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迷宮魔王クルエルシード  作者: 海老天ころも
第2章 海賊決戦
23/33

23 激突


 この日、海賊島のとある島に砂の塔が聳え立った。


 ハルハラ達は作戦どおり、海賊島の1つの島を襲撃し占拠すると、ハルハラの能力で高く聳え立つ砂の塔を建てたのだった。


「砂の塔?…やつだ、船長を殺したアイツだ」


 レイ川の偵察により得た情報を、アビ吉経由で伝えられたレスはすぐに動き出す。海賊達を集めると出港の準備を始める。


「ニネ、レスが戦う気だ」

「…私も行く」


 覚悟を決めたようにニネが立ち上がる。ニネは荷物をまとめ腰に剣を差す。


「モル倉、ラタ次郎、ニネに協力し助けてやってくれ」

「魔王様の命令とあらば喜んでやりましょう」

「ああ、ようやく魔王様の為に働けるのですね!なんたる喜び!」


 2人共ある程度、操気術を使えるようになったので、敵がSランク冒険者だとしても活躍できるだろう。


 ニネはモル倉とラタ次郎を連れて久しぶりに迷宮の外へと出ていった。


 レスとニネが合流し船が出発する。主要メンバーで言えば、レス、ニネ、アビ吉、モル倉、ラタ次郎だ。レイ川は空から全体を見る役目だ。


 数時間も海を進めば、砂の塔が聳え立つ島が見えてくる。


 甲板にいたモル倉が飛び上がると、全身の魔力を解き放つ。超級光魔法が砂の塔目掛けて飛んでいく。既にモル倉は習得し、唯一磨いてきた感探で敵の位置は把握できている。だが、光魔法は砂の塔に大きな風穴を空けたが、敵の存在数は減っていないため倒せなかったらしい。


 逆に砂の塔から何かが飛んでくる。凄まじい速さで飛来した何かは、モル倉が乗る船に直撃すると、沈んでしまう程に船を大きく破壊する。船内に水が浸水しゆっくりと船が沈んでいく。


「重圧の魔人(グラビタス)」


 レスが心象宝具の魔人を出現させると、沈んでいた船が止まる。魔人が手を上に上げれば、沈みかけていた船が逆に浮かび上がり、そのまま空へと浮かんだ。


「この船飛んでるよ…」


 操船のため乗っていた船員から思わず言葉が漏れる。


「このまま砂の塔(アレ)に突っ込むぞ!」


 レスがそう叫ぶと、船は空を飛んでいき、モル倉の空けた穴にめり込んだ。


 船からレスが飛び降りる。


「随分海賊らしい登場ね」

「アイツが魔人を操る海賊だ」


 キャスタックの嬉しそうなセリフに、ハルハラがレスを見てそう言った。


「久しぶりだな、砂の男…お前は僕が倒す!」


 レスがハルハラに向かって叫ぶ。それを遮るようにキャスタックが前に出る。


「ぼくちゃんの相手はこの私」


 レスがキャスタックを睨む。船からはニネと魔物達と船員が降りてくる。


「おいおい、魔物が居るぞ」

「アイツは…やつはクルエルシードの配下の魔物です!」


 出てきた魔物に驚きの声を上げるエドムス。そして、アビ吉を見て剣を抜き叫ぶのはダルイン。


「クルエルシード…噂の異常迷宮の魔物か。まさか海賊と手を組んでいたのか」

「人間と手を組む人類の敵か。ギルドマスターの感は外れてなかったみたいだな」


 驚きの声を上げるハルハラと、ギルドマスターに感心するエドムス。


「おい、スライム!私が相手だ!」

「ん、分かった」


 剣を構え挑発するダルインにアビ吉が釣られて、2人で離れていく。


 それを見た冒険者達はキャスタックがレスとタイマンになるように、他の敵を誘うように動く。


 だが、それは海賊側も同じ思考であり、集団戦闘を得意とする冒険者を分断し、個別で戦いたいと考えていた。


 双方の思惑が合致しているため、それぞれが個別の相手を見つけ分かれていく。


 戦いの様相は、ダルイン対アビ吉、キャスタック対レス、エドムス対モル倉、ハルハラ対ラタ次郎、カルク&アルム対レスとなっていた。



◇◇◇



「付いてこい、虫野郎!」


 エドムスはモル倉を引き付けると挑発し、敵が塔に開けた穴から飛び降りる。モル倉は背中に生えた蝶の羽を羽ばたかせ、エドムスを追う。


 エドムスは包武により衝撃を和らげ着地する。わざわざ外に出たのはエドムス自身の能力のためである。


 早速、エドムスは自身の心象宝具を発現させる。現れたのは大きな筒、これこそエドムスの心象宝具、仰天大筒(トイカノン)である。


 仰天大筒(トイカノン)は筒に入れたあらゆるモノをどこにでも飛ばせることができる。剣を入れれば剣を飛ばして攻撃できるし、人を入れれば目的地までひとっ飛びで飛ばせる。


