05 ある日突然
父に肩車された娘が、手を伸ばし樹の実をもぐ。
「パパ、取れたよ!」
娘が取れた樹の実を父の顔の前に持ってくる。
「うん、虫食いもなくて良い実だ」
「やったー!」
そんな何気ない風景に、ふと視界の端で鳥たちが慌てて飛び立つ様子が目に入る。
気付いた時には娘は地面に落ちた。少し転がり、痛そうにお尻を擦りながら娘は起き上がる。
「パパ、ちゃんと持っててよー!」
娘がパパと呼び顔を上げたそこには、父の下半身だけが立っていた。上半身は娘と一緒に地面に落ちていた。
「…パパ?」
娘のか細い声により小さくつぶやかれる。
ドサリ。父の下半身も木の幹にぶつかるように倒れる。
「パパァ!!」
娘が駆け寄るが父の反応はない。じんわりと周囲に血が広がった。
「あ、ああああああーッ!!」
娘の声がこだました。
◇◇◇
冒険者ギルドに届いた急報により、その場にいたBランク冒険者チーム「森の誓い」は、魔物の襲撃を受けているという村に到着した。
周囲に広がる血の匂いに女魔法師は鼻を覆う。目の前に広がるのは綺麗な切り口で斬り刻まれた家屋と人。
「なんて酷い光景なの…」
「おい、あれを見てみろ」
男戦士が指さす方には、首がへし折れた状態で、糸で木々に吊るされた人々の姿があった。
「酷すぎる…」
吊るされた人々の方へ一歩踏み出した女魔法師の腕を男戦士が掴む。
「分かってると思うが、遺体の処理は後続の冒険者たちに任せるぞ。俺達はこれ以上被害が出ないように魔物のもとに向かう」
「…そうね」
女魔法師は吊るされた人々から顔を逸らす。逸らした視線の先で見つけてしまう。
見つけたら思わず走り出してしまう。
「おい!」
男戦士の静止も聞かず走り続ける。女魔法師の走り行く先にあるものを男戦士も見つけて走り出す。
倒れた家屋の前で、足を抱え込み座り、小さく震える少女がいた。
駆けつけた女魔法師が、自身のマントを少女へと覆いかける。
「君、大丈夫?」
少女の手にはべっとりと血が付いてた。
「パパがね…」
少女は抱き込んだ自身のももを強く握りしめ、震える声で話しだした。
「気付いたらね、2つになってたの。血が出ててね、動かなくなっちゃった」
思い出すようにつぶやいていく少女。
「パパをね、助けてもらおうと思って、村に戻ったの。そしたらね、私の知ってる村がないの。私のお家もないの」
少女の声が一層震える。視線の先には、倒壊した家屋の下から飛び出した女性の腕がある。
「ママも動かないの…」
なんの言葉もでない女魔法師は、少女を黙って抱きしめた。女魔法師の頬に涙が伝う。
「ごめんねぇ!ごめんねぇ!間に合わなかった!私達間に合わなかったッ!ごめんねッ!」
女魔法師の言葉に、少女は何も返さなかった。
◇◇◇
マリッサの街の冒険者ギルドでは慌ただしく人が集まっていた。
「迷宮の大暴走なんて何十年ぶりだよ」
「しかもできたての迷宮が迷宮の大暴走を起こすなんて聞いたことねーよ」
ここに居るのは、マリッサの冒険者ギルド所属のギルドマスター含めた重鎮と、主要な冒険者チームのリーダー達だ。
昼間の報告から迷宮の大暴走で出てきた魔物が迷宮に戻った事が分かったため、こうして街に戻り、ギルドで今後の対応策を話し合っていた。
「逃げ延びた村人の証言から、バインドグモとリッパーファルコンであると分かっている」
「あの迷宮で稀に徘徊していた魔物だな」
「決して強い魔物ではないが、あの迷宮は必ず攻略しなければならない」
「そこでだ、隣町のAランク冒険者チームに依頼を出した。この街の最高戦力であるBランク冒険者3チームと合わせて4チームで迷宮攻略を行う!」
ギルドマスターの言葉に歓声が上がる。
「攻略は3日後!あの迷宮を全力で叩き潰す!」
「「「おうッ!!」」」
彼らは知らない。魔物達が更なる化物に進化したことを。
◇◇◇
迷宮の大暴走から3日後。木の幹に空いた穴が入口になっている迷宮の入り口前、冒険者4チームが集っていた。
「私は隣町のAランク冒険者チーム『夕暮れ』のリーダー、ダルイン・スココビだ。ここまでの道中で君達の意気込みは伝わった。我ら夕暮れも全力で力を貸そう。共にこの迷宮を攻略しようではないか!」
