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迷宮魔王クルエルシード  作者: 海老天ころも
第1章 迷宮誕生
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14 質問


 エンバーはアビと名乗る人に化けた魔物を、自身の能力の影響領域内に捕らえた。


「あなたの目的は何?」


 沈黙。アビの腕が伸びエンバーを捕らえようと迫る。


 それを躱し伸びた腕を殴りつける。気を纏った拳により、殴った箇所が吹き飛んだ。


「なぜ人に化ける?」


 沈黙。アビから酸の粘液が飛んでくるのを躱す。吹き飛ばしたアビの腕は再生していた。


「他に潜伏している魔物は居るか?」


 沈黙。アビの背後に回り、エンバーは構えを取る。


「さぁ!答えろ!」


 沈黙。アビは答えない。エンバーは拳を繰り出しアビの頭を吹き飛ばした。


 エンバーの能力は嘘をつけなくさせるだけ、自白させる効果はない。そのため相手が喋る気がなく、沈黙を貫いてしまえば、何も分からない。


「チッ!」


 エンバーは舌打ちをする。アビは死んでも一言も喋らないつもりだ。


 アビの体の気の流れを感じ大きく後ろに飛び退いた。直後、アビの頭のない首の切断面から粘液が飛び出してくる。ドロドロと溢れていき、一塊の大きなスライムになっても、更に肥大化していく。


「この空間を満たす程に膨らんで私を押しつぶす気?」


 エンバーは笑う。こいつはもういい。どうせ喋らない。迷宮に行けば他に喋るやつが居るはずだ。


 エンバーは錬身(れんしん)で体内の気を練り上げる。気は肉体に影響を及ぼし、肉体強度・身体能力その両方を飛躍的に高める。


 更に、右手に包武(ほうぶ)で気を纏わせ蓄積していく。体外に出た気は性質を変化させ、防具にも武器にもなる。今回で言えば武器、繰り出す拳の衝撃をそのまま伝えるイメージ。


 エンバーは気の適正により、四法の中でも錬身(れんしん)、包武(ほうぶ)を得意とする。未熟ゆえそれなりの溜めが必要となるが、この2つの組み合わせにより繰り出される攻撃の威力は、ナディアのSランク冒険者の中でも1、2を争う程。


「私に溜めの時間を与えること、其れ即ち敗北」


 アビがエンバーに迫る寸前、エンバーは引き絞った右拳を解き放つ。凄まじい威力の衝撃が前方にいるアビを塵も残さず吹き飛ばす。


 アビが消し飛んだ事で能力を解除する。裁判所は街の大通りへと姿を戻す。


「さて、迷宮を攻略しますか」


 勿論目指すは、この街の近くに新しく出来たという花畑の迷宮。


 ギルドで得ていた事前情報どおり、特に変わったところはない、普通の迷宮だ。


 到着した迷宮では弱い魔物が出るエリアを過ぎると、巨鳥が待ち構えていた。詳しくはないが、アビと同程度の魔物と思われる。


「ギャアアアッ!!」


 巨鳥が叫ぶと、エンバーの意識が混濁する。恐らく混乱系の付与持ち。


 慌ててエンバーは混乱耐性ポーション特級を取り出すと飲み干す。すぐに頭がクリアになる。


 状態異常等の特殊な攻撃は気では防げない。そのためSランク冒険者は一通りの耐性スキルは習得している。加えて熟練度が上がりきっていない耐性スキルについては、耐性ポーションを常備する事でカバーしている。


