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迷宮魔王クルエルシード  作者: 海老天ころも
第1章 迷宮誕生
11/33

11 魔王様


 上手くいった。アビ吉による街の襲撃により大量のポイントをゲットできた。


 選んだ街は、この迷宮のあるオルフレンの街からみて、最も遠くにある国境の街。街直上の空、凡そ高度5000m付近に、アビ吉がワープで出現。自由落下により地上に着くまでの1分半ほどの間、全方位に向かって全力で酸を巻き散らす。地面に激突する前にアビ吉はワープで撤退する。街にはすぐに酸の雨が降り注ぐ。雨と比較しても量はそんなにない。しかし一滴当たれば一般人は致命傷となる。街の屋根のない場所に居た1000人近くを死に至らしめることに成功した。


 アビ吉が姿を現し直接攻撃したわけではなく、酸の雨が降っただけ。魔物の仕業とは思われないだろう。気付かれたとしても、この迷宮からはかなり離れた街だ。紐づけることはできない。


 今回の襲撃は成功、いや大成功といえよう。


 早速手に入れたポイントを使ってレイ川とアル村を進化させた。余ったポイントでレベルを上げて、アビ吉、レイ川、アル村はレベル60になり、ポケ次郎とピヨ倉はレベル20となった。


 レイ川は進化してヴァルキリーレイダーになった。名前はそのままレイ川らしい。


 ヴァルキリーレイダーは、銀の鎧のような外骨格を持つ漆黒の巨鳥。その鳴き声により敵を狂乱状態にさせるため、鳴き声を聞いた集団は敵味方の区別を失って血みどろの殺し合いを始める。勿論デスレイヴンのときのバッファーとしての能力は健在だ。


 アル村は進化してクインアラクネになった。名前はアラ村らしい。


 クインアラクネは上半身に完璧な人の全身があり、下半身が巨大な蜘蛛の体が付いている姿をした傀儡の女帝。人形や死体だけでなく、生きている人間すら自我を残したまま肉体を操ることができる。


 進化したレイ川は頭を垂れる。


「我が主、魔王様。この命、すべてあなた様を称え、敵を断罪するために捧げます」

「レイ川も喋れるようになったのか、良い誤算だ。これからよろしくな」


 アラ村は自身の蜘蛛の下半身をどうやったのか消し去ると、完全な人の姿となりその場で跪く。


「魔王様、ついにこの声をお届けできます。これからは言葉でも、あなた様をお支えいたします」

「ここ数日の献身感謝している。アラ村もこれからよろしくな」


 完全な鳥の見た目であるレイ村が喋れたことでポケ次郎も進化すれば喋れるのかもしれない。というかもしかしたらどんな魔物も最終進化まで進化すると喋れるようになるのかもしれないな。


 そしてレイ川もアラ村も、アビ吉よりは知恵が回りそうだ。戦略的な相談も出来そうなのでありがたい。この2人には私の考えを伝えておくべきかもしれないな。


「さて、早速だが私が考えている今後の方針を言っておこう。今回の襲撃の方法であれば、この迷宮が攻略されずに1つずつ街を襲撃すれば確実にポイントが手に入る。そのため今回のように定期的にバレないような襲撃を行っていくのが方針その1。この国にはSランク冒険者が居ないことから大規模な襲撃があっても、他国からSランク冒険者を呼び寄せるまでに時間がかかる。だから攻略されることを覚悟で大規模な襲撃で一気にポイントを稼ぎに行くのが方針その2。これが今回の襲撃前に考えていた方針2つだ」


 ここまで言って私は一拍置いて話を続ける。


「だがこの2つは攻撃的な方針だ。正直、あと一度街を襲撃すればポケ次郎とピヨ倉を最終進化まで持っていける分のポイントは稼げる事が分かった。これ以上、ポイントを稼いでも次回の迷宮に持ち越せない」


 ここでアラ村が手を上げ発言をする許可を求める。これからは許可なく発言していいことを伝えつつ発言を促す。


「私の進化前の記憶で、アビ吉への指示の内容から、今回の目的はあくまで情報取集と理解しています」

「ああ、その通りだ。改めて今回の目標は言えば、主に冒険者に関する人間たちの情報取集、特に未知の脅威となっているSランク冒険者についての情報だ。それともう一つ、配下の魔物を最終進化まで持っていくこと。この2つが現状から言える今回での目標だ」


