27 名付け
コホン。
配下の前でした恥ずかしさを、搔き消すように咳ばらいをすると、ニネが来る前に話そうとしていた事を話す。
「そう、前々から考えていたことだが、配下の皆には正式な名前を考えようと思う」
「え、じゃあ配下の皆さんを呼んでた名前って…」
「あれは、魔物を召喚したときに最初から付いてる名前だ」
疑問を口にしたニネに答える。
「そーだったんだ。てっきり魔王の命名センスが致命的なのかと…」
ニネに言われ押し黙る。命名センスが無いのは事実。だから配下にも命名せずに初期の名前のままやってきた。進化するし、今命名してもと、言い訳してやってきたが最終進化した魔物が揃ってきたため、いよいよ命名した方が良いかなと前から考えていたのだ。
とは言え命名センスが無いのは自覚しているため、最終進化先の魔物の種族名をもじった名前を考えてきている。
「では、今から命名式を行う」
私はシステム画面から魔物のステータスを表示する。そこにある名前欄を書き換えていく。
「まずはアビ吉。アビ吉には、”アビス”の名を与える」
「アビ吉はアビス。分かりました!」
「レイ川は、”レイド”の名を与える」
「はっ、ありがたき幸せ」
「アラ村は、”ラクネ”の名を与える」
「感謝いたしますわ、魔王様」
「ラタ次郎は、”ファンタスク”の名を与える」
「喜んでその名を拝命いたします」
「モル倉は、”モルガ”の名を与える」
「魔王様自ら私の名を考えていただけるなんて、無上の喜びです!」
種族名をもじっただけだが、前の名前よりは良いだろう。それから前回と今回お気に入り登録した魔物2体は、また最終進化したら名前を考えよう。
「さて、名も新たに私たちは”国落とし”を行う」
私の言葉に配下たちが、膝をつき頭を垂れる。特に異論はないようだ。
私はニネの方を向く。彼女にも説明が必要だろう。
「ニネ、私は私の平穏のために、私に都合の良い国を作る。まさに魔王の所業だろうが、幻滅したか?」
ニネは首を振ると、優しく私を包み込む。
「私は魔王が居ればそれでいい。確認なんて取らなくていいよ、私はついていくから」
彼女に何を見込まれているのか分からないが、ニネが良いと言うのなら私に迷いはない。セドクは言った、「人類の未来などどうでもいい、ワシはワシが守りたいものが守れればそれでいい」と。それは私も同じだ。
「ファンタスクは情報収集を、ラクネとモルガには私と共に国落としを行ってもらう。アビスとレイドは操気術の習得に励むように」
アビスとレイドはまだ操気術を習得できていない。まずは気を感じれるようになり、四法のやり方を習得してもらう。あとは日々の訓練により練度を高めてもらうしかない。
私の言葉にモルガが顔を上げる。恐らく何か言いたい事があるのだろう。
「どうしたモルガ?」
「魔王様も国落としのため出られるのでしょうか?」
「そうだ」
「…私は反対でございます」
モルガの言葉に配下たちに緊張が走る。モルガに怒っているような雰囲気だ。
「魔王様に危険が及びます故、迷宮から出られない方が良いかと」
「我らは魔王様の御心のままに、ですぞ」
モルガの進言に、レイドがあくまで落ち着いた言葉でモルガを窘める。
私の配下は基本的に私の命令に盲目的に従う。進化する前に盲目的に従っていたように、進化して知性を持ったとしても変わらない。その代表格がレイドである。レイドは、すべて魔王様に従う、自身の意見など必要ないというスタンスだ。アビスは何も考えていなさそうだが、ラクネとファンタスクは何か考えていても、こちらから意見を求めない限り進言することはない。
だがモルガは、こちらが求めてなくても積極的に進言してくる。だがそれは全て私を想っての発言であることは分かる。そのモルガのスタンスは、盲目的に従う他配下からすると良くない事に映っているのだろう。だが忠言してくれる存在は貴重であり、蔑ろにすべきではない。
私は敢えて配下達の前に膝をつく。顔を上げた配下達の顔を見渡し、言葉をかける。
「私の命令に黙って従ってくれるレイドの忠誠も、私の身を案じ反対意見を言ってくれたモルガの忠誠も、どちらにも感謝する」
これでどちらの忠義のスタンスも受け入れた事を表明できた。私はモルガに向き直る。
「モルガ、すまないが今回は意思を曲げることはできない」
「いえ、私に謝罪など不要でございます」
「そうか。それに、私も操気術を習得し、ある程度身を守れる。そして、いざという時は私を守ってくれるのだろう?」
「はっ!命を賭してお守り致します!」
あんまりこう言う上に立つような立ち回りは得意ではないのだが、配下の中で分断が起きるのも良くないだろう。
私は立ち上がる。正直、国落としに参加するのは、折角迷宮の外に出られるようになったので、迷宮の外を楽しみたいという、単なる私の我儘だったりする。本当はモルガの言うとおり、迷宮に籠り配下達に支持を出して全てやってもらうのが、安全で危険がないだろう。もし死んだら終わりの世界であれば、そう言う選択をしたかもしれないが、死んでも転生できるならどうしても興味関心を優先してしまう。だが、彼女は…。
私はニネを見る。ニネは私や私の配下と違い、死ねば終わり。その場で動かない肉塊となり二度と話すことも出来なくなる。正直、モルガが私を想い進言したように、私はニネを自身の迷宮に閉じ込め守り続けたい。だが、この迷宮は安全ではない。いつ強者が現れ迷宮を攻略してしまうか分からない。今回の国落としで都合の良い国を手に入れば、彼女を迷宮外で守る事が容易になる。それだけでも、今回の国落としは大きな意味がある。
「それじゃあみんな、”国落とし”だ」
私の掛け声と共に配下が立ち上がり動き出す。
今回の国落としは、前回の迷宮でホラフラフ共和国に潜入していたラクネの報告を聞いていくうちに、私が考えた作戦だ。作戦詳細はラクネに補完してもらったため、ラクネが居れば作戦の実行については問題ないだろう。
さて、私は魔王としての仕事をしなければならない。今回の迷宮が攻略されないようにする作業を行わないといけない。レイドに指示を出し、迷宮外に出てもらい迷宮の出現場所の確認をしてもらう。これで周辺地理は分かるだろうが、ここが何処か何という国の何という街の近くにあるのかは、やってきた冒険者を捕らえて拷問して聞き出すしかないだろう。
漸くというべきか、今回の迷宮は”鉱坑の迷宮”である。今回の迷宮は床、天井、壁から鉄鉱石を採掘できるため、人類にとっては貴重な迷宮になった。今回、金属資源系の迷宮を経験したことで、鉱床系ギミックを開発できるようになった。これ以降は鉱床系ギミックを迷宮内に配置できるになり、冒険者に迷宮が攻略されづらくなるだろう。
資源系のギミックは特定の迷宮環境を経験することで、最初のギミックがロック解除される。そして、最初のギミックを設置し達成できる条件によって、同系統の資源系ギミックがロック解除される仕組みなのだ。前回設置した湧水と薬草群生地を海賊がかなり利用してくれたおかげで、いくつか湧水系ギミックと群生地系ギミックがロック解除された。
これらも設置すれば、鉄鉱石だけじゃない、かなりの資源が採れる迷宮になるはずだ。7回目にして、ようやく攻略されない迷宮を作れそうだ。




