誓いのろうそく
王都での暴走事件が沈静化し、
ミルトの裏切り、そしてかつての“正義の亡霊”たちの記録を受け取ったミュリエ連盟は――
いま、改めて“始まり”に立ち返ろうとしていた。
夕暮れ。
ミュリエ村の丘に建てられた小さな記念堂には、主要メンバーたちが集まっていた。
エリス、クラウス、アリア、リィナ、フェルナー、マリー、そして新人研究生たち。
中央には、丸い壇と一本の蝋燭。
これは、かつて村の“最初の診療所”に置かれていた祈りの火。
かつて命を救えなかった者たちのため、
未来に誰かを救う誓いを込めて灯されてきた、小さな炎だった。
「……この火は、誰かの命の重さを忘れないために灯されてきました」
エリスが壇に立ち、静かに語り出す。
「技術は正しさを語れる。理論は、結果を示せる。
でも“命の価値”を決めるのは――私たちの“意志”です」
言葉の一つひとつが、静かに胸に落ちていく。
リィナが、そっと蝋燭に火を継ぐ。
「私はかつて、命令しか信じられませんでした。
でも今、誰かの願いのために技術を使うことを、恐れずにいたいと思います」
アリアが一歩進む。
「私はこの村で、嘘ではない“信頼”を知りました。
だからこそ、私はそれを守る側に立ちたい」
クラウスは、肩をすくめながらも真剣な目で言う。
「理想を追えば敵ができる。失敗もする。でも、だからってやめる理由にはならない。
私は、“続けること”に意味があると信じてる」
フェルナーは、黙って一礼し、短く言葉を落とした。
「ここにいれば、守る理由を忘れずに済む。それだけだ」
最後に、エリスが再び壇上へ戻り、皆の顔を見渡す。
「私たちは、違う過去を持っています。
でも、今この場所で――同じ未来を信じることができます」
その言葉とともに、彼女は蝋燭に手をかざし、小さく言った。
「この火が消えない限り、私たちは何度でも立ち上がれる」
全員がそれに倣い、蝋燭の周囲に集まり、順に誓いを述べていった。
騒がしさも、派手さもない。
だが、それは確かに“誰かを守る”という静かな、けれど強い意志の結晶だった。
夜。
皆が去った後、残ったエリスはひとり蝋燭の火を見つめていた。
「先生。私はまだ、うまくやれているか分からない。
でも少なくとも今は、誰かと一緒に“信じる”ことができる」
その瞬間、風がそっと吹き抜ける。
それでも火は揺らぎながらも、決して消えなかった。
まるで、そこに“見守る者”がいたかのように。




