03 思わぬ再会
「カルヴァン様、こちらが王立孤児院の計画案になります」
抱え持つ沢山の書類の束の中から一生懸命に引っ張り出して、ユマはそれを1番上にのせた。
僕は今、王宮魔道師長であると共に孤児院の設立に携わっていた。
「ありがとう」
受け取りながら礼を言うと戦災孤児であるユマも笑顔で うなずく。
僕が拾ってから10年が経ち、18歳になった彼女は僕の助手をしている。
──だがこれには、僕自身は問題を感じていた。
「ユマ、君は結局 低級 黒魔法も使いこなせていないんだろう?
君の性質は白魔法に合っているんだと思う。無理をしないで白魔法の鍛錬をするべきだ」
ユマは肩まである 明るいブロンドの髪を揺らして首を振る。
「黒魔法を習得します! 必ず!! …… 私は……カルヴァン様のお手伝いをずっとしていたいのです!!」
僕は溜め息をついて彼女に告げた。
「僕に恩返しする気なら、立派な白魔道士になってくれ。その方がずっと嬉しい」
するとユマのアンバーブラウンの瞳が翳り、美しい顔は泣きそうになった。僕が戸惑っていると彼女は
「そうではなくて 私は………………………」
と言ったまま──言葉は続かない。するとそこへ
「ユマ、確かにあなたは清らかな白魔道士の方が合っていると思う。高位白魔道士である僕の父の下で学んだらいい。
ねぇ、僕が話しておくから屋敷に来ないか?」
という声が割り込んだ。
僕とユマが顔を向けると、部屋の入り口には副魔道師長の息子であるアズベルが笑みを浮かべて立っていた。
「結構です。私はカルヴァン様の下で黒魔道士になりますから」
ユマはキッパリと断った。アズベルの優しげだった笑顔は一変して冷ややかなものへと変わる。
「愚かな女だな。家柄も地位もないくせに、この僕の誘いを断るなんて。この国 最高峰の伯爵家が拝める機会だっていうのに」
「建物の豪華さは、王宮で暮らしているから興味がないんだろう。────何か用事があるかな? アズベル・ギース事務補佐」
父親のローベル・ギース福魔道師長は人柄も良いのに、この息子はしばしばその七光や爵位から高飛車な態度をとることがあった。────まあ、そういう貴族はアズベルに限ったことではないが。
僕がテーブルを人差し指でトンと叩くと部屋中に張り巡らせた魔法陣の文字が浮かび上がりパチパチと臨戦体制の音を出した。入り口のアズベルの足元も小さいながらも閃光が走る。
くだらないことをぬかして入ってくるなら痛みを与えるということだ。
末端の部下であり黒魔道士としての力量もさほどないアズベルは悔しそうに唇を噛んだ。
「──クソッ。来客だから下に降りてくるようにと父上からだ。あなたの家族だと名乗っているらしいが、通していいか受け付けは迷ったらしい」
"家族"────────── !
衝撃を受けたが、奇跡的に顔には出さなかった。
「分かりました。出向きましょう」
僕やユマが孤児であることは周知の事実だった。アズベルは意地の悪い捨て台詞を吐く。
「本当の"家族"なら見つかって何よりですね。まあ、大工や羊飼いってところかもしれませんが」
そうして彼は足早に去っていった。ユマは拳を握りしめて
「何よあいつ!! 最低はそっちだわ!!」
と物凄く怒っている。
僕の方は もうアズベルどころでは無かった。
師長部屋を出て廊下を進み、中央螺旋階段をひたすらに降りる。降りながら感じるのは高揚感や期待感等では決して無かった。
いつからか思い描いていた────顔は思いだせなくても、確かに僕を馬車に乗せて手を振っていた──あの人達とまた会うことがあれば、伝えようと決めていたことが。
螺旋階段を降りると、王宮魔法省の受付に確かに中年の男女が立っている。身なりだけなら貴族風の装いだ。
僕は下から上に視線を走らせ 彼らに魔術や幻術がかかっていないか確認した。
近づいて行くと夫婦もこちらに気づいて瞳を輝かせる。
「ああ……その藍色の瞳にシルバーブロンドの髪色……。間違いないわ。あなたがカルヴァンね」
「カルヴァン……! 立派になったなぁ……」
2人には何の術もかかってはいなかった。
だが僕はどちらにせよ言うことを決めていた言葉を告げた。
「どうかお帰り下さい。────僕に家族はおりません」
と。




