02 3度目の正直
痛いものは痛い。いつまでも死ぬのは慣れないものだ。
3回目の迷宮は見渡す限り木が生えた森の中だった。画面を確認すれば『陰森の迷宮』らしい。
陰森の迷宮の3体の魔物の中からマルグモを召喚しお気に入り登録した。マルグモを選んだ理由はゲームの時の進化先を、3体の中で唯一覚えていたから。
マルグモは、サッカーボール程のモコモコの丸い身体から6足の脚が生えた蜘蛛型の魔物だ。名前はマル村というようだ。
さて3回目も2回目とやる事は変わらない。お気に入り登録した魔物に初期ポイントを全て注ぎ込み強くする。
今回も生成できるだけ魔石を生成し、魔物達に与える。スラ吉はレベル18、マル村はレベル20となった。2回目の進化はレベル40となるが、レベル20以降必要となる魔石が異なり、要求されるポイントが高いため今回は生成していない。バミ川は進化先に思うところがあり一旦マル村が進化できるように優先して魔石を与えた。
早速マル村を進化させ、マルグモからオオグモへと進化した。ついでに名前がオオ村へと変わっていた。
オオグモに進化したオオ村は、豚ぐらいの大きさにサイズアップ。丸い胴体が硬い外殻に覆われ強そうな見た目になった。
残ったポイントで前回と同じように皮の鎧と錆びた剣を生成する。
これで3回目の初期ポイントの消費が終わった。
ここで侵入者の気配を感知する。1回目よりも早い来訪だ。すぐさま意識を迷宮入口へと向ける。侵入者は2名。
「ねぇ、なんか変だよ。帰ろうよ」
「マアラ、これ迷宮だよ!さっきの声聞いただろ?」
「迷宮ってあの迷宮?」
「そうだよ。おじさんたちが言ってだろ、迷宮を攻略すれば大金が手に入るって。行くぞ!」
「ちょっと、待ってよ」
入口にいたのは幼い少年と少女だった。武器と呼べるのは少年の持つ木の枝のみ。
絶対にやる。侵入者を倒せばダンジョンポイントが獲得できる。こんな好機逃すわけには行かない。
「ほら、魔物もいない。昼前に来た時はこんなの無かったんだ、できたての迷宮だよ」
少年は意気揚々と木の枝を振り回しながら迷宮の奥へと進んでいく。
少年と少女が最奥へとたどり着いた時、2人をバミ川に大袈裟に襲わせた。
「キャー!」
少女の悲鳴が上がる。
その隙に、地面以外もアクロバットに動けるオオ村に指示を出し、侵入者の退路に立ち塞がるように動かす。
絶対に逃さない。子どもだろうが、自分の勝ちは全力で取りに行く。
バミ川が襲うのをやめた次の瞬間には、スラ吉が少年の顔に向かって酸を吹きかける。
「ああ!目が、目がぁ!いだいぃ!」
少年は枝を放り投げ手で目元を覆いのたうち回る。酸がこびり付き顔の皮膚も溶け始めている。
「エドくん!」
少女が少年に駆け寄るが、少年はもはや声にもならないうめき声を上げながら、のたうち回り続ける。
これは私の役目だろう。今こそ魔王としての覚悟を決める時だ。
私は木の幹でできた迷宮の壁の凹みから姿を表し、少年に近づき抜刀する。
少女が飛び出し少年を守るように立ちはだかる。
「やめて!」
「どけ。そいつはもう助からない、余計な苦しみを与えるべきではない」
私は少女を押しのけ、剣を逆手に構えると地面に突き立てるように、少年に刃を突き刺した。
体重を乗せた剣は、少年の胸を貫き地面まで突き刺さる。すぐに少年は動かなくなった。
「嫌ぁ!エドくん!エドくん!」
剣を引き抜いた少年の体に、涙を流しながら少女が駆け寄る。何度も身体を揺らし続けている。
私は再び剣を構えると目一杯の力で振り下ろした。少女の首は力で無理やり引きちぎられるような形で切り離された。
周囲に飛び散る血は私の身体にも吹きかかっている。頬に付いた血を拭う。
私は魔王。迷宮の主として侵入者を無慈悲に無き者とし糧とする。そう、私は魔王。
埋葬もしない。これから幾千幾万と刈り取る命の1つに過ぎないのだから。
私は静かにその光景を目に焼き付けるのだった。
その後、死体となった肉体はスラ吉とバミ川が美味しくいただいた。
その夜、私の迷宮に松明を持った男たちが押し寄せるのだった。
少年少女の村の大人たちのようだった。
いつまでも帰ってこない子どもたちを探しに来て、この迷宮を見つけたのだろう。
