12 来訪
「オルフレン…ですか?」
目の前の人物が疑問の声を上げる。
エンバーは呆れたようにため息を吐き説明する。
「オルフレンの街の近くで新しい迷宮が発見される。オルフレンの街で数日のうちに上位冒険者が何人も行方不明。オルフレンから最も離れた街に酸の雨が降り、1000人程が亡くなる災害が起きた」
そこまで説明してエンバーは目の前の人物をギロリと睨む。
「オルフレンの街が怪しい、何ならオルフレンの街の近くにできた新しい迷宮が怪しい。そう考えるに決まってるでしょ」
エンバー。彼女はナディア国のSランク冒険者である。ホラフラフ共和国内で酸の雨により1000人近くが亡くなるという事件が起きた。これによりホラフラフ共和国の冒険者ギルドが、ナディア国の冒険者ギルドに要請を出し、ホラフラフ共和国の首都の冒険者ギルドにエンバーはやって来ていたのだ。
ホラフラフ共和国首都の冒険者ギルド、そのギルドマスターである目の前の人物。彼が酸の雨の降った街に行く手段の話をし始めたので、苛立ちながらオルフレンに行くとエンバーが言ったのである。
「ここに来てすぐ国内の各ギルドからの報告書を読んだから、すぐにオルフレンが怪しいと分かったわ。もしかして…」
ギルドマスターがゴクリと唾を飲み込む。
「ホラフラフ共和国のギルド本部ギルドマスターでありながら、報告書を読んでないなんてこと無いわよね?」
「も、勿論読んでま…」
ギルドマスターが最後まで言い切る前に、エンバーは右手に突如現れた裁判槌をテーブルに打ち鳴らす。
ギルドマスターの執務室だった部屋が、たちまち裁判所に姿を変える。
「さぁギルドマスター。もう一度答えて頂戴」
ギルドマスターは先程と同じように答えようとするが、口が開かず一言も発せられない。
「そう、十分分かったわ」
エンバーは失望し、ギルドマスターに蔑みの目を向ける。
「私が何よりも嫌うものは“嘘”。この部屋では決して嘘はつけない。真実か沈黙、あなたの答えは沈黙。戻ったらあなたの事は報告させてもらいます」
エンバーの右手から裁判槌が消えると同時に、裁判所は元の執務室へと変わる。
「ま、待って欲しい!エンバー殿!」
ギルドマスターが叫ぶが、エンバーは決して許さず、静かに睨みつける。
「要請のあったホラフラフ共和国の問題は解決する、邪魔はしないで。それが終わればあなたには、調査の上何かしらの処分が降されるでしょうね」
エンバーはそれだけ言うと執務室を出ていった。
残されたギルドマスターはただ立ち尽くし、逃げるか処罰を受け入れるか頭を悩ますのだった。
◇◇◇
オルフレンの街にある冒険者ギルドに到着したエンバーはギルドマスターと会っていた。
首都のギルドマスターと違い、オルフレンのギルドマスターは信頼に足る人物である事はすぐに分かった。
「Aランク3名、Bランク6名が行方不明となりました。Aランクに至ってはこの街から居なくなってしまいましたから、ギルドとしては死活問題です。冒険者の消息が分からなくなる事はよくあることとは言え、数日のうちにこの人数、それもベテランの冒険者ばかりが消えるのは異常事態としか言えません」
ギルドマスターの丁寧な報告を、エンバーは静かに聞き終えると口を開く。
「私の考えではこの街の近くに新しくできた迷宮が全ての元凶と考えております。迷宮の魔物が外に出て厄災を振りまいているのです」
「それはつまり迷宮の大暴走と言うことですか?ですが迷宮の大暴走は…」
エンバーの言葉にギルドマスターが困惑する。
迷宮の大暴走とは、長年攻略されずにあった迷宮が何かの拍子に魔物達が迷宮外に出て周囲の村や街を襲う現象だ。暴走の名のとおり統率もされずただ周囲の人々を襲うだけ。
「通常の迷宮の大暴走とは違うのは確かです。ナディア国でも少し前に迷宮の大暴走で迷宮外に出た魔物が迷宮に引き返すという現象が起きております」
「そんな事が…」
「今、私達のこれまでの迷宮の知識では図れない異常が起きているということです」
それを聞いてギルドマスターが真っ先に考えるのは街の安全であった。
「ですが、その元凶と言われた迷宮を攻略すれば…」
「ええ、今起きている問題は解決されるでしょう」
ギルドマスターは安堵する。
「しかし、攻略まで1週間猶予を頂きたい。今後の人類のためにも今起きている現象の調査をしなければいけない」
「1週間…」
「Sランク冒険者である私であれば迷宮の攻略は確実です」
ギルドマスターは少し動揺するが覚悟を決める。
「承知しました。1週間後迷宮攻略をお願いします」
エンバーは最後にギルドマスターと握手を交わすと冒険者ギルドを出ていった。
エンバーは路地裏に入ると気で気配を消す。素早く移動し目当てのモノを見つける。
視線の先に居るのは子ども4人。Dランク冒険者チーム『魔王様』。ふざけた名前をつけたチーム、その中の無表情の少女アビ。アイツは人間じゃない、魔物だ。見た目は完璧に人に擬態してるようだけど、気の流れを感じればすぐに分かる。
この街に来てすぐに奴に気付いた。だからこそギルドマスターに1週間の猶予を作ってもらったのだ。
なぜ、迷宮の魔物が人に化けて、一生懸命冒険者ごっこをしているのか。酸の雨は分からないが、この街の冒険者行方不明の犯人は恐らくコイツ。その意図と目的を1週間かけて調査する。
私はかなり我慢強い。1週間の間で目の前で人が殺されようが、その先にある真実を見定めるまでは潜み監視し続ける。
アビを監視し始めて2日目の夜、アビはとあるBランク冒険者を襲った。恐らく空間移動能力を持っており冒険者を何処かへと連れ去った。やはり冒険者行方不明の犯人はコイツだ。
そして空間移動能力を持っているということは、遠くの街で起きた酸の雨にもコイツは関わっているだろう。
魔物が人を襲うのはそういうモノだから。だけどコイツには人に近い知性がある。進化するに連れ魔物は知性がつくのは知っている。だが人に化けて不自然でないほど、高知能に進化した魔物は私は見たことがない。
目的は何だ。なぜ、人に化ける?なぜ、昼間はただの冒険者となり弱い仲間と活動する?目的が見えない。
人類の情報収集だろうか。にしては動きがない。情報収集ならもっと効率よく動けるはずだ。呑気に初心者冒険者として依頼を受けなくても良いはず。
もしやコイツは囮?堂々と潜入することで囮になっているのか。だが少なくともこの街に他に魔物はいない。他の街か、だとしたら私1人では見つけられない。
1週間という期限もある以上、コイツの監視に集中すべき。
最終日の7日目に、2日前に新たに別の街に酸の雨が降り1000人近くが亡くなったという知らせが入った。
ヤツが冒険者を襲ったのは3回。それ以外の夜は宿に入りすぐに空間移動能力でどかへ行った。迷宮に帰ったのかと思っていたが、2日前に別の街を襲いに行っていたのか。
仕方ない、期限だ。私の能力は自白させるものではないが、直接対決で聞き出すしかないだろう。




