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迷宮魔王クルエルシード  作者: 海老天ころも
第2章 海賊決戦
22/33

22 再戦の予兆


 ある日、部屋に入ってきたニネが聞いてくる。


「魔王は食事が不要なんだよね?」

「ああ、魔王になってから一度も飲食はしていないが、特に問題はない」


 迷宮に籠もっているニネには、島の海賊たちから定期的に食事が運ばれてくる。


「でも、食べれないわけじゃないんでしょ?」


 どうやら2人分の食事を持ってきてもらったらしく、いつもより多い料理を手に抱えたニネが居た。


「ねぇ、一緒に食べようよ」


 そう言われニネの顔を見て、私は包武の練習をやめた。


 ニネが持ってきたのは、野菜と肉を煮たスープとパン、そして水と酒。


 スープをスプーンで掬う。前の世界の飯を知っている私からすると到底美味しそうには見えない。期待するようにこちらを伺っているニネを見て、スープを口へと運ぶ。


 温かな液体が口の中に流れ込む。瞬時に野菜のコクと肉の旨味に舌を刺激される。思わず口角が上がるのが分かった。


 ああ、忘れていた。食事とはこんなにも素晴らしいものだったのか。


「…美味しい」

「ほんと!美味しいよね、私も好きなんだ!」


 どうやらニネのお気に入りの料理だったらしい。


 食事が不要とは言え、たまにはこうして楽しむのも悪くない。



◇◇◇



 エドムスとダルインは、クレエドの冒険者ギルドの要請により、クレエド最東端にあるココクレ港へと来ていた。


 海賊討伐軍が壊滅状態で帰港してすぐに要請が来た。海賊の中に操気術の使い手が居るため、複数のSランク冒険者による海賊討伐隊を結成するから、ナディアも人員を寄越せ。そんな感じの要請であった。


 ナディア国王都のギルドマスターの承認により、エドムスの能力を使いすぐにココクレ港に2人は飛んできていた。


「海賊の中に操気術の使い手が居るなんてあり得るのでしょうか?」


 ダルインの質問に、エドムスが答える。


「無くは無いだろうな。大方、どっかの国のバックレたSランク冒険者だろうよ」

「だとするなら、ギルドを通じて誰かとかどんな能力か分かるのではないですか?」

「まぁそうだが。情報が無いのを見るに、どっかのギルドが隠蔽の為、その冒険者を死亡扱いにしてるんだろうよ。Sランク冒険者を管理しきれず逃げられましたってなりゃ、ギルドの大失態だからな」


 ダルインは一枚岩でないギルドの現状を、苦々しく思うのだった。


「因みに、クレエドでは無いぞ」


 横から声がして視線を向けると、白い布で全身を包んだ男が居た。


「私はクレエドのSランク冒険者、ハルハラだ。クレエドのギルドが管理する記録を確認したが、私が見た能力を使う冒険者が在籍した記録は無かった」


 ハルハラの言葉にダルインが質問する。


「見たってことは海賊達と戦ったんですか?」

「ああ。あんたらオリビア港に居た二人組だろ?あの時、クレエドの海軍船に潜んでたんだよ」

「おい、マジかよ!あそこに居たのかよ」


 エドムスが驚きの声を上げる。


「俺はナディアのSランク冒険者エドムスだ。感探はあんまり得意じゃねぇんだよ、全然気付かなかったわ」

「私はAランク冒険者のダルインです。今は操気術の修行中です」


 軽く挨拶を交わすと、ハルハラが2人を案内する。港を進んでいくと慌ただしく、出港準備をしている船が見えてくる。


「姉御ー?荷物載せ終わりました〜」


 気怠げでやる気のない声とともに、若い青年2人が船から降りてくる。姉御と呼ばれたのは、外で待っていた2人より年上の女性。


「おい、キャスタック。連れてきたぞ」


 ハルハラの声掛けで、女性が振り返る。


「あー、あんた達がナディアの。私はクレエドのSランク冒険者キャスタックだ、よろしく」


 芯の通った声でキャスタックが自己紹介する。


「で、その後ろに居るのがキャスタックの弟子で、カルクとアルムだ」

「しゃーす」

「ども」


 ハルハラに紹介され、若い青年2人がやる気なく挨拶する。


 ダルインとエドムスも自己紹介と挨拶を済ませ、早速任務についてハルハラから語られる。


「海賊の中に嵐を操る心象宝具を使う奴がいて、討伐軍はほぼ壊滅状態に追い込まれた。そいつは私が倒したが、もう1人操気術の使い手が居て、私では能力の相性が悪く、撤退を余儀なくされた」


