13 スキル
ここは魔物ゴブリンが大量に湧いている迷宮。
「スキル!剛腕!」
オレンの叫びと共に剣が振り下ろされ、目の前のゴブリンが真っ二つに斬り裂かれる。
「スキル名言う必要無いのに」
「だって必殺技っぽくてかっこいいだろ!」
アビの言葉にオレンが反論する。
迷宮で手に入るスクロールというアイテム。これを使えばスキルを習得できる。
スキル剛腕、瞬間的に筋力値が上昇するスキルだ。オレンはこのスキルのスクロールを宝箱から手に入れ、スキル剛腕を習得していた。
「でもちょっと分かるな〜。アタシの“剥ぎ取り”は技っぽくないしさ」
リレクが倒れたゴブリンから素材を短剣で剥ぎ取りながらそう言う。
「でもまさかあの花畑の迷宮でスクロールが2連続出るなんて、めちゃくちゃ私達幸運よね」
ナルミがしみじみと言う。
「しかも俺とリレクにピッタリのスキルだよな」
「えーアタシはもっと攻撃のスキルとかが良かったよ!」
どうやらオレンは満足しているが、リレクは満足していないらしい。
ナルミはこの迷宮の地図を広げる。
「この先にゴブリンの進化したホブゴブリンが居て、そこに宝箱があるみたい」
「行ってみよーぜ!結構レベル上がったしさ、アビ無しでも俺達で倒せるんじゃないか!」
オレンの言葉にナルミとリレクが賛同する。
「アビ、私達が危なくなったら助けてね」
「分かった、それまで手は出さない」
4人は奥へと進み広い部屋へと出る。部屋にはゴブリンを人のサイズまで大きくしたような魔物ホブゴブリンが居た。手には大きな棍棒を持っている。
「ウガァアア!」
こちらに気付くとホブゴブリンが唾を飛ばしながら雄叫びを上げる。
オレンが前に出る。オレンにとっては始めて武器を持つ相手だ。
真っ先に仕掛けたのはオレン。近付きながら剣を振る。ホブゴブリンは剣に合わせるように自身の棍棒を振るう。
剣と棍棒が交わるが棍棒の重量に負けて剣が吹き飛ばされる。オレンの握力が足りなかったらしい。
更にもう一度棍棒が振り上げられ、無防備なオレンに向かって振り下ろされる。
「オレン!」
ナルミの悲鳴のような叫びが響く。
「剛腕ッ!」
オレンの気合の入った声とともに、オレンは両手で棍棒を受け止める。
ナルミがハッとしてすぐさま火魔法を出す。子どものオレンから背丈で頭1つ飛び出たホブゴブリンの顔に向かって火の玉が飛んでいく。
見事に命中しホブゴブリンの顔が燃える。その隙に背後に回ったリレクが背中から短剣を突き刺した。
リレクは突き刺した短剣を抜きもう一刺ししようとするが、苦しみで無我夢中で暴れたホブゴブリンの腕により吹き飛ばされる。
その間に剣を拾ったオレクがホブゴブリンに斬りかかる。ようやく顔の火が消えたホブゴブリンの目の前には迫る刀身があった。
「剛腕ッ!!!」
オレクの剣がホブゴブリンの頭に深く斬り刺さり頭を割る。ホブゴブリンは血を流しそのまま後ろへ倒れるのだった。
「ハァハァ、やったぞ!俺達だけで倒したぞ!」
拳を掲げるオレクに、ナルミとリレクが駆け寄った。
「本当に私達だけで倒せた!」
「アタシ達強くなってる!」
盛り上がる3人をアビ吉は静かに見守った。
落ち着いた3人は武器や装備についた血を拭うと、ホブゴブリンの素材を剥ぎ取り、宝箱を開けるべく近付いた。
「またスクロールだったら最高だな!」
「本当はスクロールなんて滅多に出ないらしいからね」
オレクが期待を込めて宝箱を開ける。中に入っていたのは黄緑の液体の入った小さな瓶だった。
