17 同盟
レイ川が倒されて数時間後、レイ川を倒した老人は若い男と女の3人で、迷宮にやってきた。
私は魔物もギミックも配置せず、迷宮最奥の部屋にテーブルと椅子を用意して待っていた。奥側の椅子に座り両脇には、ラタ次郎とモル倉が控える。
最奥の部屋にやってきた3人は中の光景に、驚き歩みを止める。
「お待ちしておりました、御三方」
私は立ち上がると、にこやかに話しかけた。
「私はこの迷宮の魔王です。後ろに居るのは配下の魔物になります」
警戒されぬよう、丁寧に自己紹介する。
「御三方の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
私の問に意外にもすぐに老人が口を開く。
「人の姿をした魔王が人の言葉を喋るか。ワシは風雷の海賊団船長のセドクじゃ。でこっちのガキどもがレスとニネじゃ」
老人はセドクと名乗り、後ろの男をレス、女をニネと紹介する。
まずは対話に持ち込む事に成功した。
「御三方は、この迷宮を攻略しに来られたのですよね?」
「まぁ、そうじゃな」
「それは困りますので、今回は攻略するよりもより良い提案をさせて頂きたいと思います」
セドクは「ほう」とヒゲを揉むと、どしりと椅子に腰掛けた。セドクが座ったことで私も椅子に腰かける。
「その提案とやらを聞かせてもらおうか。分かっておるだろうが、ワシが居る以上逃げても無駄じゃからな」
「勿論ですとも。それに迷宮がここにある以上、魔王である私は逃げも隠れもできませんから」
「それもそうじゃな」
さて、まずは第一の交渉からだ。
「私の迷宮が攻略せれず、この島に存在する事を認めていただけるのであれば、真水・薬草・魔樹を無制限に提供する事ができます。勿論あなた方に危害を加えることはありません」
「それは、湧水と薬草群生地、魔樹群生林をこの迷宮内に用意できるという事か?」
セドクはなかなか迷宮に詳しいようだ。もしかしたら元冒険者かもしれない。
セドクの言ったとおり、真水の取れる“湧水”、薬草の取れる“薬草群生地”、魔樹の取れる“魔樹群生林”を迷宮内の採取系ギミックとして配置できる。採取系ギミックは関連する迷宮環境になると、ロック解除できる。そのため、これらは既にロック解除条件を満たし、ギミック開発も終えているものだ。
内陸で迷宮のたくさんある場所では珍しくない採取系ギミックだが、ここは海に浮かぶ島。資源が乏しく、特に真水の確保は重要事項になる筈だ。
「その他にも取引次第で、迷宮で取れるアイテムや装備品を提供する事ができます」
アイテムや装備の生成にはポイントが必要だが、そんなのはアビ吉がワープを使い何処かの街に酸の雨を降らせればいい。
ここが島で海賊というカモフラージュが、この迷宮を見つけにくくさせる。ここは力を蓄えるのにうってつけなのだ。
「アイテムか。スキル習得のスクロールも出せるんじゃな?」
「こちらが支払うコストが高いので、あまり多くは提供できませんが可能です」
「そうか、なら“調合”のスクロールも出せるんじゃな」
「はい」
調合は生産系スキルの1つで、迷宮の素材から主にポーション系アイテムの生産が可能になる。
「先程の採取場3つに加えて、“調合”のスクロール1つで条件を飲もう」
「ありがとうございます、交渉成立ですね」
私は立ち上がるとセドクの方へと歩み寄る。
少し警戒した3人だが、ラタ次郎とモル倉が動かないのを見て、警戒を緩める。ラタ次郎とモル倉にはついて来ないよう指示済みだ。私が殺されるよりも信頼を勝ち取る方が大切だからだ。
「セドクさん、ぜひ良き協力関係となりましょう」
「こちらこそ、よろしくじゃな」
セドクも立ち上がり固い握手を交わす。
「さて、確かな協力関係を結べたところで、早速ですが同盟を結びたいのです」
「同盟じゃと?」
ここからが第二の交渉だ。
「はい。私の配下には…」
ここで私は、迷宮から待避してもらっていたアビ吉に、指示を出し戻ってくるように言う。
私は視線を壁に向けると、そこにワープの穴が空きアビ吉が出てくる。
「このように瞬間移動能力を持つ者がおります。船であれば帰港せずに、この能力で容易に積荷の補充が可能になります。この様な便利な能力を持つ配下が、あなた方に協力するように致します」
「それはとてつもないリターンじゃが、ワシらはおぬし等に何をすればいい?」
船乗りからすればとんでもないメリットだろう。その見返りに何を求められるのか、警戒のためセドクの目が細められる。
「そうですね。セドクさんの力、正確に言えばSランク冒険者が持つ力を我々に伝授していただきたい」
それを聞いてセドクが顔を歪める。
「魔王が人類の切り札を知りたいか。全く怖いのう」
だが、セドクは笑う。
「だがワシはギルドに失望し海賊に落ちた身。人類の未来などどうでもいい、ワシはワシが守りたいものが守れればそれでいいんじゃ」
セドクから手が出される。
「何の運命か悪魔に、いや魔王に魂を売るか。上等じゃぁ、魔王よ、同盟結んじゃる!」
交渉成立だ。私はセドクの手を握る。
「さて、おぬしの求めるSランク冒険者の力は“操気術”という。これは才能の世界でな、何十年やっても使えん奴もおる。そもそも魔物や魔王が使えるのかも分からんのう。」
操気術。やはり迷宮と全く別の力。やってみないと分からないが、操気術とやらを使えなければ、Sランク冒険者に対抗する手段がまともにないのだ。やるしかないだろう。
「ワシは海賊団を指揮せねばならん。操気術はこの2人に既に教え込んでおる。ニネ、ここで操気術の指導をしてやってくれ」
「はい!」
ニネが元気よく返事する。セドクの後ろの2人は若いようだが、既に操気術を使えるらしい。
「今度はこっちの番じゃな。ここはクレエドの東、ナディア国の南東に位置する群島。海賊島と呼ばれ10の海賊団がそれぞれの島を根城にし、合わせて5000人の海賊達が暮らしておる」
Sランク冒険者アルカが居るのがナディア国だ。そこから南東なら結構近いのだろうか。
「ワシらは成果を上げすぎた。近年、近隣諸国による連合討伐軍編成の話が上がっておる。討伐軍が編成される前に、10の海賊団をまとめ上げ迎え撃つ準備を整えねばならん」
討伐軍か。それは私としても困る。隠れ蓑とする海賊が無くなるどころか、迷宮が見つかる可能性があるからな。
「そこまで話して良いんですか、船長」
「同盟じゃぁ、腹割って話さな意味ないじゃろが」
レスの咎めにセドクが声に力を込める。
「こりゃあ海の導きよぉ。ワシらの危機に希望の一手が現れたんじゃからな。おぬしら期待しておるぞ」
「分かっております。アビ吉とアラ川を自由に使って頂き構いません。大いに役立つでしょう」
アビ吉はワープができるし、アラ川は空から偵察ができる。海賊として敵を倒せばポイントも手に入るだろう。
「さらに、アビ吉やアラ川を通して私といつでも連絡可能です」
「おう、分かった。最初は周りの海賊団に資源を流して懐柔するところからじゃ」
「すぐに採取場をそれぞれ設置しておきましょう」
セドクはニヤリと笑うと、レスに語りかける。
「希望が見えてきた、忙しくなるぞ」
そう言うと、セドクは慌ただしく迷宮を出ていった。その後をレスがついていくため、アビ吉もついていくように指示を出す。




