15 魔王
ナディア国王都デアルガに帰ってきたエンバーは早速ギルドへと向かう。
ナディア国では冒険者ギルドの力が強いため、王都内でも王城に次ぐ巨大な建築物が、冒険者ギルドである。大きな門をくぐり大きな広場が広がる。多くの冒険者が訓練できるように用意されたものだ。
広場を進み、ギルドの建物に到着したところで、馬車が到着し後ろの荷台から2人の人物が降りてくる。
「アルカも今着いたところ?遅かったじゃない」
エンバーは降りてきた人物の片割れが、知っている人物であったため声をかける。
遅かったと言ったのは、エンバーが出発前にアルカからのマリッサから帰るという報告が来ていたのに、隣国にあるオルフレンの街から帰ってきたエンバーと同着だったからである。
「お久しぶりですね、エンバーさん。彼の稽古をしつつの旅路だったのでね、少し遅くなりました」
アルカはそう言って隣にいる青年を紹介する。
「私はダルイン・スココビです。Sランク冒険者のエンバーさんですよね、よろしくお願いします」
「よろしく。アルカ、結局弟子にすることにしたのね」
「いやー、僕は師匠とかそんなの柄じゃないから嫌なんですけどね。めんどくさいし」
アルカは困ったように頭をかく。
「でもダルイン君は呑み込みも早いし助かりましたよ。もう四法すべてを使えるようになりましたから。まあ、実践レベルとは言い難いですが」
ダルインと呼ばれた彼は褒められて嬉しいのか照れくさそうにしている。
「そう」
エンバーは意識を集中させダルインの気の流れを感じる。気の初心者って感じ。1ヵ月かからずにこのレベルなら、センスありってところかな。
「私も早いとこ弟子を育てないとね」
Sランク冒険者の仕事には後任の育成も含まれる。その為生きている間に引退したいなら1人以上は後任のSランク冒険者を育てる必要があるのだが、Sランク冒険者になりうる人材を見つけるのが難しい。それに加えてエンバーは結構選り好みをしていた。
「僕はダルイン君の件も踏まえて、ギルドマスターに報告に行こうと思いますが」
「私も行くわ」
オルフレンの街から先触れとして手紙で報告をしているが、迅速な口頭での報告は重要だ。特にSランク冒険者が関わるような事案は、数時間の報告の遅れが大きな被害をもたらす可能性すらあるのだ。
3人はそのままギルドの建物に入り、ギルドマスターの執務室に向かう。
王都のギルドマスターはオズル・カルドドと言う。ギルドマスターでありながら、ナディア国所属のSランク冒険者であり、その中でもナンバー1と言われる人物だ。要するにこの国最強という訳だ。
執務室に入ると先着が居たようだ。デカい図体にスキンヘッドの頭、全身に無駄についた筋肉、見ていて暑苦しい人物。Sランク冒険者のエドムスだ。
「おお!帰ったかエンバー!どうだった、ホラフラフの首都にはキレイに飛べたかい?」
エドムスが話しかけてくるが、暑苦しい。
エンバーはエドムスの能力によりホラフラフへとひとっ飛びで向かった。これによりナディア国のSランク冒険者は迅速は対応ができるため、他国からの救援要請が多い。ただし、エドムスの能力は片道切符なため帰りは自力で帰る必要がある。
「少し王都より北だったわよ。問題はなかったけど」
「ありゃ、もう少し右だったか。すまねぇ」
エドムスは気にした素振りもなく豪快に笑う。
「エドムス、そろそろよいか。アルカ、エンバー、報告を聞かせてくれ」
執務室に座るギルドマスターが口を開く。ギルドマスターに促されるまま、アルカとエンバーは報告をする。何度かギルドマスターから質問が挟まりつつ、2人とも報告を終えた。
「フフフッ!まさかな、予想はしていたが…クククッ」
報告を聞いたギルドマスターが、突如嬉しそうに笑い出す。
「ワシはな、かねてより迷宮について1つの説を考えていた。それはな…迷宮は、魔王は、転生するということ」
ギルドマスターの言葉に皆が驚愕する。
