第24話 ウィステリアの回想
その日、ウィステリアは街をブラブラしていた。
祖父が皇帝として健在なため、直ぐにどうということはないが、皇族・王位継承候補者としてはかなりの高位にいるウィステリア。
ふらふらと街を出歩いて大丈夫なのか、と言わざるを得ないが、そこは魔界特有の緩さ。
仮に王様が上半身裸で歩いても、子供に後ろ指をさされて笑われる程度で済む、そんな国である。
故にウィステリアも当然一人…と思いきや、心配性の祖父が送り付けてきた護衛が、周囲でその動向を伺っている。
ちなみに、この護衛。
最初は前後と両脇をごっつい鎧が固めていた。
護衛にあるまじき、「狙ってくれ」と言わんばかりの目立ち方だったが、ウィステリアの「一生嫌いになる」発言で現在の形に落ち着いた。
常識的な対応に舵を切ってくれた祖母に感謝。
訳わからん理屈でギガントアーマー12体を護衛として送り込んできた祖父には一生感謝しない。
さて、護衛も大変だろうに…と多少気遣いつつ、街ブラしていたウィステリア。
そんな中、ウィステリアの前に急使が現れた。
側近の骸骨騎士であるダンタリアが使う骨鳩便である。
ん?と思い骨鳩の肋骨の中に納まっている手紙を開くと、ウィステリアがプルプルと震え出した。
「人間界と召喚陣でつながりそう…じゃと…!?」
以前から、人間界に、興味は、ありまーす、と豪語していたウィステリアにとって、その内容は鮮烈であった。
魔界と人間界の行き来は、それぞれの世界で召喚陣を起動させれば「向こう側から呼び寄せる」ことが出来るため、手法自体は単純である。(注1)
一方、自ら世界を渡って行こうとするのは、ウィステリアの桁違いの魔力でもほぼ不可能である。
感覚としては、「召喚陣を使った呼び寄せ」は大量の魔力を一瞬だけ使う桁数の多い掛け算(注2)、「自らを召喚させる移動」は大量の魔力を消費し続ける桁数の多い素因数分解(注3)、といった感じである。
さて、ダンタリアの説明には続きがあり、召喚陣の起動に必要な魔力を集めている最中であろうことや、自分の部下1,2体が召喚される程度の魔力量(注4)で起動されそう、とのことだった。
もしかすると自分が代わりに行けるのでは…?と期待していたウィステリアだが、その説明を聞いて少々落ち込む。(注5)
「やはり無理そうかの…。」
しかし次の瞬間、ウィステリアに電流走る。(注6)
電気の概念は無いが電流走る。
何処の電位差なのか分からないが電流走る。
走る?流れるではなくて?
走るったら走る。
そろそろ「走」が漢字ではなくて記号に見えてきたが、走る。
「無理矢理穴を拡げられるんじゃなかろうか?!」(注7)
ウィステリアの頭の中には、人間界に繋がる狭い穴を魔力で無理矢理押し広げる絵面が浮かんでいる。
そんなに簡単に行くはずは無いと思いつつ、思いついた以上は試してみたくなる。
「急いで戻らねば!」
ばびゅーんという効果音と共に急いで城に戻るウィステリア。
所在無さげな骨鳩。(注8)。
見守る護衛。(注9)(注10)(注11)
そして、隠れファンクラブがあるほど、魔界の住人に大人気なウィステリアの短絡的…もとい愛らしい行動(注12)に微笑みを浮かべる街の人々。
いつもの風景であった。
なおその後、穴を拡げることには何故か成功したものの、謎の斬撃(注13)の影響で、無理やり引っ張ってきたダンタリアは召喚に失敗(注14)。
そして自らは5才児様とした姿で召喚されてしまい、見た目は子供、魔力は化け物、その名はウィステリアが爆誕することとなる(注15)。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(注1)「召喚陣を描く」という単純な手法。なお召喚陣自体はとんでもなく複雑。
(注2)起動に必要な魔力量の目安としては、対象となる存在によって数万~数億。人間界に住む一般人の魔力量が0~50、一般的な魔法使いが500~1,000、大魔導クラスで3,000~5,000なので、単体ではかなり難しい。が、皆の魔力をちょっとずつ分けてもらうなど、やり方次第でワンチャンあり。
(注3)ウィステリアは魔界の水準でも「魔力お化け」と呼ばれる存在であり、正確な計測が難しいものの数億の魔力量を誇り、クロムとシトラスはそれと遜色ない程度。まさに人外だが、それでも難しいんだな、くらいの感覚でどうぞ。
(注4)数万程度の魔力を集めようとしている最中。それではせいぜいダンタリアの部下程度ということ。なお魔力量の単位名称は設定していないので、お好きな名称でどうぞ。お勧めは分かりやすい「ポイント」又は「MP」です。
(注5)落ち込んだ理由は割愛。長くても説明が必要な人は以下をどうぞ。
※人間が保有する魔力が、魔族や魔物と比較するとかなり少ないことは、魔界でも一部の住人には伝わっている。
※当然ウィステリアも知っており、自分が召喚されるほどの魔力が召喚陣起動に使われることはなさそうじゃ、と、過度な期待はしなかったものの、もしかしたら…万が一…と思ったのだ。
※ウィステリアの記憶の限りでは、人間界の住人が召喚陣をまともに起動した前例がないことも、淡い期待を抱いた遠因である。
※なお、魔界に人間等を召喚することは魔力的には難しくない。ただし人間を呼んでも、喧嘩はする・略奪はする・英雄気取りで偉そう・欲望に限りがない等々旨味がなく、面倒なだけなので誰もやらない。
(注6)ギャンブル好きという設定はありません。
(注7)口調や表現等についての突っ込みは無しでお願いします。
(注8)この後、落ち着きを取り戻した骨鳩は無事にダンタリアの元に帰っています。
(注9)取り巻く護衛が後を追わずに見守っているのは、そもそも毎回毎回面倒事に付き合わされて気合がミニマムなのと、一応ウィステリアの影に「影道」が潜んでいるから。
(注10)1体いれば問題無いと各方面から絶賛された最強の護衛「影道」。陰に潜む系の魔物の中でも最強を誇る。唯一の弱点はオリハルコン製の武器。ちなみに内気な性格で恥ずかしがり屋のため、表舞台は超苦手。
(注11)そんな最強護衛がいるにもかかわらず、さらに護衛を増やそうとするのは、祖父の愛情の賜物であろう。
(注12)魔界一のナイスボディは実は本当。その見た目と、浅慮…もとい感情豊かな言動と行動で、魔界屈指の愛されキャラ。
(注13)八刀・冥。
(注14)ダンタリアの体だけ人間界に召喚されてしまったが、スペアボディがあるため問題無し。ただし、人間界に独り旅立ったウィステリアが心配で眠れない日々が続いている。
(注15)後にその姿を見た両親・祖父母には「ちいさいウィスちゃん…か、可愛い~☆」と大変好評であったが、それはまた別のお話。