 エンバーも混乱耐性スキルを習得しており、熟練度は6。特級ポーションを飲むことで+5される為、最大の熟練度10に達する。


 さて、これで巨鳥の混乱攻撃は効かなくなった。見るからに喋らなさそうな見た目なので沈黙の法廷(サイレントコーツ)も使わない。


 エンバーは両腕に包武(ほうぶ)で気を纏うと、錬身(れんしん)で身体能力を強化し、巨鳥に向かって大きく飛び上がる。


 いきなり迫ってきたエンバーに、巨鳥は驚きつつも冷静に脚の爪で攻撃する。


 それをエンバーは左腕の包武(ほうぶ)により受け止める。そのまま左手で巨鳥の脚を捕まえる。


 脚を引き寄せ、右腕を繰り出した。右腕の気が貫くように放出されると、巨鳥の胸に拳ほどの風穴を開ける。


 態勢を崩した巨鳥が地面へと落下していく。巨鳥は地面に激突しそのまま動かなくなった。


 巨鳥を倒し、更に迷宮の奥へと進んでいく。


 最奥の部屋に辿り着き待ち構えていたのは人だった。


「私はこの迷宮の魔王だ」


 目の前の男は魔王を名乗る。恐らく本当に魔王なのだろう。


「人の姿をした魔王ですか、珍しい。初めて見ましたよ」


 エンバーは右手に裁判槌(ガベル)を取り出す。


「私はSランク冒険者エンバー。あなたを倒してこの迷宮を攻略します」


 エンバーの言葉に魔王が、エンバーの右手の裁判槌(ガベル)を指刺す。


「対話をお望みではないのか?私は構わんよ」


 エンバーは疑問に思う。なぜ、魔王は知っている。エンバーの能力と効果を。能力を使ったアビは倒したはずだ。もしや魔王はリアルタイムに配下の魔物とやり取りできるのだろうか。


 なぜ知っているかの理由は分からない。だが向こうが喋る気があるなら願ったり叶ったりだ。


 エンバーは裁判槌(ガベル)を地面に打ち鳴らす。すぐに周囲は裁判所へと姿を変える。


「さて、先に言っておこう。私は元人間だ。君達と一緒かは分からないけどね」


 能力を使った後の発言だ、すべて真実。少なくとも目の前の魔王はそれを真実だと思っている。


 迷宮の魔王が元人間?人が魔王になったということだろうか。いや本人がそう思っているだけかもしれない。


 魔王はそれ以上自分から話す気はないようだ。


「私から質問する。オルフレンの街に魔物を潜入させた目的はなんだ?」

「情報収集のためだった」


 情報取集。それは一度エンバーが否定したものだった。だが”だった”、なぜ過去形なのだ。


「”だった”とはどう言う意味だ?」

「察しが良いね。…新人冒険者になって迷宮に挑む、楽しかったんだ。宝箱の中身を弄って不正紛いな事をしてしまうぐらいにね」


 魔王は悲しそうに遠くを見る。


「気付いてしまったんだ。本当はそ(・)っ(・)ち(・)が良かったんだってね」


 魔王がエンバーを見る。


「良いね、Sランク冒険者?…いい気分だろう」

「だまれ、勝手に喋るな」


 エンバーは魔王のペースにのせられない為に、話を止める。


「次の質問だ。オルフレンの街に潜入させた魔物以外に、魔物を潜入させたか?」


 沈黙。


「答えろ。喋っていいから」


 沈黙。


 この質問には答える気がないか。恐らく他にも魔物を潜入させていたと考えるべきだな。


「では、2つの街に酸の雨を降らせたのと、オルフレンの街で冒険者が行方不明になった、犯人はおまえだな?」

「そうだ。私が指示して配下の魔物にやらせた」

「元人間と言ったが、なぜそんな事をする?」

「私が生きるため」


 生きるため。それはどういう意味だ。生きるためには迷宮の魔王は人を殺す必要があるというのだろうか。


 エンバーが考えを巡らせ次の質問が出てこないのを見ると魔王は喋りだす。


「この空間では嘘はつけない。つまり私の発言は真実だ。それを踏まえて最後に一言私から言おう」


 魔王は懐の剣を抜き、両手で逆手に持つ。エンバーは少し警戒する。


「…お前を殺す」


 その言葉と共に魔王は自身の胸に剣を突き刺した。


「何を…?!」


 魔王は血を流し、光となって消える。何もなくなった空間にカランっと魔核が転げ落ちる。


 エンバーは沈黙の法廷(サイレントコーツ)を解き、魔核を拾い上げる。


 確かに言った「お前を殺す」と、だがその直後に自死した。自分がこれから死ぬのに「お前を殺す」という言葉は嘘ではない。


 それが指し示す意味は…死んでもお前を殺せるということ。


 エンバーは魔核を強く握りしめるのだった。


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