 操気術を習得するまで前衛職一筋でやってきたエドムスの、遠距離攻撃が欲しいという願望が現れた能力であった。しかし、気の性質は肉体内包系であり感探は苦手で、遠くの敵を感知し狙撃するような使い方ができず、心象宝具の真価を発揮できていない状態であった。そのため、他Sランク冒険者の移動用として使われるようになってしまっていた。


 それでも強力な能力に変わりない。特殊な力で飛距離が伸びているとはいえ、数百㎞もモノを飛ばす勢いで、飛ばされたモノが数m先の敵にぶつかればとんでもない威力となる。


 エドムスは周囲の石を掴むと仰天大筒(トイカノン)に入れ、モル倉に向かって石を飛ばす。


 しかし、モル倉に当たるはずだった石はモル倉の身体をすり抜け飛んでいく。モル倉の身体が蜃気楼のように消えて、別の場所に現れる。そして、今度は別の場所にもう1人モル倉が現れる。更にもう1人現れ、無限にモル倉が分身増殖していく。


「幻術か…」


 慌ててエドムスは幻惑耐性ポーションを飲み、幻惑耐性を最大値まで引き上げる。だが、目の前の増殖したモル倉は消えない。


「愚かだね、人間。これは幻ではない」


 モル倉の言葉に惑わされない。エドムスは苦手な感探を使う。


「そこだ!」


 エドムスは増殖したモル倉の一つに向かって、仰天大筒(トイカノン)で石を飛ばす。モル倉は、飛来した石を辛うじて避ける。そのモル倉が実体だった。


 完全幻惑耐性でも幻覚が解けなかったのは、モル倉の幻術と光魔法を組み合わせた幻だったからである。


「ふん、感探を使ったか。だが貴様、感探が不得手であろう?こうすれば分かるまい」


 たくさんのモル倉が空を自由自在に飛び回る。先程は苦手な感探を使い、増えたモル倉一体づつ見分けたが、こうも素早く動かれては見つけられない。周辺全体を覆うような感探をエドムスは使えなかった。


 シュピュン。


 空から飛来する光魔法の光線を、エドムスが間一髪で避ける。モル倉はエドムスが近接タイプだと見抜き、このまま遠距離から攻撃し続けるつもりだ。


 エドムスは上空から飛んでくる光線を避けながら、石を仰天大筒(トイカノン)に詰めていく。しばらく石を詰め込み続け、筒が満タンになったころ、仰天大筒(トイカノン)を頭上に向ける。


「くらえ!」


 仰天大筒(トイカノン)から無数の石が発射される。上空を飛び回っていたたくさんのモル倉を石たちがすり抜けるが、1つの石が本物のモル倉にヒットする。その衝撃はモル倉の下半身を吹き飛ばした。


 モル倉の分身たちが消え、モル倉が地面に落ちる。苦悶の表情で動かなくなったモル倉にエドムスが近づく。


「はっ、ちょこまかと五月蠅い虫だったな」


 荒くなっている息を整えながらエドムスが、勝ち台詞を吐く。


 シュピュン。


 ガバっと起き上がったモル倉の光魔法がエドムスの心臓を貫いた。


「しまった…」


 胸に風穴を開け、口から血を流すエドムス。苦手である感探を癖づけておらず、感探による死亡確認を怠った。完全なエドムスのミスであるが、例えエドムスが感探をしていたとしても、モル倉は染無を使っており、エドムスの感探では見抜けなかったであろう。


「魔物である私が、下半身が消し飛んだ程度で死ぬわけなかろう。まったく愚かな人間だな」


 モル倉は手で器用に起き上がると、羽を伸ばし羽ばたく。


「おっと、下半身がないと飛びにくいな。早く魔王様に治して貰わねば」


 モル倉は少しふらつきながら空を飛ぶ。


「ああ、魔王様。あの程度の人間相手に下半身を失い、魔王様のお手を煩わせてしまうなど…なんと無能な配下なのか!」


 モル倉はそのまま嘆きながら飛んでいくのだった。


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