02 自分の正体
今から20年前────
ロドルフ国王陛下に、蛮族に奴隷にされていた孤児として僕は拾われた。記憶は朧気で多分5、6歳くらいの頃だ。
カルヴァンという名前だけは覚えていて、言えたらしい。
ロドルフ国王は当時の宮廷魔道師長に、僕に膨大な魔力が備わっていることを聞き、その魔道師長に託した。
魔道師長の弟子になると共に養子となり、僕は現在のカルヴァン・モルテナム・ロン・ワーズという名前も手に入れた。
"魔法使い"と呼ばれる存在を目指す者は、この世界では基本的には黒魔法と白魔法の両方を学ぶことから始める。それから自然と通じて魔力を宿し自身の中で練り上げる。
実際に魔力を発動できる──その能力が作用するレベルになると、どちらか一方のみの鍛錬となっていく。小さな魔法一つであっても精神力・集中力・体力を必要とするため、そうしなければ習得は困難なのだ。
自ら魔力発動できないものは召喚や使い魔を駆使する"魔導士"になったり、自然界の知識を高めた"薬師"になったりもする。
そして稀にあるのが、先天性の魔力を持つ子供達だ。元々魔力量が備わって生まれ、その力は何某かのきっかけで発揮されることになる──が、制御が効かない。
これらの子供達は魔力の発動を目指すのではなく、黒魔法・白魔法それぞれに制御を目指す。
先天性の魔法使いの中には独自の制御・起動法を身につけ、その道を磨いていく者もいる。
僕は先天性黒魔法使いだった。
戦場では黒魔道士が攻撃・呪詛魔法、白魔道士が防御・治癒魔法に活用される。
ロドルフ国王陛下達と共に蛮族と戦い、僕はそこで魔法制御を身につけていった。
学校には通わず、学業は王宮にいる間に───わざわざ義父のムーファスが自ら教えてくれた。
魔道師長で黒魔道士であるムーファス・モルテナム・ロン・ワーズは、その時にはもう高齢だったのに。
祖父と孫程も年の離れた偽りの父と子────会う時間すら少なかった中で、あの勉強時間だけが"ままごとの親子"のような時間だった。
全くの変わり種ではあったが、戦場で黒魔法での功績を積んでいく僕は、国王夫妻にも王宮の臣下達にも民衆にも讃えられた。魔法使いとしての地位も上がっていく。
だが、ムーファスはそれらについては一度も僕を褒めたことが無かった。
彼が褒めたのは、敗戦して退避中に1人の負傷した少女を僕が拾って来た……あの時だけだった。
"よく連れてきた。よくやったな、カル"
あの人に両肩を抱かれて愛称で呼ばれるなんて、後にも先にもそれしか記憶には無い。
そしてムーファスは一昨年心臓を患い天に召された。
死ぬ前には、彼は長々と宮廷魔道師長の心得を説いた。
体調の悪い彼に変わって、すでに僕が宮廷魔道師長代理を務めていたからだ。若かったが────すでに黒魔道士ナンバー1の実績で、正式な魔道師長になることは明白だった。
"よいかカルヴァンよ。宮廷魔道師長の最も大切なことは魔力が強力であることではない。
黒魔法は、白魔法とは違い、しばしばその強大な力に溺れ、反逆や悪業を試みる輩が現れる。
白魔道士達はそれらの魔法を防御や無効化できたとしても、黒魔道士を倒すことは決してできない。
悪しきことに使われる黒魔法を察知し、王都と国民と白魔道士を守れる──決して邪悪に屈することのない強い心の者こそが宮廷魔道師長だ"
僕はムーファスの視線から逃げるように目を伏せた。そんな僕に彼は菱形の紫水晶のペンダントを渡してきた。
そして彼は続けた──時間はもう残されていなかった。
"その紫水晶のペンダントは心を正しく導く魔術が施してある。お前は私が亡きあと魔道師長になるだろうが、そのペンダントを常に身につけなさい。外してはならない"
そうしてムーファスは息を引き取った。
僕は彼が僕を見抜いていたのだな……と思った────僕の心の弱さと闇を。
当然だった。彼には会ったばかりの頃に話していた。
僕の記憶に残る
"お前を愛しているよ"
"あなたを愛しているわ"
という両親の声のことを────
彼らは そうしてお金を受け取って、僕を馬車に乗せて手を振っていた。
僕は 戦争孤児ではない。
僕は────親に売られた子供だ