集団で入ってくる前に迎撃の準備を整えておこう。丁度侵入者2人を倒して得たダンジョンポイントがある。更に初めて侵入者を倒した事で、ギミック開発ができるようになった。
ギミック開発とは迷宮に設置するギミックを開発できるのだ。ギミックにはそれぞれ隠れたロック解除条件があり、何かの拍子にロック解除される。このギミック開発もリセット時の引き継ぎ要素で、開発したギミックは次回も開発済みとして、すぐにギミックを設置できるようになる。
今開発できるのは『落とし穴』と『宝箱』と『自動POP』だ。
落とし穴は踏めば床が抜ける単純なギミックだ。
宝箱は特定のアイテムや装備を設定しておけば、侵入者が開けたときに箱の中にダンジョンポイントを消費して自動で、設定したアイテムや装備を生成してくれるギミックだ。
自動POPは宝箱と同じように魔物を設定しておけば、その魔物をダンジョンポイントを消費して自動で召喚し、倒されば再び自動で魔物を召喚してくれるギミックだ。
少しの間考えてギミック開発は見送る事にする。これらのギミックでは勝てる未来が見えなかった。迷宮物語において最後に必要となるのは魔物の個としての強さだ。
丁度獲得したポイントをすべて使えば、スラ吉をレベル40にでき、2回目の進化が可能になる。進化先を考えると本当はオオ村を進化させたいがポイントが足りない。
早速スラ吉に魔石を与え40レベルにして進化させる。アシッドスライムからコーロシブジェルに進化した。名前はシブ吉。
進化したシブ吉は、かなり大きくなりサイズは私の身長程ある。酸が強化され、酸を霧のような気体の状態で放出することが可能になった。また液体のままであれば金属も溶かすほどに威力が上がった。
残りのなけなしのポイントを使いきり、迷宮の空間を少し改造する。1つはシブ吉が隠れられる程度の穴を、迷宮の壁に開ける。もう1つは通路に2.5メートル程の崖を用意した。
準備が整い終わった後、村の大人たちが松明と武器を携え、迷宮内に押し寄せてきた。
侵入してきたのは12人。集団で迷宮の奥へと進んでいく。やがて彼らは足を止める。先程作った崖の場所だ。進むにはこの崖を降りなければならない。そこまで高くないため降りたとしても、大人2人で協力すれば難なく上に戻れる高さだ。
彼らは少し話し合った後、崖を降り始めた。侵入者全員が崖を降りた所で、付近の壁の穴に潜ませていたシブ吉に酸の霧を全開で出すように指示を出す。
プシューという音と共に壁の穴から迷宮の通路に酸の霧が噴出される。侵入者たちはすぐに異変に気付く。
肌が少し日焼けしたようにヒリヒリとし始めたかと思うと、大きく咳き込む。喉と胸が焼けるような痛みに襲われる。
こんな時、進む選択肢を取れる者は少ない。大抵は安全な来た道を引き返す。案の定、侵入者たちは慌てて引き返そうとするが、そこには崖がある。幅も狭く1人づつしか上にあがれない。
侵入者は1人が肩車する形で、1人を崖の上にのぼらせる。しかし霧はどんどん濃くなっていく。1人倒れ、また1人倒れる。結局崖の上には2人しか上がれず、10人は崖下の酸の霧の中に取り残される状態となった。
崖の上にあがれた2人は他の人を諦めて迷宮を脱出した。
残った10人にはしっかり10人分のポイントを獲得するまで、酸の霧を浴びせ続けるのだった。
やったぞ、これでかなりのダンジョンポイントが手に入った。早速、魔物達の強化とギミック開発をしよう。
まずはポイントを使ってロック解除された3つのギミックを開発する。
そして残りのポイントで魔石を生成する。シブ吉とオオ村をレベル40にした。これでオオ村が進化可能になったため進化させる。
オオグモからバインドグモになり、熊並にサイズアップ。鋼鉄並みの糸を生み出し、敵を捉える事ができるようになった。名前はバイ村らしい。
バイ村には更に魔石を与えレベル30まで強化する。
残りポイントで次回に引き継がれないが、迷宮の改造を行う。改造方針は、迷宮前半は弱い魔物と宝箱しかないエリアにして、後半は強い魔物と落とし穴で難関エリアにする。
侵入者を2人逃がしてしまったから、どんな迷宮か知られた状態で次は冒険者が来ることだろう。ここで、攻略するのに労力が掛かりそうだが、放置していても危険ではなく、寧ろ恩恵がある迷宮だと思わせたい。




