24 リベンジ
ダルインはアビ吉を誘い皆から引き離すと、階段を上って塔の一つ上の上階へと登ってきた。
「まさかこんな所で会えるとはな」
ダルインのセリフにアビ吉は頭を傾ける。
「えーと、誰だっけ?」
「ふん、忘れたか。だが私は覚えているぞ。私の首を鷲掴み、仲間を殺した、お前の顔を」
ダルインは酸耐性ポーションを3本取り出すと勢いよく飲み干した。これでアビ吉の酸攻撃は無効となった。
ダルインは錬身で強化すると、アビ吉に向かって走る。アビ吉が右手を翳し、酸の液体が放出される。ダルインは避けることなく突き進む、酸を被り防具や服が煙を上げて溶け始めるが、身体は溶けない。
「ハアッ!」
ダルインが切り上げるようにして振るった剣が、アビ吉の右腕を切り飛ばす。本来ならばアビ吉の身体に触れた瞬間に剣は溶かされるが、包武により気を纏った剣は瞬間的な接触であれば、溶かされずに斬ることができた。
「あれ、なんで溶けないの?」
ダルインは斬り上げた剣を再度振るい、疑問を口にしたアビ吉の首を斬り飛ばす。アビ吉の頭が地面に落ちる。熟した果物が地面に落ちたようにグシャリと歪むと、粘体に変化する。地面を這ってアビ吉の脚にくっ付くと吸収される。斬られた首の断面が盛り上がり頭が生えてくる。同じようにして右腕も再生した。
アルカがやったようにスライムのコアを壊さなければ、倒せなさそうだとダルインは考える。
「斬られるんだね。もしかしてそれが気?」
気を口にしたことにダルインが驚く。
「まだ僕習ってないからな~。どうしようかな…」
無防備に悩み始めたアビ吉を前にして、ダルインは感探を使いコアの位置を探る。気の流れが集中するところ、恐らく腹辺りにある。そこに向かって再び剣を振り、胴を真っ二つにする。
アビ吉の上半身がゆっくりと後ろに倒れる。だが死んでいない。再度、感探をす使うとコアが右腿あたりに移動している。斬られる寸前に移動したらしい。
ダルインは苦手な感探を維持したまま、包武と錬身を使うことがまだできなかった。今度は右腿にあるはずのコアに向かって剣を振る。アビ吉の右脚が斬られ下半身も倒れる。
「よし決めた、僕も気を使えるようになろう」
倒れていたアビ吉がそう言うと身体が粘体に戻る。粘体は蛇のようになり、ダルインの四肢と体に巻き付いた。
「クソッ!動けない…」
アビ吉によりすごい力で拘束され、ダルインは動けなくなった。
「強い気に触れ続ければ気を使えるようになるんでしょ?魔王様が言ってたよ」
ダルインの耳元でアビ吉が囁く。魔物が気を使えるようになるなんてあってはならない事だとダルインは思うが、今包武と錬身を解除すればダルインのステータスでは絞殺されてしまう。
十数分の拘束が続き、ダルインの包武と錬身の持続時間も限界に近づいたころ。
「あ!もしかしてこれが気!?感じるよ!」
突如アビ吉が声を出す。この短時間で気を感じれられるようなったとは信じられないダルイン。
だがどちらにしても包武と錬身をし続ける限界だった。ダルインの包武と錬身が解ける。そのまま絞殺されるかと思った瞬間、アビ吉の力が弱まりそのままアビ吉の蛇のようになった体が地面にドサリと落ちる。
「…死んだ?」
アビ吉を見ると一つの短剣が突き刺さっており、短剣は見事にコアを突き刺していた。
「ギリギリまで手出すの止めてたんだけど…余計なお世話でした?」
声の方を見ると染無で潜伏していたらしい、アルムが居た。
「いや、助かりました」
お礼を言ってダルインは膝をつく。本当に限界であった。だが、同じ相手に再度負けて再び助けられてしまった。ダルインは自身の無力感に強く拳を握りこむのだった。
◇◇◇