「そんなこと…」
「ない、とは言い切れんじゃろ?」
アルカの思わず出た言葉にギルドマスターが返す。ここにいるSランク冒険者はこれまでにいくつもの迷宮を攻略してきた。その中で似たような魔王に出会うことはある。だが魔王は人ではないため、我々には見分けがつかずそういう種族の別の個体だと思っていた。
「全ての迷宮がそうとは限らんが少なくとも、アルカとエンバーが対峙した魔王は同一人物、転生する魔王じゃ。迷宮内の様相は違うようじゃが、配下の魔物も同じディゾルヴアビス」
エンバーは思わず唾を飲み込んだ。
「転生するとすれば、エンバーの能力の影響下にあった魔王の発言の意味も分かる」
そうか。転生できるから「転生した次の魔王としてお前を殺す」という意味ならあの発現は嘘にはならない。
「ということはあの魔王は…」
「そうじゃな。この世界のどこかで、新しい迷宮として誕生しておるのだろうな」
エンバーはゾクリと震えることになる。あの時恐怖を感じなかった「お前を殺す」という言葉が今になってエンバーを襲う。もし何度でも転生できるなら、何度迷宮を攻略しあの魔王を倒そうとも、エンバーを殺すため襲ってくるということ。
「ま、待ってください!」
ここでダルインが声を上げる。
「お主はダルインじゃな。アルカよ、弟子にする気になったか。ワシが必死に見つけただけはあるな」
「師弟ではありません、そういうのめんどくさいんで。まぁ最後まで面倒は見ますけど」
「そうかそうか。で、ダルイン何かな?」
ダルインが遠慮がちに答える。
「確かに私たちが倒した魔王は、エンバーさんが倒した魔王と人型というだけでなく容姿の特徴まで似てはいます。ですが、アルカさんの前では一言も喋らなかったみたいですし、姿形は一緒でも中身が違う別の魔王という方が、転生するという考えよりは受け入れやすいのですが…」
ギルドマスターが顎に手を当て考える。
「Sランク冒険者たちの中に居ながら萎縮せず、なかなか鋭い指摘じゃな。さて、アルカが倒した魔王が喋らなかったという話じゃが…どうせアルカのことじゃ、喋る隙も与えず問答無用で瞬殺したんじゃろ?」
ギルドマスターに向けられた視線に、アルカが図星とばかりに顔を背ける。
「という訳で、喋れなかったのか喋れるが喋る隙が無かったのかは分からんし、中身が同一かまでは分からん。ダルインの言ったとおりかもしれんから、転生しているのが確定している訳でもない」
ギルドマスターが一呼吸おいて続ける。
「だがワシは自身の勘で転生していると確信しておる」
ギルドマスターそこまで言われてしまえば反論はできない。
「そしてその魔王は人類の脅威となる。これもワシの勘じゃ」
こういう時のギルドマスターの勘が当たる事を、ダルイン以外の付き合いのあるSランク冒険者メンバーは分かっていた。
「さて、国王陛下への報告書も作成済みじゃ。報告書ではこの魔王の名称を”悲劇を生む種”とし、国内外へ注意するように呼び掛けて貰うつもりじゃ」
ギルドマスターの言葉にエンバーが疑問を口にする。
「各国にある冒険者ギルド間での情報展開だけではなく、国レベルでの対応ということですか?」
「そうじゃな。この魔王、クルエルシードは意図的に迷宮の大暴走を起こす、冒険者だけでは対応できん」
ここでエドスムが口を挟む。
「ちょっと待てよ、マスター!俺はマスターの勘を信じてない訳じゃない、だが現状は余りにも不確定だ。今の段階でそこまで事を大きくしたら、間違いだった時首が飛ぶぞ!」
エドスムがギルドマスターを正面から見据える。ギルドマスターはそれを正面から受け止めると答える。
「フッ、勘違いでワシの首1つで治まるなら望むところ。人類とワシなど天秤にかける必要もないじゃろ」
ギルドマスターの言葉にエドスムが何か言おうとするが思いとどまる。
「ワシもそろそろ引退じゃ。最後の我儘と思ってくれ」
これ以上、反論する者はこの部屋に居なかった。




