20 海戦
オリビア港から討伐軍の船が出港した事を、レイ川の偵察により知った、海賊島の海賊たちは一斉に海賊船を出港させていた。百隻にも及ぶ大船団が海を航海する事1日半。ついに討伐軍と対峙した。
「なんとも壮観な眺めじゃな」
マストの上に立つセドクは辺りを見渡しそう言う。
セドクは自身の右手に、鳥の羽根で作られた大きな団扇を出現させる。
「海よ、海賊に相応しい姿を現せい!さぁ、大時化の時、存分に暴れろ!」
心象宝具、天哭の羽交い。セドクは団扇を大きく振るう。そして、また振るう。何度も何度も踊るように団扇を振る。
たちまち快晴の空は、曇天へと姿を変える。強い風が吹き、雨が降ってくる。厚く黒くなった雲が、ゴロゴロと今にも落ちそうな雷をため込み始めたのが分かる。
海が大きくうねり始め、波が船を大きく揺らす。
「ハッハッハッハーーッ!!!ええ、天気じゃあ!」
セドクは甲板にいる船員に向かって叫ぶ。
「者ども旗を掲げろ!!」
セドクの言葉に船員が海賊旗を船に掲げる。それに習い周囲の海賊船も続々と海賊旗を掲げ始める。
海戦の流れは、互いの船が近づくと弓矢や魔法と言った遠距離攻撃の応酬から始まる。そして完全に横付けされると甲板での白兵戦が開始される。
海賊団と討伐軍が互いに近付き遠距離攻撃が始めれば、魔法やスキルを習得してるであろう討伐軍が有利。その前に場を荒らす、そして足元も覚束ない白兵戦となれば、海賊団も優位に立ち回れる。
荒れ狂う嵐の海を、海賊船が突き進んでいく。
天哭の羽交いの能力は嵐を起こす事と、嵐を操作する能力。セドクは団扇を仰ぎ嵐を操作する。とはいえ今回のような大きすぎる嵐は制御しきれない。なるべく大きな波と風が討伐軍を襲うように操作する。
うねる波を器用に乗り越え海賊船達が、討伐軍に近付いていく。
討伐軍は突如発生した嵐による混乱の中、近づいた海賊船から海賊たちが乗り移り、討伐軍の海兵を海賊達が襲う。
セドクは感探を駆使して強者を探すとその船に、団扇で嵐を操り雷を落とす。中央のマストに落ちた雷は、巨大なマストを粉々に引き裂いた。破片が甲板に降り注ぎ船体を破壊する。帆やロープを燃やしながら船は沈んでいく。
天哭の羽交い。迷宮では使い勝手の悪かったこの能力は、海でセドクを最強たらしめる。
セドクは、味方の船が沈まないように嵐を制御しながら、時たま雷を落としていく。そのため完全に嵐の操作に集中してしまっていた。
セドクの背中から槍が身体を貫いた。正確には砂で出来た槍。体に突き刺さった槍は次の瞬間には、ウニのように全方位に尖り、セドクの身体に無数の穴をあける。
痛みによりふらついたセドクが、マストの上から落下する。そして、そのまま船の甲板に叩き落される。
「いやー、海軍の船に潜んでいて良かったよ」
甲板にはこの船の乗員ではない、人物が立っていた。全身を覆う白い布の男性がそこに居た。特徴はクレエドに住む人の格好だ。
セドクの口から血が溢れる。
「まさか操気術、それもとんでもない心象宝具を使う者が海賊の中にいるとはね」
セドクは気力で立ち上がる。それに合わせて目の前の男の体から、大量の砂がこぼれ落ちてくる。
「なかなかしぶといですね、砂の処刑台」
こぼれ落ちた砂が、セドクにまとわりつき手錠と首輪となって、セドクを捕らえる。甲板の上には砂で出来た断頭台が出来あがる。
セドクの首輪が断頭台に引き寄せられ、いつでも処刑できるように頭がセットされる。
「これで終わりだ」
砂で出来たギロチンの刃が落下し、セドクの頭を切り落とす。血を吹き飛ばしながら、セドクの頭が転がり落ちるのだった。
◇◇◇
セドクと別の船に乗り指揮をしていたレスは、ふと気付いた時にセドクがマストの上から消えた事に気付き慌てて感探を発動する。
セドクの乗っていた船にセドクの気を感じない。代わりに操気術の使い手特有の、気を持つ人物を感知する。
レスはすぐさま、甲板から飛んだ。近くの船に飛び乗り、また飛びセドクの乗っていた船へと向かう。
そこで待って居たのは、頭だけになったセドクの髪を掴み、乱暴に頭を持ち上げる男の姿だった。
「お前ぇえええええッ!!!!!」
気付いた時には叫んでいた。男が返り血のついた顔をこちらに向ける。
「おや、まだ操気術の使い手がいたのか」