 ハルハラが言葉を続ける。


「敵の能力は対象全体を押し潰したり、対象を引き寄せるような力を使う、魔人を具現化する」


 ダルインが質問をする。


「他に操気術の使い手が居る可能性は無いでしょうか?」

「その可能性はある。2人の年齢からして嵐を操る海賊は元Sランク冒険者で、魔人を使う海賊がその教え子だと考えれば、他にも操気術を学んでいる海賊が居てもおかしくない」


 海賊の中に操気術の使い手が5人以上居れば、このメンバーでの対応は難しくなるだろう。一国のSランク冒険者の数に匹敵するような戦力を、海賊団が有しているとは普通は考えられない。だが、可能性としてあり得るのだ。


「魔人を使う海賊は私に恨みを持っている。私の能力を見せれば必ず飛んでくるはずだ」


 そう言ってハルハラは今回の作成を伝える。作戦を聞いたメンバーは船に乗り、船を動かす船員を数人乗せて、船は港を出港した。



◇◇◇



 海を行く船の上で、ダルインは剣に包武で気を纏い素振りをしていた。


「あれさ、どっちの鳥が先に魚捕まえるか勝負しよーぜ」

「じゃあ俺右」

「ずりー、なら俺左か。…あっ」

「はい、俺の勝ちー」


 ダルインの耳に、船縁にもたれ掛かり駄弁るカルクとアルムの声が届いている。


「先に選ぶのはズルいだろ」

「今度はどっちが先に選ぶか決める勝負をしようぜ」

「じゃあ、その勝負でどっちが先に選ぶかはどう決めるんだ?」

「えー、じゃんけん?」

「なら最初からじゃんけんでいいだろ」

「てか、海賊島まで遠くね」

「ああ、ぶっちゃけ暇だな」


 繰り返される会話を聞き流しながらダルインは素振りを続ける。


「カルク、アルム」

「「はい」」


 キャスタックの呼び掛けに、2人がおしゃべりをやめて返事する。


「そこのダルインと手合わせしてみなよ」


 その言葉にダルインは素振りの手を止める。


「えー、嫌っすよ」

「面倒くさいです」


 消極的な2人の首根っこをキャスタックが掴むと、船縁にもたれ掛かっていた2人を起き上がらせる。


「良いから黙ってやんな。ダルインちょっと手合わせしてやってくれないか」

「分かりました」


 ダルインとしても同じSランク冒険者の弟子として、2人の実力は気になるところ。操気術を習っている期間は2人の方が長そうだが、私もAランク冒険者として培ってきた地の実力がある。


 カルクとアルムは面倒くさそうにじゃんけんをする。どうやらカルクが戦うようだ。


「えーと、お兄さん」

「ダルインです」

「ダルインさん、軽くやるけど負けても気にしないでね」


 ベテラン冒険者が初心者冒険者を相手にするような、カルクの言葉にダルインも不快感を示す。


「では、私は全力で行いくが、問題ないですね?」

「早く、来てください」


 錬身で肉体能力を引き上げ、両手両足に包武で気を纏ったダルイン。軽く構えたカルクに向かって、攻撃を仕掛ける。


 大きく地面を蹴り、その推進力のままダルインはカルクに回し蹴りを繰り出した。最低限の上体の反らしで避けたカルクに、ダルインが右拳で追撃を掛ける。


 包武を纏った左手で拳の軌道を少しずらすようにガードしたカルクは、そのままダルインの右腕を掴むと、ダルインの腹にアッパーのようにして右拳を繰り出した。衝撃によりダルインの身体が持ち上がる。カルクが掴んでいた右腕を回転させるように引っ張れば、ダルインの身体は甲板に仰向きで叩きつけられる。


「そんな馬鹿な…」


 その実力差にダルインは驚愕する。この少しのやり取りでダルインは分かった。カルクの戦闘能力はSランク冒険者であるエドムスより上であると。


「こいつらね、面倒くさがってSランク昇級試験を受けてないだけで、Sランク冒険者に十分な実力があるのよ。心象宝具は発現していないけどね」


 倒れたダルインにキャスタックがそう声をかける。


「こいつらの実力は分かっただろう?いい修行になるだろうから、気の済むまでこいつらに勝負吹っ掛けな」

「ちょ、姉御」

「えー嫌なんすけど」


 立ち上がったダルインは拳を握る。


 確かに操気術の四法は使えるようになった。だが戦闘の中で十分に四法を活用する技術、そして四法を考慮した戦闘技術。まだまだ己の未熟さを悟ったダルインだった。


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