「「「おおおおーー!!」」」
ダルインは剣を掲げ指揮を上げる。
冒険者達は迷宮に入っていく。中は木の幹に穴が空いたような通路が、奥まで広がっている。ギルドでもらった地図を見ながら、迷宮の奥へと進んでいく。
特に地図と差はなく、迷宮内が迷宮の大暴走後から変化していないことが分かる。迷宮の大暴走後はよく迷宮が大きく変化すると言われるため、少し警戒していたが大丈夫だったようだ。
地図の記載のある最奥の場所に到着した。事前情報ではここにコーロシブジェルが酸の霧を発生させながら立ち塞がっているとの事だが居ないらしい。
ダルインは少し考えを巡らして指示を出す。
「1チームはここで待機しておいてくれ。私達の退路の確保を頼む」
「分かりました。俺のチームが待機しておきます」
コーロシブジェルがここで隠れていたり、ここよりもっと手前の分岐の先に居た時のために、1チーム残す事にする。
複数チームでの攻略はこういう柔軟な対応ができるからありがたい。
3チームで迷宮の奥へと進み、再び広い空間へと出た。
壁には無数に空けられた窪みにホウホウが入っている。ざっと200程いるだろうか。
問題なのは目の前の塔のように聳え立つ、岩のてっぺんにいる魔物だ。
「あれは、デスレイヴンか。進化してやがる」
事前情報では迷宮の大暴走で出てきてたのはリッパーファルコンだったはず。
デスレイヴンが黒い翼を三日月状に広げ奇声を上げる。
「キョエエーーー!!!」
周囲に黒いオーラが広がった。
「それぞれ迎撃耐性を整えろ!空からの攻撃に備えるんだ!」
ダルインが叫ぶ。
しかし一向に攻撃が飛んでこない。
「ホーホー」
1体のホウホウが鳴き声をあげる。そして飛び上がる。
「ホーホー」
「ホーホー」
「ホーホー」
続くようにして次々に鳴き声をあげて飛び上がる。
ホウホウは聳え立つ塔の周りを飛び回る。そしていきなり一斉に降下し襲いかかってきた。
ホウホウ自体は弱い魔物である。しかしこの数で襲われては対処しきれない。周りを見ても数匹のホウホウに襲われて、無茶苦茶に武器を振り回す事しかできない者たちばかりだ。
そんな混乱状態の中、ドゴンと大きな音が響く。一瞬で降下してきたデスレイヴンにより、1人の冒険者が真っ二つに切り裂かれていた。
まずい、このままでは各個撃破されるだけだ。
「総員しゃがめッ!!」
私は声を張り上げる。声に反応するように冒険者達が地面にしゃがみ込む、ただ1人を除いては。
Aランク冒険者チーム『夕暮れ』の魔法師ユズハ。彼女は範囲攻撃を得意とする。
「雷鳴、サンダーストーム!」
ユズハの雷魔法が炸裂する。大方のホウホウが一撃で感電死した。後の数匹のホウホウは、立ち上がった冒険者達によりすぐさま倒された。
「後はデスレイヴン、やつだけだ」
デスレイヴンは個としての強さはそこまでだ。但し、敵は空中にいるこちらの攻撃は届きにくい。
「チーム夕暮れ!フォーメーションFだ!」
ダルインの掛け声により、夕暮れのメンバーが動き出す。
魔法師のユズハ、狩人のカイが遠距離攻撃によりデスレイヴンの位置を誘導する。ダルインはタンクであるモクモのもとへ走る。モクモは盾を捨て両手を下に構えている。
走り込んできたダルインがモクモの手に足をかける。モクモはタイミングよく、ダルインをデスレイヴンに向かって投げ飛ばす。
「ナイスショットだ!来たぞデスレイヴン!」
ダルインが振り上げた剣はデスレイヴンの爪により止められる。
「残念、こっちは囮だ」
下で力をためていた剣士リリアナ。彼女が抜刀する。飛ぶ斬撃。レアなスキルだが、それを彼女は習得していた。
飛んでいった斬撃はデスレイヴンの羽に見事に炸裂する。飛べなくなったデスレイヴンが落ちていく。
「ただ落ちるだけだと思うなよ?」
ダルインは爪で止められていた剣を手放すと拳を振りかぶる。
「ハアア!ハード、インパクト!」
繰り出された拳は衝撃波を生み出し、デスレイヴンを勢い良く地面に叩きつけた。
落ちてきたデスレイヴンは、地面にいた冒険者達に袋叩きに合うのだった。




