06 想定外
「ダルイン、どうする?」
事前情報と異なるデスレイヴンが出てきたことで、ここで一度撤退するべきか、リーダーとして選択を迫られる。
「いや、残りのコーロシブジェルとバインドグモが進化していたとしても、俺達なら対処できる。このまま進もう。」
リーダーが下した決断にメンバー全員異論はないようだ。
迷宮を更に進むと通路に3人の少女が立っていた。
ダルインは他の冒険者が近付かないように手で制する。
「ドールアルカネ。バインドグモが進化した魔物で、自身の糸で作った精巧な人形で、冒険者を騙す蜘蛛の魔物だ。」
ダルインの言葉に知らなかった冒険者たちは驚きの声を上げる。
「カイ」
ダルインが声をかけると狩人のカイが少女に向かって矢を放つ。
キンッ。
少女はどこから取り出したのか剣で矢を弾く。
「やはりな。この通路の奥にでっかい蜘蛛の本体がいるはずだ。」
バレたとばかりに少女達は武器を取り出す。
「相手は人のかたちをしているが、対人戦闘を意識するな。所詮人形だ、人間離れした動きで殺られるぞ。」
冒険者全員で相手取り片付けた。こちらの被害は、Bランク冒険者チームの冒険者が2名倒されてしまった。
「向こうからお出ましだぞ。」
通路の向こうから現れたのは大きな蜘蛛。個としての強さで言えば、デスレイヴンより上。
倒すには蜘蛛の硬い外殻を突破できる貫通力のある攻撃が必要だ。
「ぎゃああーー!」
後方から悲鳴が上がる。まさか、後ろに魔物が現れたのか?1チームを残してきた筈だが。そう思い振り返ると、先程やられ亡くなった冒険者の男が立ち上がり味方を刺していた。
「死体が、死体が、動き出したぞ!」
これは、まさか!ダルインはドールアルカネを見る。脚にはどこかへ伸びる糸がついている。こいつは死体も操るのか?!
くそ、面倒くさい事になった。
「チーム夕暮れ!フォーメーションA!とっととこいつを片付けるぞ!」
再び夕暮れメンバーが動き出す。後ろの死体は他の冒険者に抑えてもらうしかない。
狩人カイが鉄の杭のような矢を放つ。蜘蛛の関節の隙間を狙った矢は、他の外殻箇所と異なりドールアルカネの体に突き刺さる。
剣士リリアナがドールアルカネの足元へ接近する。ドールアルカネが攻撃を加えようとするが、タンクのモクモがしっかりガードする。
剣士リリアナによりドールアルカネの脚が切断される。自重により体が沈み込む。
そこへダルインが駆けつけ、先程突き刺さった鉄の杭に向かってハードインパクトを叩き込む。
鉄の杭はドールアルカネの体深くまで突き刺さる。
「こうなったらお終いよ。雷鳴、トールハンマー!!」
魔法師ユズハの最高威力の魔法。鉄の杭に向かって雷撃が飛来する。体内に入った鉄の杭を通してドールアルカネの全身を雷が焼き切る。
ドールアルカネは全身から煙を上げて、地面に倒れ込んだ。
後ろを振り返れば、4人まで増えていた動く死体が、操る糸を失い倒れていく。
ドールアルカネを倒し、皆休憩へと入る。
正直、かなりの被害だ。犠牲者が5名に加えて、負傷者もいる。迷宮が残り僅かなのもわかっているが、安全策を取るなら撤退したいところ。
だが、マリッサの冒険者たちの心情を考えればこのまま攻略したいだろう。
ボタッ。
ダルインが考えていると何かが落ちる音がした。
ボタッボタッ。
まただ。音のした方を見るドールアルカネの死骸がある。行きていない、確実に死んでいる。
ボタッボタボタッ。プシュー。
凄い量の何かが落ちた音がしたと思ったら、ドールアルカネの死骸から煙が吹き上がる。たちまちドールアルカネの死骸が溶けていく。小さくなっていきドロドロの沼のようなものに吸い込まれていった。
「何だあれは…」
ダルインは反射的に剣を抜いた。
「総員、戦闘準備!」
ダルインの声により冒険者たちに緊張が走る。
ドロドロの沼はどんどん小さくなっていく。程なくして沼から少年が這い上がってくる。少女だろうか、中性的でどちらとも言えない。
その這い出してきた子どもにドロドロの沼がみるみるうちに吸い込まれていった。
「ぷっはー、美味しかった!」
中性的な声が響く。流暢に人間の言葉を喋ったことに驚いた。だが明らかに人間ではない。
「仲間の亡骸はちゃんと弔わないとね。」
沼を吸い込み終わった子どもは、ヒタヒタとこちらに歩いてくる。
ダルインは目で魔法師ユズハに合図する。
「雷鳴、トールハンマー!」
