28 偽装魔王
数日後、今回の迷宮の出現場所が分かった。ここはエンパティノ王国の王都エンジェの近くらしい。この王都エンジェには、世界中の冒険者ギルドの元締めである冒険者ギルド総本部があるらしく、なんとも運の無い場所に転生したものかと嘆く。
だが予定どおり、資源豊富な迷宮を装えば、攻略はされないはず。ただ問題なのは拷問した冒険者が言っていた情報で、クルエルシードの名と共に人型の魔王が転生している事が世界に宣伝されたことで、新しく出来た迷宮は必ず迷宮の最奥に行き魔王の姿が人型でない事を、確認するようになっているとのこと。
その為、魔王を偽装する必要があるだろう。迷宮調査の冒険者が来た時には、私は能力を使って迷宮外に脱出し、最奥の部屋にはレイドが待ち構えているようにしよう。レイドは大型の鳥の魔物なので、クルエルシードと疑われることはない。あとはレイドを倒しても魔核を落とす訳ではないため、魔王ではないとバレる可能性がある。だが、迷宮の最奥まで進み魔王と思われる魔物を見つけた時に、有益な迷宮が消えるリスクを背負ってまで、倒すという判断にならないと思うので大丈夫だろう。
それから、数時間前にアビスにはとある街に酸の雨を降らしてもらった。これにより得たポイントで新しい2体の魔物を最終進化まで進化させることが出来た。
1体目は前回の迷宮でお気に入り登録したプチオクト。この魔物を進化させ、最終進化であるノーデンステンタクルとなった。初期の名前はクル宮だったところをノーデンと名付けた。
ノーデンは人型の姿だが、顔はほぼタコだ。ファンタスクと似たような感じだが、リスの頭を持つ可愛いファンタスクと異なり、ノーデンの見た目は正直気持ち悪く悍ましい。まぁ魔王の配下として相応しいのはノーデンなのだろうが、見慣れるまで時間がかかりそうだ。
2体目は今回の迷宮でお気に入り登録したウィルエッジ。この魔物を進化させ、最終進化であるグランレギオニカとなった。初期の名前はレギ山だったところをグランと名付けた。
グランは見た目は黒色の全身鎧だ。鎧のバイザーを上げれば人の顔が見えるようになっているが、鎧は体の一部であり脱げはしないようだ。弱くはなるが、自身の影から何千もの分身を生み出せるらしい。
2人にもアビスとレイドと同じように操気術の習得に集中してもらおう。
2人を最終進化まで進化させレベル60までレベルアップさせた後の、残りポイントは迷宮の改造に使った。資源系ギミックを配置して有益な迷宮として作り変えるのも勿論、私やニネ、配下たちの部屋も作った。国落としが完了するまでは、迷宮内に部屋も必要だろうと思ったからだ。
「ねぇ、魔王どうかな?」
私の部屋に入ってきたニネが自身の格好を見せる。いつまでも海賊の格好だったニネに、魔王として生成できる装備の中から、カジュアルなものを幾つか生成して渡していたのだ。
どうやら着替えたのでそれを見せに来たらしい。
ゆとりのある白い長袖のブラウスは、彼女の赤い髪を映えさせる。その上から身に着けた、革のベストは胸元を引き締めつつ、金色の装飾がアクセントになっている。ベストと同系色のプリーツスカートから、彼女の健康的な脚が見える。
「とても似合っているよ。髪も少し切ったのか?」
私は素直な感想をニネに伝える。
「そうなの、ファンタスクさんに少し整えてもらったの」
ファンタスクが切ったのか。なかなか器用なのだな。私の髪も結構伸びてきてるし、今度お願いするとしよう。
「魔王は髪型どんなのが好きなの?」
ニネの質問に、思わず考え込んでしまう。個人的には髪型は長めの方が好きだ。だが、目の前のニネは海賊をやっていたからか、髪は短い。
別に髪型だけで人を判断する訳では無いため、ニネに要らぬ誤解を与え兼ねないかと、思考を巡らせるが結局素直に口にすることに。
「どちらかと言うと長めが好きだな」
私の言葉にニネは特にショックを受けた様子はない。
「へぇ~、長めが好きなんだぁ。私もう海に出ることも無いだろうし、伸ばしてみようかな」
