05 口論の末
ロドルフ国王陛下との話し合いは進まず 夜となった。
2人共喉を潤す程度のつもりでエールを飲みだした────後になると、やはり酒を入れたことは間違いだったと思い返す。
「分かっておる。お前の気持ちは」
とあの人は突然 言い出した。
「はい?」
僕が聞き返すとロドルフ国王は
「私の命を奪う儀式の片棒を担げば、お前は酷く苦しむだろうな。なんと言ってもお前の慕い、尊び、敬い、崇め祀った主君を殺めるのだから。────お前が拒むのも無理はない」
と説明を加えた。当たっているからこそ面白くない。僕はエールを煽った。
彼は続ける。
「だが、安心するが良い。まず万が一にもお前を責めたり罰するものはいない。遺言状は3通 書いたし、ここに住まう2人の王子達には立ち合わせる。
私の最期の願いを叶えてくれるのなら、お前には感謝しかないのだ、カルヴァン。
遺言状には金銀と宝石、新たな領地と家と良家の娘の名もお前への褒美に与えよと書いておいた。それに前払いで私から贈り物も用意したのだ」
モノで釣る方法できたか。王族らしいと言うか………
「金銀宝石までは、まぁ……嬉しいですが、帰れていない土地と家はもうありますから充分です。それに妻は不要です」
キッパリと言って、空になった2つのタンブラーにまたエールを注ぎ入れる。
「家はいくつあっても役立つだろう。女だって何人いてもお前の地位ならば囲っておけば良いではないか────愛さないのなら、尚更な」
僕は新たなエールに口をつけてから
「それは娼館で事足ります」
と答えて、また飲んだ。
ロドルフ国王はそんな僕を見つめていたが
「愛さなくても妻も良いものだぞ。もう25だろう? ご両親も安心する」
と訳の分からないことを言い出した。
「両親はいませんよ。あなたはご存知でしょう!?」
不満顔で僕が言うと彼は
「今日会っただろう!? 実の両親に!?」
と逆に驚いたように返してきた。
「実の両親??……ああ、魔法省に来た中年の夫妻ですね。帰しましたよ、"僕に家族はいない"と言ってやって」
僕の言葉に、ロドルフ国王の瞳は驚愕に見開く。
「何てことをしたんだ!! 本当に本当の……お前の実の両親だったのだぞ!?
私が国王殺しの罪を背負わせるお前のためにと──全軍に命令して、国内全土を隅々まで探させたのだ!!
"両親を20年待ち続けている部下のために、約22年前に子供を手放した親が、名乗りをあげることを勅命とする!!" と。
200組近い夫婦が候補に上がり、宮内省総出で面接と審査をさせ身辺調査も経て、唯一残ったのがあの夫婦だったのだ!!!!」
「そっちこそ何してんだっっ!!!!!!!!!」
ロドルフ国王は前のめりになって来ていたが、僕の方が掴みかかって押し戻していた。
このオッサン絶対におかしい────!!!
2人だけの部屋で 僕は主君の胸ぐらを掴んでいた。
ハアハアと荒い自分の息を僕は聞いた。
マズいと言う気持ちはあっても、アルコールも怒りもそれを上回ってどうでも良くなっていた。
ロドルフ国王の方が冷静だった──のかもしれない。
「ムーファスにお前がただの孤児ではなく、売られた奴隷だったことは聞いておる。
だが、何故親の事情を聞いてやらない? 会いに来た今を信じてやらない? 20年ぶりの愛を受け入れないお前は阿保だ」
奥歯を砕けんばかりに食い縛る。国王でなければ間違いなく殴っていたし、この人でなければ呪おうとしていたかもしれない。
「あなたにだけは言われたくない!!! 自分の中のナフィー王妃への愛を認めないあなたには!!」
僕らは暫く鼻を突き合わせて睨み合った。
────やがて…揺るがない国王の双眼に、僕は掴みかかっていた両手を下ろし、頭を下げて うなだれた。
落とした視線の先には紫水晶のペンダントの煌めきが入る。
「……………ご無礼をしました」
力無く謝罪を述べる。
「謝罪はいらぬ。悪いと思うならば、私の命と引き換えにナフィーを助ける儀式を執り仕切ることを考えてくれ。
愛してはいないが…………彼女が死んでしまう前に」
僕は顔を上げて 主君を再び睨みつけた。
この人が譲れないものがあるなら、それは僕もだ。
「良いでしょう。そこまでお望みなら崇める主君の命令に従うまでです。古代禁呪の儀式を執り行う準備を始めます。
ただし、もう僕と両親のことには一切関わらないで下さい。
あなたは主君であっても、僕の親でも友人でもありませんから」
倒れたタンブラーからはエールが溢れ、絨毯に染み込んでいた。
何もかも…………全てだ。人は、あとになってから後悔をするものだ。取り返せなくなってから……




