16 海賊
敵の能力により嘘がつけない。だからこそ対話により心を露わにした。それは八つ当たりに近い。
憤り、不満、嫉妬、それら己の弱音が言葉となった。最後の抵抗で要らぬヒントも与えてしまった。
冒険者ごっこをしようとも、人間ごっこをしようとも、行き着く先は魔王なのだ。私は魔王。私は魔王のために、人類のバッドエンドへ。
ならばこそSランク冒険者は敵だ。英雄の如き力を持ち、人々の希望となり、悪を挫く、彼等こそ私が倒さなければならない相手。
だが、今はSランク冒険者に届かない。いつか来る未来に届きうる刃を手に入れた時は、その首を落としに行く。それまではひっそりと蓄える時だ。
幸いと言うべきか前回アビ吉がやられてから、エンバーが迷宮に来るまでの間に、ポケ次郎とピヨ倉も最終進化まで進化させることができた。
早速、ポケ次郎とピヨ倉を召喚する。
ポケ次郎は、2回進化しファントムラタトスクとなった。ファントムラタトスクは、頭はリスで、人型の体に純黒のシルクハットとマントを羽織った怪盗。瞬間移動と幻術を操りあらゆる物を盗み出せる。名前はラタ次郎になっていた。
ピヨ倉も、2回進化しファタモルガーナへとなった。フォタモルガーナは、人の姿に蝶の羽が生えた妖精のような見た目。幻覚ではなく空間そのものを書き換える程の幻術と、光魔法を操る。名前はモル倉らしい。
「いやぁ、魔王様。今回は吾輩達が最初の召喚されし魔物ですかな?」
可愛い顔に似つかわしくない口調のラタ次郎が、懐からステッキを出すと地面に軽く打ち付けた。
「前回は進化させた後すぐに、迷宮外に逃がしたからね。少しお話したくてね」
ラタ次郎とモル倉は進化させた後、エンバーが迷宮に来る前に、外に逃がした。Sランク冒険者には多少戦力を増やしても勝てないのは分かっていたので、こちらの戦力の情報を与えぬ為にそうした。その為、進化後は軽く挨拶をした程度であった。
「ああ!何という慈悲!有難き幸せでございます、魔王様ぁ!」
隣でモル倉が舞台役者のように大袈裟に泣き崩れる。紳士然とした振る舞いで静かなラタ次郎と比較すると、一層そのリアクションが面白い。
「さて2人は見ていたと思うが、エンバーという冒険者の能力はどうだった?」
エンバーが来る前に迷宮外に逃がした2人だが、モル倉の光魔法を使って、エンバーが迷宮に入ってからずっと迷宮内の様子を監視してもらっていたのだ。
レイ川との戦闘ではアビ吉に使ったような能力をエンバーは使わなかった。その為、私の前で能力を使うように促した。
「冒険者が槌を打ち付けた瞬間、魔王様と冒険者の姿はありませんでしたな」
「私もその認識です。そして、その数分後には、もう…」
「私が倒され迷宮が攻略された訳か」
だとするとエンバーの能力は、あの部屋の空間を書き換えたわけではなく、私とエンバー自身を亜空間へ連れ込むような力。アビ吉の視界を共有していた私の、景色も裁判所に変わったことから、幻覚ではなく亜空間であると言える。それに加えて、亜空間内では嘘の発現・行動ができなくなるという制約をかけられる。
果たしてこの様な事を、迷宮が提供するスクロールにより習得できる、スキルによって実現可能なのか。正直可能だとは思わない。迷宮に関連するステータス、魔法、スキル、これらはゲームに関係する以上その効果は単純なものだ。
アビ吉をはじめとする最終進化までした、魔物達の化物級の強さとそれぞれの能力も、ステータス・魔法・スキル(魔物専用スキルを含む)、これらの組み合わせで説明できる範囲内だ。
「レイ川との戦闘はどうだった?」
