第15話 ギルドの一室
王都ギルドの一室に、3人の男女が座っていた。
緊張した面持ちの男と女。
そして、その前に座るもう一人の女。
ギルドの受付をしている時には、できる限り目立たず、真面目でおとなしい印象を持たれるよう努めていたその女の雰囲気は、今は一変している。
男からすると、この女は、自分がいる組織の遥か上にいる存在。
表の世界では王都ギルドの副マスター。
裏は…。
逆らってはいけない。
静かに紡ぐ言葉の中に、押し潰されそうなほどの威圧感。
長身に、深緑の長髪をなびかせ優雅に座る様は、その美貌と相まって絵画のような美しさである。
にも関わらず、男は細かい震えが止まらない。
横の女も、同じような状況だろう。
今、女が眺める一枚の紙には、最近の冒険者パーティの動向が記されていた。
「解散が3組、低ランクへの再編成が6組…。」
小声でつぶやく女の前には、緊張しながらその様子を伺う男と女。
「どうでしょう。追加でこの成果は。」
「そうね。いいんじゃない。」
その言葉にホッとする二人。
ニコリと微笑む女。
一瞬だけ空気が弛緩するが、次の言葉で雰囲気が一変する。
「あの5人、邪魔ね。」
射殺さんばかりの強い視線を二人に向ける女。
辛うじて意識を保つ二人。
自分たちが殺されるわけではない。
だが、自分たちに向けられた視線の意味もしっかり理解しなければいけない。
「排除しますか?」
「分かってて言っているの?無能はクビよ。」
「っ…申し訳ありません。」
もちろん、仕事を辞めされられるという【クビ】でないことくらいは、二人にも分かる。
ただ、ある程度戦力を集中すれば「排除できる」と進言してしまったのは、その可能性が残っていると思ったからであるが、女は端からその考えが無いようだ。
男はこれまで、この3人を中心に、ギルド職員の立場を最大限利用して、王都ギルドの所属冒険者の力をこれでもかというくらい削いできた。
仲違い、報酬揉め、恨み、妬み、そして暗殺。
もはや、まともに活動しているAランク以上のパーティはいない。
ただ、あの5人の評価については、かなり危険とは思っていたものの、そこまでの実力は無いと考えていた。
しかし女の反応を踏まえると、認識を一変させるべきなのだろうと理解した。
中途半端に動いたら即座に全滅。
油断は一切禁止。
くらいだろうか?
「で、結局どうなったの?」
例の召喚陣のことを聞かれていると察した男。
目の前の女は既に全容は把握しているはず。
より細かい部分の答え合わせということだろう。
「起動前に割られたようですが、それだけなら問題はありませんでした。」
「特別な割られ方をされたと?」
「間違いなく。」
「厄介ね。」
「いかが致しましょうか。」
今後の対応を尋ねる男。
すると女は、小考の後、答えた。
「潜る。」
潜るというのは危険を察知しているということだが、王都でやることは終えた、ということかもしれない。
「王都での活動はいかがしましょうか。」
「遂行中の作戦は中断する。」
「よろしいので?」
「躊躇していたら根こそぎやられる。」
どうやら女は、例の五人組を最高レベルと言っていいくらい警戒しているようだ。
自分には「まさかそこまで…」という思いも多少ある。
とはいえ自分の意見に意味はなく、逆らうことも当然しない。
女の決定が全てである。
「すぐに発ちますか?」
「そうね。」
「回収できるものは出来るだけ回収する、でよろしいですか?」
「出発できる人は即時。日没までに回収できないものは破棄。」
「わかりました。」
必要なことは話した、とばかりに、女は立ち上がって部屋を出る。
その様子を見ていた二人は、女が出るまで頭を下げ続ける。
女は、
「まあ、今更かき回されても、特に問題はないでしょうけど。」
と呟くと、静かに部屋を出ていった。




