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08 馬車の中で

 



 その後もユマと他の教会を回った。

 どこも多くの子供達を抱(かか)えているのは大変そうだったが、2ヶ月間という期限と配給(はいきゅう)の約束に、皆 子供達を養(やしな)い続けると約束してくれた。


 ──僕は安堵(あんど)した。

 …………良かった……本当に…



 帰りの馬車の中でユマは瞳を輝(かがや)かせて僕を見つめた。


「足(た)りなかったパンを魔法で長くしたり、絵本に喋(しゃべ)れる魔法をかけて読み聞かせをできるようにしたり、とてもとても素敵(すてき)でした…………!

 子供達は大喜びで、1人で面倒(めんどう)をみている牧師(ぼくし)様は感謝していましたね。

 あんなふうに魔法が使えるなんて……やっぱりカルヴァン様は偉大(いだい)で素晴(すば)らしいです!!」


 興奮(こうふん)してか、彼女は明るい茶色の瞳は煌(きら)めき頬(ほお)は桃色に染(そ)まっている。


「終戦後、カルヴァン様はすぐに国王陛下に孤児院(こじいん)設立(せつりつ)を進言(しんげん)なさっていたでしょう? あれはこういう事態(じたい)を察(さっ)してだったんですね。

 私達が行かなければ、教会とはいえ"平和になったのだから もう外で自分で暮らせ"と出される子供もいたかもしれません。

 あなたは本当に……本当にお優しい心の方です……!」


 向かい合った真正面(まっしょうめん)から過大(かだい)な賞賛(しょうさん)を浴(あ)びせられて、僕は居心地(いごこち)が悪くなった。

 ユマは知らないのだ、何も。それに彼女は子供の頃僕に拾われたことで、どこか僕を神聖視(しんせいし)している。

 18歳という────立派な成人女性となったユマが、僕のような男に囚(とら)われているのはいろいろと良くない。もうハッキリしなければ……


「ユマ、君は誤解(ごかい)している。僕が君を拾ったのは気まぐれのようなものだった。崇高(すうこう)な目的なんか無かった」


 ユマは動じなかった。


「構(かま)いません。あなたにとって私が石ころでも、私にとってあなたは恩人(おんじん)です」


「それに孤児のこともだ。君は僕を買い被(かぶ)りすぎているんだ。────このペンダント……」


 僕は首から垂(た)れ下がる菱形(ひしがた)の紫水晶のペンダントを掲(かか)げて見せた。


「このペンダントには心を正しく導(みちび)く魔術が施(ほどこ)されているんだよ。だから僕の行動なんて全(すべ)てペンダントの力だ」


 首を激(はげ)しくユマは振って否定した。


「関係ありません──ペンダントの魔術なんか。

 あなた自身が善良で正しいのです。

 私はあなたがこの国の宮廷魔道師長であることが心から誇(ほこ)らしいです」


 ユマの熱弁(ねつべん)は続く──


「あなたは多くの幸せをもたらしています。私は……私は、あなたにも幸せになってほしい。

 どうしてせっかく見つかったご家族を受け入れないんですか? 貴族の血筋(ちすじ)だったのに……」


「いいや──貴族なんかじゃなくて良かったんだ」


 僕はぶっきらぼうな口調(くちょう)で言った。


「え……?」


 ユマが戸惑(とまど)って僕を見つめた。


「貴族や富豪(ふごう)でなくて良かったんだ。貧(まず)しくて必死に生きているような家庭なら…………僕はあの夫婦を受け入れたかもしれない。

 だが彼らは没落(ぼつらく)したとは言え屋敷(やしき)があって良い服を着て現れた。

 僕を売ったのは、私欲(しよく)や僕がいらなかったからだとしか────思えない。弟は売られていないようだしな。

 今更(いまさら)のこのこ出てきてもこっちが願い下げだ!」


 最後には荒々(あらあら)しい声が出た。ユマはすっかり黙(だま)って固(かた)まってしまっている。


「……分かっただろう? 僕は聖人(せいじん)でも善人でも無い。恨(うら)みや憎(にく)しみや ひがみだってある。

 君は僕を勘違(かんちが)いしている。僕に尽(つ)くしてばかりいないで 君はちゃんと白魔法を習った方がいい。

 素晴らしい白魔導士のいる館(やかた)への招待の声もあるのだから………」


 馬車の座席でユマはうつむき、膝(ひざ)の上の両拳(りょうこぶし)をきつく握(にぎ)っていた。


 彼女はそうして 城に着くまで もう口を開くことは無かった。









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