ニネはそう言って自身の髪を触るのだった。
「そろそろ私もラクネ達と合流するよ」
迷宮の改造も終わり、ひと段落したため、いよいよ国落としの作戦に私も参加する。まぁ基本的に私がやる事なんてないのだが。
「私も一緒に行きたいけど…」
「危険かもしれないからね、待っていてくれると嬉しいな」
「分かったわ」
シュンとしたニネの頭を撫でる。あんまりこういう事は、し慣れていないのだが、ニネがやってほしいというので最近やるようになった。
「どうせ毎日帰ってくるから」
そう声を掛けるがニネの寂しそうな表情は変わらない。仕方なく彼女を優しく抱きしめる。
モテる男のテンプレをやっているようで恥ずかしく、自分自身に嫌悪感を感じてしまうが、好意を抱かれた経験も無い私ではこんな対応しか思いつかない。
実際にはニネは私を好きと好意を示してくれた訳だが、それを受け入れたとしてもそれに答える事はできない。私は魔王で寿命もなく、死んでも転生する。老けることもなく、三大欲求も無い。私がニネに出来ることは、彼女が老けていき安らかに息を引き取るその日まで、彼女の傍らで寄り添い続ける事だけだ。
私はニネを離すと、迷宮裏口を開く。
「では、行ってくる」
「いってらっしゃい」
そう声を掛け合い、私は扉を開き入るのだった。
さて、国落としを行うホラフラフ共和国とはどんな国なのか。ラクネの報告を元に私の認識するこの国について整理する。
元々はホラフラフ王国は、王家と貴族による封建制という諸外国と変わらない国家であった。だが一部貴族と商人が結託し、クーデターを起こしできたのがホラフラフ共和国である。ホラフラフ共和国では貴族制を廃止し、各都市と周辺地域を市長が統治し、全市長による信任により選ばれた5人による、”五人議会”の合議制により国家の運営を行うようになった。
しかしながら、ホラフラフ共和国の現状は酷いものであった。五人議会は信任を得るため、国家として各都市の統治に干渉しようとせず、対外的に国家としての体裁を整える事に従事している。各都市の市長は法外な活動を行うために、マフィアと結びつき暴利をむさぼっている。市長は検問の免除や公式書類の発行など公的な立場からマフィアを支援し、マフィアは違法ビジネスの利益を上納する。更には、マフィアは、都市内での治安維持や、みかじめ料を始めとした法的根拠のない実質的な地方税の徴収までも行い、市長の怠慢による行政の不足をマフィアが補っている状態となっている。
マフィアは、支配者層である市長との仲介役や、市民間でのトラブルを仲裁する裁判官役、仕事の斡旋や資金の融通など、市民にとっても必要なものとなっていた。そのため、違法な存在でありながら市民からは市長よりも信頼され、国家や法が機能しない場所で、代わりに秩序と保護を提供する存在となっていた。
このマフィアをラクネが支配し統一したことで、もはやその上でふんぞり返り私利私欲で暴利をむさぼる奴等は不要となった。だが、一応表の存在である以上、処理の仕方にも工夫が必要だ。でなければ他国に付け込まれる。実際にホラフラフ共和国が建国されたクーデターの際には、多くの国土を周辺諸国に奪われたようだ。
こうして、考えたのが今回の作戦である。ラクネの能力あってのものだが、合法的にこの国を乗っ取り、無能な連中を一掃できる。先にマフィアを抑えていることで、国家として綻びも出させず、他国に付け入る隙も与えない。
迷宮裏口の扉を開けて入った先では、ラクネが待っていた。
「お待ちしておりました、魔王様」
ラクネの居た部屋の中央には、大きな円卓がある。円卓には5脚の椅子とそれぞれ人が座っていた。座っている人間は、金縛りにあったように微動だにしない。首あたりに一本の糸が繋がっており、その糸はラクネの指へと伸びている。
「彼らが五人議会の議員たちか」
「そのとおりでございます。そして2週間後には国内の市長が投票のため、ここ首都に集まります」
「そうか」
2週間後か。2週間後には、ホラフラフ共和国は生まれ変わる。




