冷たい声
「今はまだ……」
絞り出すような言葉に、私は一歩下がって俯く。
教えてくれないのは、何故?
「私には、言えないことですか」
そこまでして言いたくないこととはなんだろう。
私には知られたくないことなのは分かる。
けれど、これまで色々時間を重ねてきた中で、頑なに口を噤まれると、悲しい気持ちになる。
「分かりました、ロイさんが困るならもう聞きません。教えてくれる気になったら聞かせてください」
少し棘のある言い方になってしまうのは仕方がなかった。心がささくれだってしまったから。
しかし、ロイさんの少し傷ついたような、ごめんの言葉に私は後悔を覚えた。
――――――――――――
コウちゃんとの再会を喜ぶ機会は直ぐにやってきた。
リーク様が気を利かせて、会談を前に場を設けてくれたのだ。
城の一室で、私はコウちゃんが来るのを待った。
部屋はガラスでできたローテーブルを真ん中に、革張りのソファが向かい合わせで並べられている。
花瓶には白い百合の花とアオモジという青々とした枝物が飾られている。
全体的に清潔感のあるシンプルな部屋にノックの音が響く。
はい、と返事をするとコウちゃんがその扉を開けた。
「久しぶり、コウちゃん。元気だった?」
「あぁ。そこそこな」
リーク様と会った時とは違う、砕けた口調にやっぱり変わってないなと安堵する。
コウちゃんは、向かいのソファに座ると部屋の中をぐるりと見回し少し眉を顰めた。
「ん? どうかした?」
「いや。なんでもない。シオンはかロラに来てどれくらい経つ」
「え、そうだな。もう十年は経つかも」
物心着く前にはここにいた。その時にはもう姚国は枯れた大地になっていて、むしろ豊かだった姿の方があまり覚えがない。
栄えていた国を思い出せないのは、少々寂しくもある。
「そうか。俺は覚えているよ。緑豊かだった国をさ。それに、シオンと遊んだ日々もね」
「私だって覚えているよ。川に入って遊んだこととか、木の実を齧って渋いねっていったこととか。あの時は楽しかったね」
覚えていないとはいえ、全てが忘れている訳ではなく。コウちゃんとの日々は、優しくて温かい思い出だ。今だって大切な。
「今だって大切な思い出だよ」
胸に手を当てて、そっと目を閉じるとぽっと温かいものが広がる気がする。
「そうそう。コウちゃんに聞いてみたかったんだ。コウちゃんはカロラにいたの? コウちゃんは大丈夫だった? 私はお父さんと姚国に来て、そのあと大変だったけど、いい人たちに出会えたんだよ。今ではその人たちのおかげで何とかやってこれてる」
コウちゃんも同じ苦労をしたのだろうか?
別れたあの日から、コウちゃんはどんな日々を過ごしていたの?
「もし、なにか困り事とかあるなら私にも教えて。みんなで……」
話し合おう、と言おうとして。
「うるさい」
とコウちゃんがぴしゃりと切り捨てた。




