小刻みに震えながらも、あの凍てつくように冷たいリボルバーを強く、力任せに握りしめた。


銃口がゆっくりと持ち上がり、向かいに座るカリーナの、完璧で冷酷な美貌のド真ん中へと真っ直ぐに向けられる。


六分の一の確率。


最初の一撃。シリンダーの中には、たった一発の死神が潜んでいる。


クレアの人差し指は、冷たい無骨な引き金にびっしりと張り付いていた。カリーナは何の魔力障壁も展開せず、ただあの吐き気を催すほどに傲慢な姿勢を保ったまま、宝石のような深紅の双眸で冷ややかに見据えている。


まるで、妹の卑小さと無能さを声もなく嘲笑っているかのように――。


『撃ちなさい、クレア。引けるものなら引いてごらんなさい』


『もしそれが空撃ちなら、次のターン、貴女はその手で自分の頭を二度連続で撃ち抜くことになるのよ?』


『暗がりの中でしか生きられない贋作風情が、本当に自分の命をチップにして賭けに乗る覚悟があるのかしら?』


吹き荒れる狂風が、ルシアの必死な叫び声を無惨に引き裂いていく。


頭上の劇毒が神経を蝕み、脳漿が沸騰し、そしてカリーナの深淵の如き底知れぬ静寂が、クレアの心臓を一寸、また一寸と、息も絶え絶えな絶望の深みへと引きずり込んでいた。

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