レスは双子の妹ニネと共に、貧民街からセドクに拾い上げられ、ここまで成長することができた。拾われたのはそれなりに大きくなってからのことだったが、だからこそセドクに感謝し慕い尊敬していた。
そのセドクを失い、目の前には仇の相手がいる。そして、近くに居ながらも何もできなかった自分。
喪失による悲しみ、仇への憎しみ、自分への怒り、めくるめく感情の中で覚醒し発現する。心象宝具、重圧の魔人。
レスの背後に姿を現したのは大きなゴーレムの上半身のような魔人。魔人が手のひらを翳すと目の前の男が、レスに向かって引き寄せられる。
「なにッ?!」
レスは自身の適性のある錬身を発動する。これによりレスの身体は、瞬時に最高度まで肉体能力を高めた。魔人の力によりすごい勢いで飛んできた男の、顔面に向かってレスは拳を振りぬく。
骨が砕けるような音と共に、男は吹き飛んでいき船尾にある船室に激しく激突するのだった。
◇◇◇
男の名前はハルハラ。シンベリア朝クレエドに所属するSランク冒険者だ。
近隣を荒らす海賊討伐のためクレエドを含む三カ国による討伐軍が結成された。ここで海軍戦力を失う訳にはいかないクレエドの意向により、ハルハラはクレエド海軍の船にひっそりと潜入していた。
ハルハラの仕事は海賊討伐の手助けではなく、他国の操気術の使い手や海賊の中に操気術の使い手やそれに類する強者が現れた時に、クレエド海軍が個の力によって壊滅させられる事を防ぐのが任務だ。クレエド海軍の危機が無ければ、潜伏し続け何事もなくクレエドと帰還する。途中、ナディア国のオリビア港に停泊中に、操気術の使い手が見回りに来たが、感探が得意ではないようで、感覚内包系であるハルハラの染無を看破できなかったようだ。このまま無事に海賊討伐が終わり、ナディア国に入国した事実も、海賊討伐軍に参加した事実も無い事になる筈だった。
だが、いざ海賊との海戦が始まると、海賊の中に操気術の使い手が居ると分かった。それは、海戦と同時に嵐が発生し、それも海賊が有利になるように嵐が動いているからだ。こんな事できるのは心象宝具だけだ。
この広い海戦の戦場の中、感探で探すのは無理だと思ったが、すぐに操気術の使い手が分かった。海賊船のマストの上で大きな団扇を振る老人が見えたからだ。
すぐさまハルハラは行動を開始した。あれ程の心象宝具を持つ相手だ、気付かれたら駄目だ。ハルハラは染無の状態を維持し、気付かれないように時間をかけて接近した。そして遂に操気術の使い手が乗る船に辿り着き、奇襲により倒すことができた。
だが、その直後もう一人の操気術の使い手が現れたのだ。
ハルハラは殴られ鼻が折れた。大量の血が噴き出している鼻を抑えながら立ち上がる。
その程度で済んだのは、引き寄せらた際に、瞬時に錬身による肉体強度の向上と、苦手な包武で顔面の部分強化を行ったためである。
「砂の教会」
ハルハラはすぐさま反撃に出る。具現化した砂を使って、敵を囲むように砂の教会を作り上げる。しかし、敵の魔人が両手を動かせば、砂の教会は強い重力に引っ張られるように、ぐしゃりと潰れてしまった。
ハルハラは瞬時に、相性が悪いことを悟った。
ハルハラの気の性質は感覚内包系であり包武が苦手のため緊急時の防御にしか使わないし、その訓練しかしていない。ハルハラの戦闘は心象宝具である砂上の楼閣に依存していた。
だが砂上の楼閣は具現化した砂であらゆるモノを創造できるため、汎用性が高くどんな状況でも活用できるため問題なかった。だが、砂上の楼閣の弱点として強度の問題があった。どんなに硬くなるようにイメージしても岩程度にしか硬くならないのだ。その強度を砕ける力、しかも全体に力を与えることのできる、目の前の相手には砂上の楼閣が通じない。ゆえに相性が悪い。
「砂の教会」
ハルハラは今度は自身を囲むように、砂の教会を作り上げる。敵に壊されるその数秒の時間で、懐に手を伸ばす。
取り出したのは魔道具テレポーター。魔核を動力に動く魔道具は、迷宮で手に入るアイテムよりも強力な効果を発揮する。テレポーターは魔核1つで一度しか使えないが、登録した場所に自身を転送することができる。
敵により崩れ行く砂の教会の中で、ハルハラはテレポーターを起動するのだった。