「攻撃手法はスキルで実現可能かと。混乱耐性もスキルとポーションによるもので間違いないでしょう」
「しかし、レイ川から大きくステータスの劣ると思われる、冒険者の瞬間的な肉体能力の向上は、スキルの効果を大きく逸脱しておりますな」
オレンが使った「剛腕」のようにステータスを強化するスキルはある。だがその効果は、あのように数倍まで肉体能力を高めるものではない。
あの力はステータスの1つの項目を高めてる訳ではなく、ステータス全てが数倍に書き換わったような、肉体能力の向上の仕方だった。故に強い。
この世界で生きるにはSランク冒険者が使う2つの能力が必要だ。
さて、ラタ次郎とモル倉から聞きたい事も聞けたし、アビ吉、レイ川、アラ村を召喚する。
「魔王様、私は前回行っていた潜入活動を続けたいのですが、よろしいでしょうか」
前回アラ村はアビ吉とは別で、ホラフラフ共和国内で人に化けて潜入を行ってもらっていたな。
アビ吉と異なり細かい指示ができていなかったが、定期報告は受けていた。確か、ホラフラフ共和国の裏社会を牛耳る3大マフィアの一つに接触できたと言っていたな。
「そうだな、アラ村の潜入は成果がありそうだ。引き続き頼む。アビ吉、ホラフラフにアラ村をワープで連れて行ってくれ」
アビ吉は前回ホラフラフ共和国の何処でも行けるようにしたので、アラ村を前回潜入活動していた街へ連れてってもらう。
「レイ川、早速だが今回の迷宮出現位置を確認しておきたい、迷宮外に飛んでくれ」
「承知しました、魔王様」
レイ川は翼を広げると迷宮の出口に向かって飛んでいく。
私はレイ川の視界を共有するため、目を閉じる。凄まじい勢いで迷宮の通路を飛翔していくレイ川の視界が共有される。
迷宮を抜けると目の前は海。ギュンッと視界が上向きになり、レイ川が空高く上昇しているのが分かる。ある程度上昇するとその場で留まり、視界が下を向く。
これは、島だ。それも小さい島。遠くの方に幾つか他の島も見える。これは群島だろうか。
これならすぐに冒険者に見つかる事はなさそうだな。
『レイ川、迷宮のある島を見たい。低めに島の周りを飛んでみてくれ。』
指示どおりレイ川が降下し、島の周りを舞う。
島には5隻の帆船が停泊している。そしてその近くには、村のような集落がある。小さい島だがそれなりに人が居るようだ。
近付くと幾つも風になびく、同じ模様の旗があるのが分かる。ドクロに翼が生えたようなデザインの旗が、至るところに掲げてある。
もしかして海賊か?だとしたらここは海賊が拠点にしている島かと思われる。
だとするならば、非合法な海賊が占拠する島に冒険者が来るとは思えないので、ここはかなり安住の地と言えるかもしれない。
後は海賊達が迷宮に気付いた時にどのような反応を見せ、どのような対応をとるのか、それが気掛かりだな。
そんな事を考えていた次の瞬間、目の前に人が現れる。
「こんな所に魔物か、何処から湧いた?」
レイ川が居るのは空だと言うのに、目の前に現れたのは、大きなヒゲを蓄えた老人だった。
飛行したり浮遊している訳ではないらしく、重力によって落下しそうになる老人は、慌ててレイ川の脚を左手で掴む。
レイ川が掴まれた脚とは反対の脚で、慌てて攻撃を仕掛ける。それを容易に右手のフック型義手でいなす。
「足癖の悪い鳥じゃな」
もう一度老人が右手の義手を振るうと、レイ川の首が斬り飛ばされる。そこで共有されていた視界は途切れてしまう。
まさか、海賊にもSランク冒険者級の強者が居るとはな。
だが、相手は海賊。冒険者と違い迷宮が目的ではない。ならばやりようはあるだろう。




