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砦を越えて

 暁を裂くように、空が鳴った。


 北の空――ミュリエ村を囲む防結界の外側に、黒い雨のような影が降っていた。


 それは、《黒き輪》の初動部隊。

 空中投下された多脚型自律兵器と、制御された魔導生命体の編隊。


 


 その中心にいたのは、一人の仮面の男。

 ――《黒き輪》第三席、《リヴェルト・グライス》。


 彼は旧帝国の戦闘技術を継ぐ者であり、思考干渉型制圧術の使い手だった。


 


「目標、ミュリエ中枢制御区域。

 交渉期限は終了――全制圧行動に移行する」


 


 その宣言とともに、空が赤く染まった。


 


 ミュリエ村内。

 迎撃準備は完了していた。


 外周防衛ラインには、クラウス率いる機動部隊。

 空中迎撃には、リィナと彼女の設計による魔導散布装置。

 そして本部制御室では、エリスが全通信を一元管理しつつ、最終指揮に立つ。


 


 アリアは、診療棟へ向かった。


 「何があっても、ここだけは守る。ネイを――“未来を選ぶ者”を、絶対に渡さない」


 


 第一波――多脚兵器が結界に突入。


 リィナが、制御式魔導噴霧装置を展開。


「散布開始。局地磁場を撹乱、制御信号を逆転!」


 


 黒い兵器群が一斉に脚を折り、崩れ落ちる。


 が――すぐに、第二波。


 今回は人型戦術兵が中心。

 旧帝国時代の“魂なき兵士”――いわば、生体兵器に近い存在。


 


 クラウスが剣を抜き、叫ぶ。


「来たぞ! 敵は感情がない、けど手加減も要らねぇ!」


 


 ミュリエの戦闘班は数こそ少ないが、各々が連携を活かし、応戦。


 だが敵は“削ってくる”。

 傷を与えるよりも、“疲弊”と“心理的圧力”を強いる攻め方だった。


 


 やがて――リヴェルトが、直接前線に降り立つ。


「私は“意志の薄さ”を測る者。

 理想を語る者ほど、剥がし甲斐がある」


 


 彼の手から、赤黒い魔導球が放たれた。


 それは“戦意干渉波”。

 対象の“意志”を波のように揺さぶり、“戦う理由”を曖昧にして崩す、精神操作術式。


 


 複数の研究員がその場で崩れ、武器を手放した。


 


 リィナが叫ぶ。


「精神干渉――来るよ、意志を保って!」


 


 だが、その波が届く直前――


 


 アリアの声が、村全体に響いた。


 「――忘れないで!

  私たちが守りたいのは、“間違えても、また選び直せる未来”!」


 


 その言葉に、倒れかけた者たちが一人、また一人と立ち上がった。


 


 干渉波は、完全には破れなかった。

 けれど――“意志の火”は、誰にも消せなかった。


 


 そして、砦の最奥――診療棟。


 ネイが、ようやく目覚めていた。


 その横にいたのは、エリス。


「……ごめんね。こんな時に、目を覚まさせてしまって」


 


 ネイは静かに首を振った。


「……わかるよ。これは、僕が“選ばれた側”じゃなくて、

 “選び直せる側”になった日なんだよね」


 


 彼の声はまだ弱い。

 けれど、その瞳は、確かに未来を見ていた。


 


 そして――


 エリスは手を握り、宣言する。


 


 「砦は越えられない。

  だってここは、“命が戻ってくる場所”なんだから」


 


 この瞬間、ミュリエはただの研究地ではなかった。


 それは、“戦う力”でも、“技術の高さ”でもなく――

 “誰かを信じる力”で守られた、理想の砦だった。

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