杭が無い分指向性が失われたが、子どもを含む広範囲に命中する。しかし、子どもは何食わぬ顔で歩みを止めない。
「あ、ごめーん。僕に魔法は効かないんだ。」
すぐに狩人カイが矢を放つ。しかし、子どもに着弾する瞬間に矢が消えた。
「ごめんごめん、言い方が悪かったね。僕にはあらゆる攻撃が効かないんだ。」
何だと。そんな訳がないブラフか?いや嘘をついてるようにも見えないが、相手は人間ではない。
ブラフかどうかはどうでもいい。取り敢えず相手がやばい化物だってことだ。
「総員撤退!こいつとは戦ってはいけない!」
ダルインが叫ぶ。明らかに冒険者達に動揺が広がった。それは相手の子どものような見た目のせいだろう。
「は?逃がすわけないじゃん。」
子どもが走り出す。まずい。
ダルインは剣を振りかぶり、すれ違いざまに子どもを斬る。剣の軌道上に敵がいて斬れた筈だった。気付いた時には刀身の先8割程が消えていた。
ダルインは慌てて振り返る。
「ガハッ!」
首を鷲掴みにされる。何という握力だ。視線をずらし皆を見る。しっかりと背を向け逃げているようで安心した。
「あー、勿論逃さないよ?」
子どもは首を掴んでいる腕とは反対の腕を持ち上げる。手のひらから先程のドロドロの液体が溢れ出す。手のひらから溢れた液体は地面に落ちることなく途中で消えた。
「ああああッ!!アヅイッ!焼けるッ!!」
すぐに遠くから叫び声が聞こえる。
そして、再び子どもの手のひらからドロドロの液体が溢れ出し溢れる。
「ああああああ!!!イダァァッ!!」
また遠くで叫び声が聞こえる。
こうして1人また1人、叫び声を上げていく。視線を向ければ逃げていた冒険者全員が煙を上げながら地面をのたうち回っていた。
「あと数十秒で溶けて死ぬ。どう?仲間を殺される気分は?」
子どもが角度を変えて冒険者達が見えやすいようにする。思わず歯を食いしばる。
「そうだよね〜。君達は復活できないんだもんね。」
子どもが無邪気に笑う。
「じゃあ、君も死のっか。」
子どもがそういった瞬間、ダルインの首を掴んでいた腕が切断された。
解放されたダルインは慌てて子どもから距離を取る。
「誰?僕の邪魔したの。」
子どもが視線を向ける先を見ると青年が立っていた。軽装備にナイフを持った青年は薄ら笑いを浮かべながらナイフを回す。
「いやー、そいつ殺されると面倒くさいんで。アレも使えて有望だし、実家太いし。」
青年は首をコキコキと鳴らすとカバンからポーションを取り出すと3本まとめて飲み干した。
「はぁー、結局仕事しないといけないのか。なんともまぁうまく行かないもんです。」
青年はダルインに視線を向けると手を降る。
「あ、初めまして。ダルイン君、アルカって言います。王都のギルドから派遣されて、今回の攻略を見届ける為に隠密で潜んでました。あ、一応Sランク冒険者やってます。」
ダルインは驚愕する。アルカといえば、この国で6人居るSランク冒険者のナンバー2。この国で2番目に強い人だ。
「ねー、話は済んだ?僕に殺される準備はいい?」
いつの間にか再生した腕を、ぷらぷらさせながら子どもが言う。
「いいよ、いつでも来な。」
アルカが答えると、子どもはアルカに向かって先程のドロドロの液体を大量放出する。
「繊細さに欠けるね。戦闘経験少ないだろ。」
いつの間にか子どもの背後に回ったアルカは、子どもの首を羽交い締めにする。
子どもがアルカの腕を掴む。
「あ、溶かそうとしてる?残念、今酸完全耐性持ってるから。」
諦めた子どもは自身の体を溶かして逃げようとする。
「逃さないよ。」
アルカが背中から子供の体身をナイフで一突き。見事にスライム系統特有のコアを一指しで貫いた。
子どもは溶かしかけていた身体のまま地面に倒れた。
「さて、ダルイン君。こいつはね、ディゾルヴアビスっていうスライムの最終形態だね。今の君じゃあ逆立ちしても勝てない、ナイス撤退判断だったよ。」
アルカがダルインに手を差し伸べて起き上がらせる。
ダルインは立ち上がると、地面に転がるのたうち回ったまま息絶えた冒険者達に視線をやる。
「気にしない事だ。迷宮では死ぬやつは死ぬ、生き残るやつは生き残る。ただそれだけだ。」
ダルインはもっと早く出てきてくれればみんな助かったのではないかと思ったが、口にする事はできなかった。
「さーて、サクッとこの迷宮の魔王を倒しちゃいますか。」
そう言うとアルカは迷宮の奥へと歩き出すのだった。




