赤の残響
王都・グランフェルト。
静けさの中、突如として“それ”は現れた。
中心街広場。
魔導管理庁の敷地内に置かれていた封印箱が突如として光を放ち、警戒網を無視して展開された。
赤黒く脈動する球体。
空間を歪め、風を逆巻かせる異常な魔力波。
――それは、かつて“青の爆心素”の暴走によって都市を消滅させたものと、極めて近い“構造”を持っていた。
「緊急警報! 魔導暴走反応Aクラス発生、被害想定半径一キロ超! 近隣住民は速やかに退避を!」
魔導庁が即時封鎖をかけるも、装置はその中央でじわじわと核を形成し始めていた。
報告を受けた王国議会は即座に対策本部を招集。
だが、誰一人として“それが何であるか”を即答できる者はいなかった。
ただ一人を除いて――
「……“あれ”は、ミュリエから消えた装置。
ミルト・ガーランドが奪った、あの《赤の結晶核》よ」
ミュリエ村の会議室で、リィナが冷ややかに断言した。
「結晶核の構造は私が解析した。暴走因子は完全には抑制されていなかった。
放っておけば、王都中心部が“魔力汚染地帯”に変わるわ」
「リモート停止はできるか?」
クラウスが問いかけるも、リィナは首を振る。
「不可能。あれは“認証主の意思”によって魔力構造が変化する。
つまり――設置者、ミルト・ガーランドが“暴走するよう仕組んだ”としか考えられない」
エリスは立ち上がる。
「すぐに出発する。王都に行くわ。
ミュリエの技術が暴走するのなら、それを止めるのは――私たちの責任よ」
王都・魔導管理庁前。
エリス、アリア、リィナ、そして数名の連盟技術班が即時到着。
すでに結晶核は赤黒い瘴気を周囲に放ち、触れた魔導装置を次々と腐食させていた。
「ここまで……進行してるの……?」
マリーが絶句する。
「あと十五分で臨界を迎える。中に突入し、魔力流路を“再配列”して強制的に閉鎖するしかない」
リィナが魔導グローブを装着し、結界の前に立つ。
「リィナ、危険よ」
「私が作った構造です。私が止めなければ、誰が止めるのですか」
しかし、エリスが前に出る。
「一人では行かせない。私も行く。
私も、あの技術を承認した一人だから――共に責任を取らなきゃいけない」
二人は結界を突破し、暴走する核の中心部へと踏み込んだ。
狂った魔力が吹き荒れ、視界すら定まらない中、
エリスが魔力遮断装置を展開。リィナが解析魔導式を起動。
「同期率65%……70%……!」
「安定化シーケンス、いける……!」
そして――
「同期完了、再配列開始!」
真紅の結晶が、パリンと音を立てて崩れ、
中心の瘴気が音もなく霧散していった。
王都が沈黙した。
数秒後、控えていた王都の市民たちが歓声と拍手を上げ、
連盟の名はその瞬間、“救世の象徴”として王国中に知られることとなる。
エリスとリィナは、崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
「……止まった?」
「ええ。完璧に」
「……よかった……」
その夜。
王都で非常事態の鎮静が進む中、ミルト・ガーランドの影は依然として見つかっていなかった。
だが、彼が残した一枚の紙片が、事件現場に残されていた。
「理想を、綺麗なまま終わらせない。必ず、証明してみせる」
その筆跡は冷たく、狂気と知性の狭間に立つ者のものだった。
エリスはその紙を見つめ、静かに誓う。
「なら……こちらは、“信じること”を最後まで貫くだけよ」




