18 海賊集会
私は、ニネ。貧民街で産まれ貧民街で育った。その後、セドクに拾われ操気術を教わりながら、共に海賊稼業をやってきた。
数カ月前より船長を悩ませていた討伐軍の対策は、突如現れた特異な迷宮により、希望の光が見えた。
10の海賊団の力は拮抗している。私達の風雷の海賊団は成果は一番だが、新参海賊団であるため、他海賊団と対等となってしまっている。
だが迷宮が提供する資源により、他海賊団が風雷の海賊団に依存するようになれば、風雷の海賊団の影響力、発言権は増す。島を拠点とする私達に必要な真水、戦いで傷付いた海賊を治す回復ポーション、これらは重要な資源だ。そしてそれらの資源はアビ吉により、簡単に輸送できる。一度簡単に手に入るようになってしまえば、前までの状態に戻す事は難しいだろう。
私はこれらの対価として、迷宮に残り魔王に操気術を教える事になった。
迷宮に入るのも今回が初めてだし、目の前の魔王以外に会ったこともないため、先入観が無いからか目の前の魔王はただの人に見える。
私は目の前の魔王の手を握ると、包武で自身の手に気を纏う。
「おい、人間!魔王様の御手に振れるなど!」
「モル倉、大丈夫だから」
「おお!なんとお優しい、流石は魔王様だ」
何やら煩い魔王の配下が隣に居るが、気を取り直して続ける。
「魔王さん、操気術はまず気を感じれるようにならなければなりません。強い気に触れ続ける事で才能があれば、数週間で気を感じるようになります」
「そうですか。なら1ヶ月試して私が気を感じる事ができなければ、私の配下に試してください」
魔王は私の手に握られた、自身の手に意識を集中させているようだった。
◇◇◇
風雷の海賊団が拠点とする島に迷宮ができて3週間後。この日は月に一度の10の海賊団集会の日。毎月異なる島で、10の海賊団の各船長が集う。勿論航海に出ている海賊団も居るため全員が参加する事は稀であるが、今回は全ての船長が揃っていた。
「遅かったな、風雷のジジイ」
蒼海の海賊団船長サルブクスが、遅れてきたセドクに向かって声をかける。
レスとアビ吉を連れたセドクは、用意された自席へと腰を下ろす。
「気が短いのぉ、ニ代目」
蒼海の海賊団は、最古参で10の海賊団の中では最多の海賊を抱えている。だが、数年前に船長が代替わりし、セドクよりも船長としては新参者であるサルブクスとなってからは、発言権が弱まった。
それにより、10の海賊団の力関係は拮抗している状態になっているのだ。
「討伐軍に対応するため、前回の集会よりワシが提案しておる、10の海賊団を統合し大海賊団を結成する事を再度提案する!」
「風雷のジジイ、前回否決されただろうが」
「何じゃ、もう一度採決を取るぐらいええじゃろ」
「懲りないジジイだな、結果は変わらんぞ」
サルブクスが了承した事で、採決が取られる事になった。開催場所の島を根城にしている海賊団の船長が、議長として採決の音頭を取る。
「セドクの言う大海賊団を結成する事に賛成する者、手を挙げよ」
セドクがニヤリと笑う。
サルブクス以外の9人の船長が挙手したのだった。
「な?!どういう事だ、何をした!」
驚き立ち上がったサルブクスはセドクを睨みつける。
実はセドクは、最も海賊の多い蒼海の海賊団を敢えて除き、他8つの海賊団に集中して資源を流していたのだった。
「討伐軍に対応する他の手段が無い以上、賛成するのが良いと判断した」
1人の船長が声を上げる。最もらしい意見に聞こえるが、前回海賊の矜持が失われるとか、あれこれ意見を並べて賛成しなかった船長だ。何かしらで懐柔したのは明らかだった。
サルブクスは椅子に座り、歯を食いしばるしかなかった。
「では、大海賊団の船長を誰にするか採決を取る」
議長の船長が更に会議を進める。
「まずは、サルブクスが良いと思う者、手を挙げよ」
サルブクスは自分自身しか手を挙げない未来を描きながら、手を挙げる。
だが、全員が手を挙げていた。
「では、大海賊団の船長をサルブクスとする」
再びサルブクスは立ち上がる。
「どういう事だ、セドクではないのか!」
それにセドクが答える。
「10の海賊団を束ねた大海賊団じゃ、最も大きな海賊団をまとめておるサルブクスが適任なのは当然じゃな」
サルブクスが最も大きな海賊団をまとめているのは伊達ではない。相当に優秀なのは間違いない。早めに味方とし、仲間として力を発揮させるのが良いとセドクは考えていた。
特に大海賊団の旗振り役は、船長として優秀であれば別に誰でも良い。大事なのは10の海賊団が1つにまとまり、団結して討伐軍に対応できること。
「大海賊団の船長となったサルブクス、副船長は誰を指名するか?できればこの中から選んで欲しい」
議長がサルブクスに投げ掛ける。
「くっ…副船長は、セドクを指名する」
サルブクスは義理堅い男。セドクの読みどおり、サルブクスはセドクを副船長として指名したのだった。
◇◇◇
「これが、気か」
目をつぶり握られた手が気に包まれているのが分かる。
「そう、魔王が感じてるのが私の気ね」
期限だった1ヶ月になる少し前に、ようやく気を感じる事ができるようになっていた。
その間にずっと一緒だった、ニネとは互いに口調も砕けたものになっていた。
「ああ!私にも見えます!魔王様!!」
そして、隣でずっと見守っていたモル倉も気を感じれるようになったらしい。
これで魔王も魔物も、操気術が全く使えないという訳ではない事が分かった。
「ここから操気術の四法。錬身、包武、感探、染無の4つを教えていくわね」
ニネはそう言うと地面に棒で十字の線を引いた。
「気はそれぞれ個性があるの。それは2つの軸で考えられていて、この縦軸が気の性質が、より強く影響を及ぼすのが感覚か、肉体か。そして、この横軸がその人の気が、体内に内包しやすいか、体外に放出されやすいか。」
そう言いながらニネは縦軸の上に「肉体」下に「感覚」と書き、横軸の右に「内包」左に「放出」と書く。
「その人の気の性質が、この2つの軸のどの位置にあるかによって、四法の適性が変わるの。」
ニネは左上に「包武」、右上に「錬身」、左下に「感探」、右下に「染無」と書く。
「例えば、その人の気の性質が肉体に影響を及ぼしやすくて、体外に放出されやすい場合は、“包武”が得意。逆に“染無”は苦手になる。」
「じゃあ、私の適性は何になるんだ?」
「それは試してみないと分からない。得意な四法は習得が早いはずよ」
その後、四法を1つずつ練習していくと、適性が分かってきた。
私は肉体放出系即ち包武が得意、モル倉は感覚放出系で感探が得意だった。ニネもモル倉と同じで感覚放出系で感探が得意らしい。
最初のステップである気を感じる訓練だが、要素として感探に近いため、肉体内包系の気を持つ者は気を感じるまでに時間がかかるようだ。逆に、モル倉は感覚放出系で感探が得意であるため、離れてても気を感じれるようになれたのだろう。
ニネ曰く四法を全て高練度で習得するのには、数年単位で時間を要するとのことなので、まずは得意だと考えられる包武をマスターすることにしよう。




