07 潜む狼
Sランク冒険者、何だあの化物は。
迷宮の外を襲撃してダンジョンポイントを大量ゲットするとあんなのが飛んでくるのか。やってられんな全く。
という訳で4回目はアルカとかいうSランク冒険者にサクッとやられてしまった。
「申し訳ありません〜、魔王様」
涙目のアビ吉が足元に縋り付いてくる。
「酸特化のアビ吉にとって、酸完全耐性は天敵だな。完全に相性が悪かったよ」
「はい〜、ずびばぜん」
アビ吉が鼻から液体を垂らしてる、それは鼻水なのか酸なのか。酸だったら溶けるのだが。
何はともあれ、あんな化物が居るなら大暴れするのは良くなさそうだな。
基本の戦略は無害で有用な迷宮のフリをするのが得策だろうな。そうすれば攻略されないのは前回で確認済みだ。
そして、この迷宮と紐付けられないように迷宮外でひっそり人を殺して、ダンジョンポイントを稼ぐのが良さそう。
特に、今回は人の姿になれるアビ吉が居る。そして、アビ吉は空間転移ほど有用ではないが、空間を溶かしてワープする事ができる。
今回の戦略はとしては、迷宮は無害な羊を装い、相手の牧場に狼を放ってしまおう大作戦だ。
◇◇◇
鐘の鳴る塔の屋根から街を見下ろすのは見事に人に擬態したスライム、アビ吉。主人である魔王様に用意してもらった初心者冒険者っぽい服に身を包む。
視界は魔王様に共有されるため、じっくりりと街を見渡すように視線を動かす。
『あそこが冒険者ギルドの建物だな。まずはあそこからだ。』
頭に伝わる魔王様の指示により、空間を溶かし指示のあった建物の近くの裏路地までつなげる。そして溶けた空間の穴を通り移動する。
路地裏から見える冒険者ギルドの建物を覗き見て、魔王様に言われた今回の目標を思い出す。
1つ目、人として潜入しこの世界の人々の情報、特に冒険者や冒険者ギルドについての情報を収集すること。
2つ目、Sランク冒険者について、何人いてどんな活動をしているのか、そしてその強さの秘密、について調査すること。
自分たちの敵となりうるのがSランク冒険者のみである事から、2つ目を1つ目と分けて魔王様は目標を明言した。
アビ吉は路地裏から出ると、まっすぐ冒険者ギルドの建物に向かい、その扉を開けた。
扉を開くと広がる喧騒に一瞬停止するがすぐに動き出す。
前回冒険者を捉えあらゆる情報を聞き出したため事前情報は十分だ。アビ吉は迷わずに冒険者ギルド内にある受付へと足を進めた。
受付にはそこらに居る冒険者と変わりない剛腕を持つ、逞しい女性が悠然とそこに座っていた。
「どうしたの、嬢ちゃん?」
見た目とは裏腹に優しげな口調で、目の前に来たアビ吉に問いかける。
「冒険者になりにきた。これ、登録料」
アビ吉は懐から冒険者になる為に必要な額の硬貨を出すとカウンターに置く。
「お嬢ちゃんみたいな子どもにお勧めする仕事じゃないんだけどね。来るもの拒まず冒険者として迎え、依頼を与えるってのが冒険者ギルドだよ」
受付の女性はカウンターの金を受け取ると、用紙を取り出し何やら記入する。名前や出身など幾つか聞かれた事に答える。勿論事前に答えは用意しておいた。
用紙を書き終えると文字の印字された金属のプレートを渡される。
「それがEランク冒険者の証さ。見習い冒険者で仮登録みたいなもんだから、幾つか依頼をこなせば、すぐにDランクに上がれる。だが、無理するんじゃないよ」
「分かった」
無表情で頷くアビ吉を見て一息ため息をつくと、受付の女性はよその方向に向かって叫ぶ。
「ナルミ!」
「はいぃぃッ!」
遠くの机で本を読んでいたらしい少女が元気よく起立すると、慌ててこちらへ駆け寄ってくる。
「ナルミ、あんた達のチーム確か3人だったよね?」
「そ、そうです!」
「今日からこの子もあんたのチームに入れてやりな」
「こ、この子ですか…?」
ナルミと呼ばれた少女はアビ吉を見る。