「これって…回復ポーションだよね」
出てきたのは回復ポーションだった。
「しかも瓶の見た目的に3級ポーションだよね。市場で安くよく売ってるやつ」
「そうね。市場であの価格なら買取額は期待できないかもね」
ポーション系のアイテムは3級から1級と特級の4段階のグレードがある。3級の回復ポーションは迷宮産の薬草があればスキル調合を使えば簡単に作れるため、薬草の取れる迷宮が確保され、スキル調合を持つ生産職が大量に3級回復ポーションを生産することで、市場に安定供給されていた。
「何だ、ハズレかぁ〜」
オレクはつまんなそうにそう呟く。
「売ってもそんなにお金にならないし、さっきホブゴブリンに吹き飛ばされてたリレクが飲んでみたら?」
ナルミが宝箱から回復ポーションを取り出すと、リレクに渡す。
「凄い痛みがあるって訳じゃないけど、試しに飲んでみようかな」
リレクは回復ポーションの栓を抜くと飲み干した。
「おお!凄い体が元気になった気がする!」
リレクは感動したように肩を回す。
こうしてゴブリンの出る迷宮を出た4人は、街に戻り取れた素材を換金した。
「はい、アビの分」
換金し終えたお金は綺麗に4等分し、アビ吉にも分前が配られる。
「いつもアビに助けてもらってばっかだったけど、今日は俺ら3人役に立てたよな」
オレンの言葉にアビが頷いた。
「いいのかな。絶対アビはもっと強い人と組んだらすぐにランクアップできると思うんだけどな」
「何言ってんだよ、ナルミ!そ、そんなの俺たちが強くなればいい話だろ!」
ナルミの言葉にオレンが怒る。
「私は無理だよ~、アビみたいに強くなれる自信ないよ。リレクもそう思うでしょ?」
「アタシは全然強くなるつもりだよ!」
「ええ~」
リレクの言葉にナルミは私も強くならないといけないのかと肩を落とす。
「絶対アビに追いついて、強い魔物も倒せるようになってやるからさ。俺たちと一緒にずっと戦ってくれよな」
そう言ってオレンはアビ吉の背中を叩く。少し背の高いオレンを見上げてアビ吉は頷き了承するのだった。
「んじゃ、アビまた明日な!」
「アビ、バイバイ〜」
「明日も頑張ろうね」
「ん、バイバイ」
アビ吉以外の3人は同じ宿に泊まっているらしく、いつもここで3人とアビ吉は別れる事になる。
アビ吉は3人に手を降り、自身の泊まる宿のある方へ歩き出す。
「明日は鉱石の取れる迷宮に行くんだっけ?」
「ピッケル用意しないとだね」
「何の魔物が出るのかな?」
背後から聞こえる3人の話し声が少しずつ遠ざかっていく。建物と建物の隙間から差し込む夕日を超えて歩いていく。
「ねぇ、何で魔物が街に居るの?」
驚くほどハッキリと聞こえた声にアビ吉は驚き振り返る。そこには1人の女性が立っていた。
瞬間的に戦闘態勢へと移るアビ吉。頭の中では、ここで目の前の人物を殺すか、すぐさまワープで撤退するか。その選択の思考をした刹那、女性の手に裁判槌が現れる。
「逃さない」
女性が裁判槌を地面に打ち鳴らす。
すると街の大通りが裁判所へと姿を変える。そこには女性とアビ吉しかいない。
未知、即ち撤退。すぐさまアビ吉はワープで逃げようとするが、体が動かない。
「沈黙の法廷。ここではすべての発言・行動に偽りが許されない」
女性は静かに語る。
「逃げる、隠れる、裏をかく、意表を突く、全て偽りの行動」
女性の言葉のとおり、正面からまっすぐ攻撃することしかできないなら、正面から叩き潰すだけ。アビ吉は全力戦闘に切り替える。




