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迷宮魔王クルエルシード  作者: 海老天ころも
第2章 海賊決戦
19/33

19 集結


 ナディア国に所属するSランク冒険者エドムスは、ナディア国最南端にあるオリビア港へと来ていた。


 この港には、ナディア国、麻里布王朝、シンベリア朝クレエド、近隣にある大国3カ国の海軍が集結していた。というのも近年周辺海域で海賊が頻繁に活動するようになり、大国3カ国により連合の討伐軍が結成されたのだ。


 戦力の比率はナディア国1に対して、麻里布王朝2、シンベリア朝クレエド3といった感じだ。海に面する海岸線が3カ国の中で一番短い、ナディア国が海軍の戦力は1番小さい。


 港の沖合に停泊する何十隻の大小様々な帆船を見渡しながら、エドムスは唸る。


「俺は感探は苦手だからな。全く分からん」


 そう言うとエドムスは隣りにいたダルインに話しかける。


「ダルインは気の使い手が居るか分かるか?」


 アルカには難易度の高い案件が入った為、一時的にダルインの面倒をエドムスが見ていたのだ。


「いや、私もエドムスさんと同じ気のタイプですから、感探は苦手ですよ」

「そうだよなぁ」


 本来冒険者ギルドは国境無き対迷宮の組織であるため、国同士の戦争には冒険者を参加させないのが鉄則となっている。とは言え国毎にギルドと国の癒着はそれなりにある訳で、他国のギルドも同じ組織であるが、警戒は必要となる。そのため、他国の海軍が集まるオリビア港の警戒警備のためエドムスが派遣されてきていたのだ。


「地道に港と船を見て回るか」


 そう言ってエドムスが歩き出す。その後をダルインはついて行きながら質問する。


「そう言えば、エドムスさんは弟子は取らないんですか?」

「俺か、俺は操気術のセンスが無いからな。後任の育成なんて出来ねぇよ」


 ダルインの質問にエドムスが鼻で笑う。


「アルカやエンバーは、ちゃんと四法を全て使いこなせてるから後任の育成が出来んだよ。俺は一応全て使えるが、まともに実戦で使えるのは錬身のみだからな。さしてお前と変わらんし、育成なんて立場じゃねぇって事よ」

「そうなんですね。Sランク冒険者は全員アルカさんみたいな感じかと思ってました。」


 ダルインの返しにエドムスが怒る。


「あ?アルカは特別なんだよ、あれは。エンバーもなかなか強いが、ギルドマスターに届きうるアルカは天賦の才だ」


 エドムスがダルインの背中を叩く。


「今は俺が勝つが、お前もなかなか才能がある。1年あればお前に負けちまうかもな!」


 そう言ってエドムスは豪快に笑うのだった。



◇◇◇



 私は左手で左目を覆い、視界共有でレイ川の見ている景色を見ていた。


 遠視スキルにより遠くまで見えるレイ川の視界には、港に停泊する多くの船を映し出している。いよいよ討伐軍が結成された事が分かる。


『アビ吉、セドクさんにたくさんの船が港に集まっていると伝えてくれ』


 アビ吉に念話で指示を出す。アビ吉の方に五感を切り替えれば、ちょうど目の前にセドクが居た。アビ吉がセドクに港の船のことを伝えたようだ。


「今、魔王は聞いてるのか?」

『聞いてるといってくれ』

「聞いてるって」


 この念話を使った連絡方法は凄く便利だ。念話自体は魔王から配下に一方通行とは言え、聴覚も共有すれば配下が喋ったことを耳で聞くことができるため、喋ることのできる配下であれば、相互の意思疎通が可能なのだ。


