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裏切者の微笑

 雨が降っていた。


 珍しく冷たい空気が流れ込んだその日の朝、ミュリエ村に一報が届いた。


 「研究棟の外部通信回線が、意図的に遮断された形跡がある」


 


 フェルナーが最初に気づいた。


「内部からの操作だ。外部侵入の痕跡はない。

 つまり……“誰かが、ここから繋がらないようにした”」


 


 緊急会議が開かれた。


 集まったのは、エリス、クラウス、アリア、リィナ、フェルナー。

 そして、技術班の監査責任者であるミルト・ガーランドもいた。


 ミルトは柔らかい物腰と冴えた頭脳で知られ、

 ミュリエの創設当初からエリスを支えてきた数少ない古株の一人だった。


 


「ミュリエは“理想”の上に立っています。だからこそ、狙われる。

 だとすれば、ここにいる誰かが……“理想を壊す理由”を持っていることになる」


 クラウスの言葉に、場が静まり返った。


 


 その夜、リィナはふと研究棟の中庭で、一人の男とすれ違った。


 ――ミルト・ガーランド。


 いつも通りの柔らかい笑み。しかし、その背に違和感があった。


「……ミルトさん?」


「おや、リィナさん。こんな夜に、何かお困りですか?」


「いえ……ただ、今日の会議、違和感がありました。

 なぜ、遮断工作の直後に“監査班”の全通信記録が封鎖されていたのか、説明がなかった」


「ふふ……さすが。“蒼の継承者”は目ざとい」


 


 その言葉とともに、男の目が冷たく変わる。


「理想は、脆いものですよ。エリス様がどれだけ強く信じても、

 誰かがほんの少し“穴”を開ければ、あとは崩れるだけ」


「……あなたが、やったの?」


「私は、“道理”を教えているだけです。

 エリス様が抱く理想が、世界を歪める前に――ね」


 


 その瞬間、リィナは後退し、警戒体勢を取った。


「あなたは……何者?」


「裏切り者ですよ。“始まりの理想”に従いながら、“終わりの現実”を信じているだけです」


 


 足音が響き、アリアとフェルナーが駆けつける。


「下がって、リィナ!」


「遅かったな……でもまあ、これは予定通り。

 ――“理想の連盟”を崩すのは、外敵ではなく、“内側から”が一番美しいんですよ」


 


 ミルト・ガーランド。

 ミュリエ創設メンバーにして、今や**“理想を壊す者”**。


 彼は言葉を残し、煙幕を焚いて姿を消した。


 


 翌朝、研究棟の地下から、封印されていた魔導装置の一基が消えていたことが発覚する。


 それは、リィナがかつて接触し、封印し直した青の爆心素の派生装置。


 


 エリスは静かに宣言する。


「……“理想を信じる”ということは、“裏切りに耐える覚悟を持つ”ことでもある」


 


 そして、仲間たちに向き直る。


「ここからが、本当の意味で“私たちの連盟”を問われる時。

 正しさじゃなく、誠実さで、乗り越えてみせる」


 


 こうして、“裏切り”が牙を剥き始める。

 連盟は今、初めて“内部からの崩壊”に晒されようとしていた。

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