「僕はアビ、よろしく」
「ああ、こちらこそよろしく。ナルミと言います」
アビ吉の自己紹介に流れで自己紹介したナルミだったが、慌てて受付の女性を見る。
「シシブチさん、私たち村の幼馴染でチーム組んでるんですけど…」
「前から言ってるとおり子ども3人で迷宮には行かせられないね。ましてや仲良しこよしのごっこ遊びの延長線じゃあすぐ死んじまう。この子を入れて迷宮外の依頼をやりながらチーム、冒険者について理解を深めな」
シシブチと呼ばれた受付の女性の言葉に、意気消沈するナルミ。ナルミから視線を外したシシブチはアビ吉を見る。
「1週間前に嬢ちゃんと同じように冒険者になりに来た子だ。せっかく同じ時期に冒険者になったんだ、切磋琢磨する為にも今は1つのチームとして頑張ってみな!」
シシブチはアビ吉の背中を軽く叩く。そのまま次の冒険者の相手に移ってしまったシシブチを諦め、目の前のナルミに向き直る。
「ナルミ?」
「あ、取り敢えず同じチームになったみたいだからよろしくね。リーダーも勝手に私に決めちゃったし、シシブチさん強引だよね。はっはっ」
「なんだい、私の悪口かい?」
ナルミの言葉に次の冒険者の相手をしていたシシブチがこちらをジロリと見て割り込んでくる。
「いえ、今のはジョーダンです!すみませんでしたー!」
ナルミはアビの手を取ると逃げるようにその場を後にする。
◇◇◇
「俺はオレン!絶対、Sランク冒険者になってやるんだ!」
「アタシはリクレ。迷宮でお宝を見つけてとんでもないお金持ちになってやるんだから!」
アビ吉は、ナルミの他の仲間である少年と少女に会っていた。
「よろしく、僕はアビ」
軽く自己紹介をしたところで、ナルミがギルドであった事を話す。
「確かに3人チームってのは心もとないよな。ギルドが推奨してるのも6人だしさ」
「でも初めて迷宮に入るのは3人が良かったよな〜」
そこまで言ったところでリクレは慌てて言い直す。
「あ、ごめん!アビのこと嫌とかじゃなくてさ!アタシたち村の幼馴染で冒険者目指そって頑張ってきたからさ」
「そうそう!だけどもうアビが加わって4人になったんだ、新生『木の剣』として頑張ろうぜ!」
オレンが力強く拳を差し出す。アビはそれを無視すると疑問を口にする。
「木の剣?」
「ああ、木の剣ってのは俺達のチーム名だよ」
オレンは腰に挿していた木剣を抜き見せる。
「俺達装備を揃える金もないしさ、冒険者になる前に頑張って木を削って作ったのがこの剣。まだ俺達は『木の剣』だけど、もっと強くなっていい装備手に入れたら、チーム名もそりゃカッコいい最高の名前に改名するつもりさ!」
オレンは剣を空へと掲げる。
「まぁ今は迷宮に入ることすらできてないんだけどね」
ナルミの言葉にオレンが肩を落とす。
「なんで?迷宮行こうよ」
アビ吉の質問にナルミが答える。
「シシブチさんに迷宮にまだ行くなって言われてるんだよね。今は迷宮や近くの村の見回りの依頼を受けて日銭を稼いでるところ」
「シシブチに止められてても冒険者になった時点で迷宮には入れるんだよね?」
アビ吉は事前情報をもとに素直に疑問を口にする。
「シシブチさんは口うるさいけど面倒見がいいし、私達の実力が足りないからまだ行くなって言ってくれてるじゃないかな?」
アビ吉は少し考え込むふりをして魔王様の司令を待つ。だいたい動きを止めて停止すると魔王様の指示が飛んでくるからだ。案の定指示が飛んできた為そのとおりに行動する。
「そう、なら今から迷宮に行こう。僕が居れば大丈夫」
アビ吉の言葉に3人は互いに目を見合わせる。シシブチに止められている為迷宮には行けない、だが正直迷宮に行ってみたいし、ここ数日迷宮に行けないのにシシブチからは明確な指示や方針が示されず鬱憤が溜まっていたところ。
3人がアビ吉の話に乗ってしまうのも仕方ないことかも知れない。




