↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

04 偽りの言葉たち

 





 "お前を愛しているよ"


 "あなたを愛しているわ"





 何故(なぜ)そんな言葉を僕にかけていたのだろう

 今は腹立(はらだ)たしくてならない


 あたりまえのように

 最上級の呪文のごとく響(ひび)いて




 その耳に残る言葉を────

 幼い僕は 信じていた





 あの父親と思われる人がお金を受け取っている場面を見ていても、あの頃はその意味にも全(まった)く気付けずにいた


 それに関係なかったんだ──





 僕は "愛している"を 信じていた





 小さくて

 とても敵(かな)わなくて

 蛮族(ばんぞく)の男達に踏(ふ)みつけられて投げ飛ばされても


 先の分からない恐怖(きょうふ)と

 明日息絶(いきた)えるかもしれない苦しさと飢(う)えの中でも





 僕は ひたすらに 信じていたんだ





 自分は "愛されている子供なんだ" と───





 だから助けてくれると待っていた

 助けが来ると期待していた

 助けがあるはずだと希望を持っていた




 だって 僕を愛してくれているんだ




 必要として

 探しているはず


 いなくなって

 心配して

 悲しんでいるはずだ



 助けはくる

 愛してくれている人が来る

 僕のためにきっと──

 僕を助けに来てくれる人が この世界にきっといる



 だから がんばろう

 どんなに つらくても

 あしたが こわくても





 来る日も来る日も

 重い手枷(てかせ)と足枷(あしかせ)を引きずりながら、荷物を背負(せお)わされ掃除をし調理をし 毛布1枚無い冷たい土の上で震(ふる)えて丸まりながら眠った




 月を見て願い

 星を見て祈(いの)り

 雨の夜には念(ねん)じた





 "ぼくは ここにいるよ"

 "ぼくを たすけて"


 



 誰かが来てくれて救われる夢をみることもあった

 力強い両手で包(つつ)まれる温(ぬく)もり


 朝になれば消えてしまう幻(まぼろし)でも

 みれれば嬉しくて 泣いていた






 繰(く)り返(かえ)し繰り返し……繰り返し…






 何もかもの記憶や思考を 維持(いじ)する体力も気力も無くなり

 夢も見なくなった頃────




 痩(や)せ細(ほそ)っていた足から足枷が抜(ぬ)けたのだ。両方ともだった。

 夜は足枷は柱(はしら)に繋(つな)げられていたが、それは突然(とつぜん)に解(と)かれた。


 闇の中を 始めはフラフラとしていただけだった。

 おかしなもので……数年ぶりに自由を得(え)ると、本当にここを出て行っていいものかという…奇妙(きみょう)な不安に襲(おそ)われた。


 多分そう……森に入った。

 その頃にやっと、駆(か)け出していた。

 右も左も上も下も分かっていなかったかもしれない。

 でも振(ふ)り返ることだけはせずに とにかく走った。転がるように走って、転んでも又走って走って………




 辺(あた)りが明るくなって来た頃、走り続けていた僕の身体(からだ)は山道に飛び出した。


 それが偶然(ぐうぜん) 進行中のドルトン王国正規軍(せいきぐん)の先頭(せんとう)だった。

 僕は兵士達にすぐに取り押さえられたが、風貌(ふうぼう)や手枷から彼らは僕が蛮族(ばんぞく)の奴隷(どれい)となっていた子供だと気付いたのだろう。

 すぐに一際(ひときわ)大きくて立派な黒馬に乗った甲冑(かっちゅう)姿の男性が僕の前に来た。


「自力(じりき)でよくぞここまで逃れてきたな。褒(ほ)めてつかわす、勇敢(ゆうかん)な子よ」


 それがロドルフ国王陛下だった。

 その時の僕には神のように見えた人だった。

 助かったのだと思ったし、それが嬉しかった。


 なのに僕は……枯(か)れ果(は)てて涙は出なかったけれど

 心で泣いていた。



 自力で助かったという事実は


 助けが来なかったという事実だった




 そこで僕は気を失った。その後は丸2日起きなかったらしい。

 だが意識(いしき)が遠のきながら誓(ちか)っていた。



 ────ぼくは このかたに つかえて しのう



 と。


 誰にも必要とされていないのだと嫌(いや)というほど分かった自分は、この自らの誓いに……すがりつきたかったのだ。

それだけだった。それしかなくて────









 20年経(た)った今──


 昨日に引き続いてロドルフ国王は、また僕に会いに部屋に来た。人払(ひとばら)いまでして。

 そうして


「私を殺してくれないか? その代わりに王妃を助けてくれ。頼(たの)む、カルヴァン。我々は主従(しゅじゅう)であると共に親子のようでもあり、そして戦友だろう?」


 と僕が"命をかけて仕(つか)えると決めた主君"は やはり言う。


 果たして この状況をどうしたらいいものか────


「陛下、ナフィー王妃を……愛されているのですね?」


 またしても僕が聞くと


「愛してはいない!! 助けたいだけだ!! そう思って死んでいこうとも何も悪くもないだろう!?」


 と彼は頑(かたく)なに否定(ひてい)した。



 僕は今まで"愛してる"を信じたことを悔(く)やんできた

 僕も"愛している"を今後も否定し続けるだろう



 それでも…………分からなくなってきた……



 顔を赤らめながらも必死(ひっし)に懇願(こんがん)してくる主君に、それを認めさせることが大切な気がしてきた──どうしてか……ひどく……



 どうしてなのかという理由は────僕自身にも分からないとしても







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。