 ポイントを稼ぐ事が出来るのは分かったため、後者の目標は近々達成できるだろう。まぁ実際にポイントを稼いだ後にすぐに進化させるかは分からないが。


 この前者の目標が正直難しい。今はアビ吉が新人冒険者として実際に体験することで冒険者やギルドの情報を得てはいるが亀の歩みであり、長期的な戦いになるだろう。そして情報取集の中で特に重要視しているSランク冒険者についての情報は、取っ掛かりすら見つけられずどうしたら良いか分からない状態にある。


「では、アビ吉と同じように私も人に紛れ情報取集したいと思います。いかがでしょうか?」

「私はアビ吉の方を視界共有で見ることになるから、細かい指示はできないと思うが大丈夫か?」


 自分で言いながらアビ吉と違い、アラ村は支持無くても出来そうな気がするなと思った。


「問題ありません」

「では、迷宮の最終防衛はレイ川に任せ、アラ村には迷宮外での活動をしてもらおう。そしてアビ吉には期を見てまた街の襲撃をさせる」


 最後にレイ川に視線をやるが異論はないようで大きく頷いた。


 やはり1人で考え込むよりも他人の意見がある方が考えがまとまるな。



◇◇◇



 木の剣の4人は武具屋に来ていた。4人ともDランクにランクアップし、サイコピヨンの羽の売却益や新しい迷宮を見つけた報奨金を使って真っ当な装備を手に入れるためだ。


「おお!なんだコレ!かっけぇ!」


 オレンが武具屋の棚に掛けられた高そうな剣を見て目を輝かせる。


「オレン、ダメよ。そんなの買ったら他の装備が変えないじゃない」

「分かってるよ、買うなんて言ってねーだろ」


 オレンは大人しく安物の剣を物色し始める。


「アタシはこれにしようかな」


 リレクはもう武器を決めたらしく、鉄製の短剣を手に取りじっくり見ていた。


「私は魔法が使えるようになったし、取り敢えず武器よりも防具をしっかりしたものにしようかな」


 ナルミは武器の置いてあるエリアを通り過ぎ、防具の置いてあるエリアへと移動する。


「んん〜、分かんねぇ。剣って色々あり過ぎだろ!」


 色んな剣を見て頭を抱えるオレンにアビ吉が近付く。


「オレンの武器はこれにすると良い」


 アビ吉が指差したのは片手用直剣。


「オレンはまだ体が出来てないし、大人用の両手剣は扱いづらいと思う。それから初めての剣が変わったものだと変な癖がついちゃうから素直に選ぶほうが良い」


 アビ吉の言葉にオレンが感心する。


「おー、なるほどな!よっしゃ、俺これにするぜ」


 オレンはアビ吉が選んだ片手用直剣を手にする。


「片手用だけど結構重いな。両手じゃないと振れないや」

「もう少しレベルが上がれば片手で振れるようになるんじゃない?」


 選び終わったらしいリレクが短剣片手にオレンに言う。


「確かにな、すぐ強くなってやるぜ!」

「そう言えば、アビは武器選ばなくていいの?」

「僕には必要ない」

「そうなの?アビが倒した魔物で手に入ったお金なのに申し訳ないね」


 リレクが申し訳なさそうに頭を掻く。オレンは特に気にした様子はない。


 こうしてアビ吉以外の3人は武器と余ったお金で防具を購入し、武具屋を出た。


「そう言えば俺達さ。もう木の剣じゃなくなっちまったけど、チーム名どうするよ?」


 オレンの言葉にナルミとリレクが確かにと同意する。


「武器買えるくらい稼げるようになるまで、もっとかかると思ってたよ」

「本当にアビのおかげだね。そうだ、アビに新しいチーム名を考えてもらうってのは?」


 ナルミの提案にオレンとリレクが良いねと賛同する。


「ん?僕が決めていいならチーム“魔王様”で」


 冒険者にとって魔王といえば迷宮の主の事である。アビ吉以外の3人に唖然とする。


 この時実は、武具屋で購入交渉をし始めたあたりから、魔王様は他配下と話をし始めた為、視界共有で見ておらず詳細な指示が飛んできていなかったのである。


 微妙な空気を切り裂くようにオレンが笑い出す。


「ハハハッ!良いねその名前!絶対他のチームと被らないよ!」

「ちょっと。確かに被らないだろうけどそんな名前で申請通るのかな…」


 シシブチの事を思い浮かべナルミは頭を抱える。


「アビに決めてもらうって決めたんだ。これでいいじゃん!通らなかったらまた考えようぜ」


 そう言ってオレンは笑うのだった。


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