ふたつの国の会談
あまりの声の冷たさに、私は咄嗟に口を閉じた。
初めて聞いた、コウちゃんの冷たい声。それは静かに凪ぐ水のように冷ややかなのに、私を見つめている目は燃えるように熱い。怒っている、のだろうことが直ぐにわかった。
「なぁ、シオンはおかしいよ。なんで、カロラのやつと仲良くなんてなろうとしているんだよ」
なぁ、と私はコウちゃんになじられる。
その目は、私が姚国を裏切っているといっているようで、目を逸らしたくなったのに、目をそらせない。
「俺に、カロラでの生活はどうだったかと聞いたな。そりゃあ酷いもんだった。俺は男だったから、力仕事もさせられた。体を酷使されて、傷だらけだよ」
コウちゃんは服の袖をめくる。腕は強く何かで打ち付けられて、皮膚の凹凸がひどい。まるで何度も何度も鞭で打たれたような。
あまりの状態に絶句する。
「こんなことになったのに、話し合えって? 何を、どうやって? 故郷を汚されて、俺たちをここまで追い込んだのに」
その表情は憎しみに満ちていた。絶対に許さない、という確固たる意志を感じる。
「俺は全部を取り戻すためにここに来た。こんな体を引き摺って、姚国の人間を集めて、全てを元に戻すために」
シオンは、と一旦コウちゃんは言葉を区切る。
「違うのか? 取り戻したいと思わないのか」
「私は……取り戻したいとは思うよ。でも、簡単にはできないことも知ってる。虹脈をカロラから取り上げたら、同じことが起きる」
そう。姚国が滅んだように、カロラも虹脈の力を失って枯れた大地になるかもしれない。
それだけは、見たくない。もう、あんな悲しい光景は見たくない。
姚国の光景を思い浮かべながら、私はコウちゃんに強くいった。
「それは、仕方の無い犠牲だろう。俺はそう思う」
しかし、コウちゃんは私とは違った。
コウちゃんはカロラが滅んでも仕方がないと言い切った。
「それに、俺は知ってる。この国がしている実験のこと」
「えっ……なんでそれを……」
「俺たちにだって、知る術はある。教えてくれる人がいるからな」
「……教えて、くれる人?」
だから、絶対に許さないとコウちゃんが握る拳に力が入った。
私は、その教えてくれる人というのが引っかかる。問い詰めて聞くが、コウちゃんは。
「こっちに来てくれると言うのなら、教えてあげるよ」
と言った。
私は返答に困った。今の私はどちらがひとつを完全には選べなかった。
どっちも、大事だと思っていたから。
「それが、シーちゃんの答えなんだね」
黙りこくったままの私に、コウちゃんは諦めたように言った。
そして、静かに部屋を出ていく。
開けられたドアが完全にしまった時、コウちゃんとの関係が変わってしまったのだと、思い知らされた。