「魔王クルエルシード」


 クルエルシード?何のことだろうか。


「世界各国でお触れが出ているらしい、人型の魔王に警戒されたし。やや身長高めの黒髪黒目の男性の姿をした魔王クルエルシード、これお前さんのことだろう?」


 どうやら前回エンバーに余計な事を言ったせいで、警戒されてしまったらしい。


『私で間違いないと伝えてくれ』

「魔王様が間違いないって」

「やはりそうか。相当暴れたみたいだな、見つかったら終わりじゃな。ハッハッハ」


 そこで私はアビ吉から五感の共有を解除する。


 世界にバレたところで私のやる事に変わりはない。どうせ、向こうは無数にある迷宮から私の迷宮を探すことなんて極めて難しい。それに、仮に倒されても私は復活するからな。


 そして、魔王クルエルシードか。名乗る名など必要ないと思っていたが、向こうがそう呼ぶなら、私もクルエルシードと名乗るとしよう。


 そんな事を考えているとニネが声をかけてくる。


「片手間に他の事が出来るようになるなんて、かなり包武が上達したね」


 ニネの言うとおり、今右手では気を纏い包武の訓練をしていた。


「こっちの方が実戦向きの訓練だろうからな。モル倉の方はどうだ?」

「順調よ。モル倉さんは結構才能あるみたい、魔王の方が負けてるかもね」

「別に良いさ。配下が強くなる事は、私にとって嬉しいことだからね」


 気が散るのでモル倉とは部屋を分けてもらい、私は包武、モル倉は感探の訓練を行っている。ニネには行き来してもらい二人共の訓練を見てもらっている。


 そう言えば、ニネは私のことは呼び捨てだが、私の配下はさん付けで呼ぶのだな。もしかして、舐められてるのだろうか。一応、さん付けしているモル倉の主なのだが。


 因みにラタ次郎も気を感じられるようになるか、モル倉の部屋でモル倉の気に触れ続けるようにしてもらっている。たまにラタ次郎はアビ吉の手伝いに行ってもらっているが、気が使えるようになるのも時間の問題かもしれない。


「そう言えば、私の知っているSランク冒険者は四法の他に不可思議な能力を使っていたが、それも操気術なのだろう?」

「多分、心象宝具(しんしょうほうぐ)の事ね。気を心のままに具現化するっていう、操気術の奥義みたいなものよ。具現化したモノには特殊な能力が宿るとされるの」


 心象宝具か。あの力こそ、真に欲しいものだ。


「心象宝具はどうやったら使えるようになるんだ?」

「気を練り放出し続けながら、数日間同じイメージを心に描き続ける事で、意図的に発現できるようになるって船長が言ってたわ。だけど、その方法はオススメしない」

「なぜだ?」

「自然発生的に発現できるようになるのと、意図的に発現できるようにするのでは、後者の方が能力が弱くなりやすいらしいの」


 恐らく心象宝具は言葉のとおり、頭にこびり付くような強いイメージにより、気が具現化するのだろう。だから、意図的に描けるようなイメージは単純なものになりやすく、自然な発現の方が無意識下のイメージが具現化される為、複雑で強力な能力になりやすいということだろう。


「だから、私も何かの拍子に使えるようになるまで待ってるから、今はまだ心象宝具が使えないのよ」

「そうか。因みにレスもまだ使えないのか?」

「そうだね、レスも使えない。船長が言うには命の危機とか、とんでもない状況に陥った時に、発現しやすいらしいんだけどね。海賊やってるとさ、大体は勝ち戦、海賊旗掲げるだけで降伏するのも多いぐらいだから、そんな状況にならないんだよね」


 操気術が使えると、迷宮外の一般人相手にピンチになることなんて無いか。


 私も魔王であり何度でも生き返るため、本当の意味での命の危機はないと言っていい。私にも心象宝具が発現する機会が訪れない気がする。なので、私の場合は意図的に発現させるのも選択肢として考えなければいけないだろう。


「よし、ニネに包武の成果を見てもらおうか」


 私はそう言って立ち上がる。


「まずは全身だ」


 そう言って全身を放出した気で包み込む。


「うん、十分じゃないかな。これなら一般人の剣や矢は大抵弾き返せるよ」


 一般人なら、か。Sランク冒険者の攻撃も防げるようにならないと意味が無いだろうから、まだまだだな。


「次は攻撃用の部分包武だ」


 私は全身の包武を解くと、右手に気を集中させる。大量の気が右手の周りに集まっていく。


「おお!部分包武で言えば私やレスと遜色無いよ!」


 これまでずっと包武の練習に費やしてきたからな。最も適性があるのが包武なのだ、ニネやレスに簡単に追いつけなければ困るというもの。


「包武は錬身と違って、使い手によって応用が効くのが利点なんだよね。例えば、纏った気の性質を変えれば剣にも槍にも変えられる」


 そう言ってニネは右手に包武で気を纏うと、訓練用に出していたカカシに向かって拳を繰り出した。


 拳を引くと見事にカカシの胸あたりに大きな穴が空いていた。


「次はこんな感じで、包武で纏う気の性質を変える練習をしようか」


 包武はこんな事もできるのか。確かにこれなら多様なシチュエーションに対応できるだろうな。その代わり、錬身のように肉体のスペック全てを数段階引き上げる程の、強化性能は無いって感じか。


 だが、錬身と包武を同時発動すればかなりの威力になる筈だ。最終的にはそこを目指すべきかもしれない。


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