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迷宮魔王クルエルシード  作者: 海老天ころも
第3章 国落とし
29/33

29 投票


 ホラフラフ共和国にある首都ゴルバデ。ここにはかつて王家が住んでいた立派な王城が聳え立っている。今は五人議会が管理し、官僚たちが働く場所だ。そして年に一度、五人議会の信任投票のため、国内のすべての市長がこの王城へとやってくる。


 前市長が集まり、最初に信任投票が行われ、全会一致で信任される。形骸化された投票を終えれば、五人議会が用意したパーティーを三日三晩かけて楽しむのが、恒例となっている。


 オルフレンの市長であるカスノフ・モブスキーは、王城内で自身に与えられた部屋で、3人の女性を眺めながら悦に入る。


 絶望した表情で俯き恥ずかしそうに局部を隠す3人の若い女性の首には、金属の首輪がついており奴隷であると分かる。


 カスノフはもうすぐ開かれる投票のため、使用人達の手により正装に着替えさせられていた。カスノフの着替えは、よく肥えた身体により、非常に時間がかかる。特に正装のようなタイトな服装は、身体の各所にある余りある脂肪を何とか服に仕舞い込むために、使用人たちが格闘するため時間を要する。


 その時間を潰すため、カスノフは新しく買った奴隷たちを視姦していた。既に彼女たちとの夜を妄想し、カスノフのソレは戦闘態勢へと移行していたが、脂肪に埋もれてしまったソレに使用人たちが気付く様子はない。


 カスノフには妻が居るが、その体型のせいか相手をしてくれる事はない。だから、投票の時期になると早めにオルフレンを出立すると、首都までの道中の街で奴隷を買い、首都につけば奴隷相手に発散し、オルフレンに帰るまでに二束三文で売る。これを毎年の楽しみとしていたのだった。


 カスノフはルミナリス教の熱心な信徒であるが、人族の奴隷は禁止、一夫一妻制で不倫や浮気は禁止とするルミナリス教の教えを都合の良いように解釈する。人族の奴隷は禁止なのだから、人族で奴隷になっているものは人族ではない。そして、奴隷相手であれば浮気ではなく、獣と戯れているだけ。そう都合よく解釈し、毎年の肉欲を謳歌していた。


 だが、それはカスノフだけではない。ルミナリス教を国教としながらも、マフィアが蔓延り人族の奴隷が平気で売買されるホラフラフ共和国では、よくある解釈だった。


「終わりました、旦那様」


 使用人の声掛けにより、淫欲な妄想から引き戻される。どうやら着替えが終わったらしい。


「よし、では行ってくる」


 そう言って名残惜しそうに奴隷たちを横目で見ながら、カスノフは部屋から出たのだった。


 王城内の大広間には既に多くの市長が集まっていた。入り口と反対の奥には、既に五人議会の議員が着席している。


 カスノフは入ってすぐにあった受付で、投票用紙を貰い席を教えて貰う。教えて貰ったテーブルに行くと5人席だが、既にカスノフ以外は揃っているようだった。軽く挨拶を済ませ席に座る。体重により椅子が軋むが壊れはしない。


 楽しくも無い雑談をしていれば、後ろで扉が閉まる音がした。前の五人議会の議員が立ち上がる。


「市長の皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。早速ではありますが、五人議会の信任投票を始めたいと思います」


 議員の言葉に、カスノフはこれから5人の無駄に長い決意表明を聞くことになると思い、思わず出てしまうあくびをかみ殺す。だが予想に反して始まったのは、国家体制改革の宣言であった。各テーブルには宣言文が配られる。


『ホラフラフ共和国 国家体制刷新に関する宣言書

我らホラフラフ共和国の永続的な繁栄と安寧を担保するため、現行の五人議会制度が抱える意思決定の遅滞、および諸都市における統治の不均衡を是正することは、今や一刻の猶予も許されぬ国家の急務である。

ここに、各都市を代表する市長各位の信任を仰ぎ、建国以来の大改革として、国家の最高意思決定機関および諸都市の統治制度を以下のように刷新することを宣言する。


第一条(五人議会の廃止および最高執政官への全権委任)

現行の合議制による「五人議会」を本日をもって解散・廃止とする。これに代わり、国家の司法・行政・立法のすべてを包括する一元的な最高権力機関として「最高執政官」の役職を新設する。国家の全権は本役職に一任され、迅速かつ強力な指導力をもって国政全般を運営するものとする。


第二条(市長制の廃止および中央派遣執政官による統治)

各都市における従来の「市長」による自治権および統治制度を廃止する。今後は、国家の最高執政官が直接指名し、中央より派遣された「執政官」が各都市の民政・治安・徴税の全権を預かり、統治を行うものとする。これにより、全土における法と正義の均一な執行を実現するものとする。』


 五人議会の議員により読み上げられた文章は、甘い蜜を吸ってきた市長から全てを取り上げるようなものであり、到底受け入れる事ができないものであった。


「以上宣言を本日の五人議会信任投票の結果を持って、正式に採択いたします。それでは、例年どおり信任の場合は〇を、不信任の場合は×を記載し投票してください」


 カスノフはすぐさまペンを取り、投票用紙に×書こうとする。だが気付いた時には〇を書いていた。取り消し線を書こうとするが体が動かない。周りを見るが同じように投票用紙に〇を書いている。慌てて声を出そうとしても、喉も口も動かない。全身が自分の身体ではないようだった。


 カスノフの身体は勝手に動き、記入した投票用紙を手に持つと席を立つ。いつもではあり得ない事だが、投票箱に向かって市長たちが綺麗に整列している。カスノフはその列の最後尾に並ぶ。


 列は順序良く進んでいきすぐに自身の投票する番になった。投票箱の所には、見知らぬ女性が立っていた。とても美しく大人の魅力に溢れていた。そんな風にカスノフが見とれている間に、身体は投票箱に投票用紙を入れ、自席へと帰っていく。


 全員が投票を終えると開票される。その状況をすべての市長が一言も言葉を発する事無く見守った。


「それでは信任投票の結果、全会一致で本宣言を正式に採択いたしました」


 五人議会の議員が開票を終え、そう宣言する。この内容で全会一致で信任なんてあり得ない。カスノフは自分を含め全ての市長が、何かしらによって体を操られていると悟る。


「早速ですが、五人議会の最後の仕事として、最高執政官としてラクネを指名します」


 指名されたのは、投票箱の場所に居た女性だった。彼女は登壇すると、口を開く。


「改めまして、私はラクネと申します。私は全都市の市長各位の”完全なる全会一致”の支持を受け、本日ただいまをもって初代最高執政官に就任いたしました」


 こうして、ラクネと自称した女性の就任演説が始まった。


 その間に市長のテーブルには紙が配られる。またも勝手に身体が動き始め、ペンを握ると手紙を書き始める。その内容は褒美がもらえるとか言って、家族全員を首都であるここに来るように呼び掛ける内容であった。身体が勝手に動き書かれた手紙だが、その筆跡は間違いなく自分のものだった。この手紙が届けば、家族が疑うことはないだろう。


 カスノフは今何が起きているのか分からなかったが、今この時をもって甘い汁をすする日々に終わりが来たことを悟った。


 せめて、今年買った3人の奴隷をここに来るまでに、手を出しておけばよかったと、どうしようもない後悔をするカスノフであった。


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