レスは重圧の魔人を発現させる。魔人が手を翳せばキャスタックを凄い力で引き寄せる。だがその力はすぐに無くなった。魔人が消えたからだ。
代わりにレスの右肩に猫が現れた。
「なんだこいつ…」
レスが猫を退かすため手を伸ばすが、肩に乗る猫はすり抜けてしまう。
「そいつは私の心象宝具、居座る猫。取り憑いた相手の心象宝具を封じる、貴様はもう魔人を呼び出せないわ」
レスがキャスタックに向かって走り出す。レスの間合いに入る刹那、キャスタックが飛び出したかと思うと、レスに右脚の蹴りを放っていた。レスが吹っ飛んでいく。
キャスタックの居座る猫の能力は、対象の心象宝具を封じる事ができる。そして、キャスタックの気の性質は肉体放出系である。常時、包武・錬身・感探を高練度で使いこなし、肉弾戦闘では敵なし。そのため、対操気術使いにおいて無類の力を発揮する。
起き上がったレスは限界まで錬身で、肉体を強化する。凄まじい速度で飛び出したレスを、キャスタックの右拳が襲う。
「かなりの練度の錬身を使うね。だがそれだけじゃ駄目」
キャスタックが言うとおり、錬身で肉体性能を何倍に高めようと、感探により感覚能力を高めなければ、上手く肉体性能を戦闘に発揮できない。
それでも、レスは立ち上がる。レスが背負うのは海賊団、継ぐのはセドクの意思。強い思いは気を増幅させる。限界を超えた錬身が筋肉を痛めつける。
「それ以上は…」
キャスタックが言葉を言い切る前にレスの姿が消える。瞬時にキャスタックは上体を大きく反らす。キャスタックの顔があったところを、レスの飛び蹴りが通過する。レスはそのまま砂の塔の壁に激突する。
キャスタックが気合を入れなおす。貴重な操気術の使い手だ、どうにかしてクレエドに引き込みたい。そんな思いから手加減していたが、早期決着を着けなければ、レスの身体が持たない。
再度、レスの姿が消える。避けられると悟ったレスは両手を広げ、タックルするようにキャスタックにぶつかった。
そのまま壁にぶつかり砂煙上げた先で、レスはキャスタックの腰を抱え込んでいた。
「こいつ、放せ…」
キャスタックの力では、レスの限界を超えた錬身による拘束は解けない。そのままレスは自身の体を後ろへ反らせて、キャスタックを頭から床に叩きつける。
砂の塔の床が崩れ、キャスタックはそのまま落下するが、無事であった。
「あぶないね…床が砂じゃなかったらやばかったよ」
落下したキャスタックは首を撫でながら、落ちた穴から上に戻る。上ではレスがブリッジしたような体勢で気絶していた。キャスタックはレスの腹を踏みつけ、反らされた体を水平に寝かせる。
「たく、随分暴れたね」
目の前のレスの、全身の筋肉はかなり破壊されている事だろう。まだ戦う気だっただろうが、もはや体の限界で、意識が無くなったと思われる。
◇◇◇
ラタ次郎はハルハラに勝てない事を瞬時に悟り、自身の使命をなるべく長い間ハルハラを引き付けることを目的に切り替えていた。ひたすら瞬間移動でハルハラの攻撃を避け続け、逃げ回っていた。
ハルハラは心象宝具のすべての砂を使ってしまっていた砂の塔から、柱を残し壁の砂を手元に持ってくると、その砂を使って戦っていた。
既に砂の塔からは脱し、どこまでも逃げていくラタ次郎を、ハルハラが追いかけ続ける。砂の槍や剣が空を舞い、ラタ次郎の身体に迫る瞬間、ラタ次郎は消え、別の場所に姿を現す。
そんな戦いを数十分続けた頃、ラタ次郎が消えたが一向にどこにも姿を現さない。
「まずい!」
ハルハラは瞬時に察する。ラタ次郎はハルハラを遠くに引き離し、砂の塔に戻ったのだと。
すぐさま、ハルハラは砂の塔に引き返すのだった。




